第31話 亜空間航行中のひととき
亜空間航行、四日目。
惑星『オニレルド』へ向けて亜空間航行をしている中、俺は一人ブリッジでナンシー班長からの資料に目を通していた。
これで、何度目か分からないが、毎日こうして資料に目を通している気がする。
やはり、宇宙海賊との遭遇体験をするためとはいえ、みんなを危険にさらすというのはどうもな……。
『マスター、昼食をお持ちました』
「コウスケ、今日のお昼は『ギュウドン』だぞ!」
資料を読んでいるところへ、カレンとニニシアさんがブリッジに入ってきた。
今日の昼食は、牛丼か。俺の好きな丼の上位に入る丼だ。
「ありがとう、さっそくいただくよ」
『では、ここに置きますね』
カレンは、持ってきた料理を艦長席の隣にある机の上に置く。
この机は、斜め後ろのカレンとのやり取りのためにある机だ。時々、紅茶やコーヒーを持ってきて、宇宙空間の景色や惑星なんかを眺めながら休憩していた。
「で、何を見ていたの?コウスケ」
「今回の依頼に関する資料ですよ。惑星『オニレルド』のこととか、配達先の惑星『ドールーン』のこととかですね」
「ほぉ~、コウスケは仕事熱心だね~」
亜空間航行に入ってから、暇なのかよく俺の仕事を見学に来る。
といっても、見学するようなことはないから、もっぱら俺の部屋で本やらゲームやら映画鑑賞やらだ。
『マスター、ついてますよ?』
「ん?」
そう言って俺の顎についていたご飯粒を、カレンが指でつまんでとってくれた。
……なんか照れ臭いな。
考え事をしながら食べると、ご飯粒がついていても分からないものだ。
それにしても、何でニニシアさんは俺のことを『コウスケ』と呼ぶのかな?
「ありがとう、カレン」
『いえ』
「……そういえば、ニニシアさん」
「ん?どうした」
「何で、俺のこと『コウスケ』って呼ぶんですか?」
「苗字が『コウスケ』だからだよ。
私も『ニニシア・クーボス』だけど、『クーボスさん』とは呼ばないだろ?
だから、私も『カトウ』じゃなくて『コウスケ』」
……それって、苗字と名前が逆ってことなんだろうか。
日本人は、苗字が前で名前が後ろ。海外だと、名前が前で名字が後ろ、ということか。……まあいいか、困ることもないし。
「ごちそう様」
『美味しかったですか?マスター』
「ああ、店を出してもいいぐらいに、美味しかったよ。
また、作ってくれ、カレン」
『はい、分かりました』
そう笑顔で答えてくれるカレンは、嬉しそうに空の丼を岡持ちに入れる。
何故、岡持ちがあるのか。
それは、ブリッジなどに料理を運ぶのに便利だからだ。
日本で休日を過ごしている時に、売っていたから衝動買いしてしまった。
「コウスケ、またコウスケの部屋で本とか読んでいいの?」
「マナルルさんも一緒なんでしょ?
あんまり、散らかさないでくださいよ?」
「うむ、ありがとう!」
そう言うと、岡持ちを持ったカレンと一緒にブリッジを出ていく。
再び、俺一人となったブリッジで、もう一度資料に目を通し始める。どうやら、俺は緊張しているみたいだ……。
▽ ▽
亜空間航行、八日目。
「う~ん、やっぱ貿易しないと資金がな……」
この日は、朝食の後から自分の部屋に籠ってゲームをしてた。
ブリッジで、資料にばかり目を通していても、何も変わらないしな。
何か新しい情報があるわけでもないし……。
「難しいゲームをするんだな……。
ところで、海賊討伐はしないの?」
「今は戦力が足りませんからね、ここは貿易で資金を稼がないと」
『マスター、酒場で仲間集めをしないとレベルが上がりませんよ?』
「おっと、仲間集めを忘れていたな。ありがとう、カレン」
「……仲良いんだな、コウスケとカレンは」
「まあ、俺のパートナーですからね~」
『パ、パートナー……』
何かカレンが、赤くなってる。
アンドロイドが、そんな反応をするとは、意外だった。
まるで、人間のようだな……。
「お嬢様、この本、おススメですよ」
「マナルルの薦めてくる本は、いまいち面白さが分からないだよね……」
「お嬢様だって、同じようなものじゃないですか~」
「何を言う、私の薦めた本は面白いじゃない!」
「この本のどこがおもしろいんですか!ロリだの幼女だの、わけが分かりませんよ!」
……ロリや幼女が出てくる本って、俺買っていたか?
いや、あるんだから買ったんだろうな。
でも、どんな物語だったかな……。
▽ ▽
亜空間航行、十日目。
宇宙船『アーサー』のブリッジに、全員がそろっている。
もうすぐ、亜空間航行を解いて通常の宇宙空間に戻るのだ。
つまり、惑星『オニレルド』に近づいてってことだ。
『ワープアウト!』
エヴァがそう言うと、ブリッジから見える景色が、光のトンネルから光の線に変わり、通常宇宙空間になった。
『ワープアウト成功!船体、異常なし!』
『周辺の索敵完了!惑星『オニレルド』から約十万キロの距離のようですわ』
十万キロか。
これが遠いか近いかは、月と地球の距離を考えると結構近いことになる。
月と地球の距離は、約三十八万キロある。
それを考えれば………ほら、見えた。
『前方に、惑星『オニレルド』確認しました』
「おお、あれが惑星『オニレルド』か……。地球と同じ青い星なんだな」
「コウスケの母星も、青いのか?」
「ええ、あそこに見える『オニレルド』と同じように、ですね」
惑星『オニレルド』には、三つの月がある。
それぞれ大きさが異なるが、一番大きな月である『ブルカ』が手前に見えて、その奥に惑星『オニレルド』があり、その左右に小さい『オーレル』と『バッケ』の月が確認できた。
さらにさらに、惑星『オニレルド』に近づくほどに見えてくるのが、円筒型のスペースコロニーの群だ。
ザッと確認できただけでも、五十はあるようだ。
「コウスケ!あの筒みたいなものは何だ?!宇宙船か?!」
「お嬢様、あんな大きな宇宙船があるわけないですよ!」
ニニシアさんもマナルルさんも大興奮だ。
おそらく、彼女たちの惑星『スライブ』には、スペースコロニーがないのかも。
カレンが、二人に説明している。
しかし、ここはすごいな。
スペースコロニーがこんなにもあって、これ一つ一つに人々の生活があるんだものな……。どこかのロボットアニメみたいで、俺も秘かに興奮していた……。




