第38話 厄介な指名依頼
「ふぅ……」
赤の艦隊。
いくらこの時期呼べる援軍が、彼らしかいなかったとして頼むべきではなかったわね……。
新人社員である加藤さんに、宇宙海賊に対する遭遇体験を実施しようと、今回の依頼を紹介したが、援軍に呼べるところがなかった。
銀河警察は、宇宙海賊が出てからじゃないと動かないし、うちの会社が所有している警護会社は予定が詰まっていて出せないとのことで、困っていた。
そこで、私の知り合いから赤の艦隊の隊員に連絡。
そこから隊長に話を通してくれて、加藤さんの援軍に出てくれることになった。
……ただし、ある依頼を受けてもらう代わりにだ。
「代わりに受けた依頼が、コレの運搬ですか……」
「はい……。
申し訳ございません、私の判断でこんなことに……」
私の前にいる女性が、少し嫌な顔をしながら、代わりに受けることになった依頼の内容を確かめている。
金色の長い髪をポニーテールにした、見た目だけなら二十代で通じる女性。
丸眼鏡をかけ、何度も読み返しているようだ。
「いつもなら、ナンシーがコレの運搬に同意するわけない事は分かっているから。それだけ、今回の新人は期待できるってことでしょ?」
「本当に、シャロンさんにはご迷惑をかけ通しで……」
「フフ、気にしないでナンシー。
私たち上の人間は、下からの迷惑なんて当たり前だと思っているから、ね?」
シャロンさんは、私の直属の上司にあたる。
宇宙運搬会社『ショルフダール』は、大きな運搬会社だ。その規模は運搬業を中心に多岐にわたっている。
また、運搬業務は、依頼を会社がまとめて受けた後、シャロンさんのような役員に持ち込まれ、私たち班長と呼ばれる人へ振り分けられる。
そして、私たち班長が、班の部下へと依頼を頼む形だ。
また、会社に持ち込まれる依頼は数が膨大で、そこに指名で依頼をしてくるものもあるのだから、全部を把握するのは大変なのだ。
シャロンさんの下には私を含めて、約三十人の班長がいて、それぞれに依頼を振り分けたり相談にのったりしてもらうのだ。
「でもナンシー、コレの運搬は誰に任せるか決めたの?」
「……はい、私は新人の加藤さんに任せようかと……」
「……知識のない新人なら、被害を最小限に抑えられる、てところ?」
「……」
赤の艦隊からの依頼、それはあるものの運搬。
それは、コールドスリープによって眠らされた一人の少女を、惑星『ケルナー』に投下すること。
勿論、凍らせたものをそのままではなく、投下用コンテナに入れて投下することになる。
惑星『ケルナー』がどんなところかは、これから加藤さんに話さなくてはいけないだろう。
いや、私が渡す資料に記載しなければいけないだろう。
「ナンシー、あなたが信用している部下なら、大丈夫なんだろう?
信じてあげなさい、新人を。
壊れることはないでしょう、このくらいの依頼でなら……」
シャロンさんの言うことももっともだ。
世の中、とんでもない運搬の依頼が存在している。
そんな依頼を通して、精神を病んでしまう人も少なくない。
今回の依頼、加藤さんなら大丈夫と思いたい……。
▽ ▽
行商人の姉妹に挨拶をして、俺たちは次の依頼のために亜空間長距離ワープを使った。
それにしても、あの姉妹、喜んでいたな。
俺たちが運んだ、新造の宇宙戦艦の一隻を買い取ることが出て、ますます行商に力を入れられるって。
「で、次の依頼がコレなんですね?」
『ええ、赤の艦隊の中継基地にあたる『ブローグ』へ行き、投下用コンテナを受けとって。
そして、指定された惑星『ケルナー』の衛星軌道上から投下する。
これが今回の依頼になります』
コンテナに投下用があること自体知らなかったが、中身は何だろうな。
赤の艦隊の中継基地からだから、何かの兵器か地上にいる仲間への物資とか……。
「中身が何か分かりますか?ナンシー班長」
「……ええ、コンテナの中身はコールドスリープした人間よ」
「……え?」
人間?コールドスリープって、凍らせて眠らせているってことだろ?
人を凍らせて、眠らせてあるものを投下するのか……。
「あの、こんなことを聞いたら不味いかもしれませんが、大丈夫なんですか?
凍っている人は……」
『そこは心配ないわ。投下用コンテナには、パラシュートや減速するためのスラスターもついているのよ。
中身が粉々になる、なんてことはないわ」
「ということは、大丈夫なんですね……」
よかった、地面に激突させるための投下じゃないならいいの、か?
……でも、何のために赤の艦隊はしているんだろうか?
「ナンシー班長、そもそも赤の艦隊ってどんなところなんですか?」
『赤の艦隊っていうのは、人間系で宇宙連邦が発足された時、尽力した軍隊があるんだけど、その中の一つが『赤の艦隊』なの。
さらに、赤の艦隊は、この天の川銀河をまとめた軍隊の一つで、今も天の川銀河の四分の一を彼らがまとめ上げているのよ。
銀河一つとはいえ、まさに星の数ほどの星があり、数えきれない生命体がいる。
また、中には常識では考えられない惑星も存在するのよ』
「常識、ですか?」
『ええ、加藤さんも知識としては知っているでしょ?
魔法が存在する惑星を。
惑星『ケルナー』は、そんな魔法が存在する惑星なの』
魔法が存在する世界……。
そんなファンタジーな世界が、この世の中には実在する。
研修の時、教えてもらって俺も魔法がとワクワクしたものだが、その星で生まれたものしか使えないと分かって、ガッカリしたのもいい思い出だな。
しかし、そんな世界に凍らせた人を落とすか……。
「何のために、そんな惑星に赤の艦隊は干渉するんでしょうか?」
『それはこちらで調べても、分からなかったわ。
赤の艦隊には、私の知り合いがいるから、もう少し調べてみるわ。
分かり次第、資料として送るから』
詳しいことは、ナンシー班長待ちってことかな。
でも、荷物を受け取る際に、質問してみるのもいいかも……。
▽ ▽
ナンシー班長と打ち合わせをした後、亜空間長距離ワープの行き先である惑星『オニレルド』の宙域に出た後、赤の艦隊の中継基地『ブローグ』へ向けて、再び亜空間長距離ワープを使った。
そういえば、今回は必ずアポを取るように念を押されていたな……。
やっぱり、軍の基地へ行くんだからアポは必要ということか……。
「オリビア、カレン、赤の艦隊の中継基地『ブローグ』に連絡を入れて、到着時間と依頼の承諾、そして面会のアポを取っておいて。
今回は軍事基地だからね、ナンシー班長からも念を押されたし」
『分かりました』
『カレンと一緒に、連絡しておきますわ』
うん、これで心配はないだろう。
え~と、惑星『オニレルド』から赤の艦隊の中継基地の『ブローグ』まで、亜空間を通って約十四日か……。




