第29話 体験入社
「美味しぃ~、これだよ、これ~」
宇宙船『アーサー』の食堂で、ふわっふわオムライスを満面の笑みで食べているのは、現在、惑星『クトゥ』の近くの探索宇宙船『ホウゴート』から乗り込んできたニニシアさんだ。
その隣で、ニニシアさんと同じように夢中で食べているのが、マナルルさん。
密航騒ぎからずっと巻き込まれてきた、運の無い人である。
で、何故この二人が俺の宇宙船の食堂で食事をしているのかと言うと、運搬依頼のあった遺跡の出土品を、現在積み込んでいる中、頼まれたのだ。
オーベベン博士に。
君たちの食事を、ずっと食べたがっていてな、食わせてやってくれないか?とね。
……そんなに美味しかったのか?と、不思議に思ったが、こうしてニニシアさんを見ていると、美味しかったんだなと。
『マスター、積み込み作業が終わりました。
それと、オーベベン博士から、ニニシア様とマナルル様も連れて行ってくれと』
「そう言われたの?」
『はい、惑星『スライブ』のミュージー様には、こちらから知らせておくと』
ある意味、押し付けられたってことか。
……まあ、急なお願いではあるが、大丈夫だろう。
「……分かりました、て伝えて。
食事が終わったら、二人を連れてブリッジに行くから……」
『分かりました』
そう言って、カレンは食堂を出ていった。
俺は、二人が食べ終わるまで同じテーブルで、コーヒーを飲んでいた。
ニニシアさんとマナルルさんが食べ終わり、一緒に宇宙船『アーサー』のブリッジに入ると、カレンをはじめとして、エヴァ、オリビア、ヘレンの四人ともそろっていた。
『お待ちしていました、マスター』
「お待たせ。オリビア、向こうの依頼者の人には繋がっている?」
『ええ、待ってもらっていますわ』
「ありがとう、すぐにつなげて」
オリビアは、通信用のパネルを操作し、メインモニターに依頼主を映し出した。
そこに映し出されたのは、予想通りオーベベン博士だ。
俺の後から、ブリッジに入ってきたニニシアさんとマナルルさんが声を出す。
「お爺様!」
「博士」
『うむ、どうやら機嫌は直ったようじゃの、ニニシア。
いつもいつも、食堂で不機嫌になるほど食べたかったのじゃろ?どうじゃ、食べたかったものが食べられて」
すると、満面の笑みで答えるニニシアさん。
「最高よ、お爺様!そして、決めたわ!
私、しばらく、この宇宙船に滞在するってね!」
……へ?何だって?
滞在する?聞いてないぞ?!
俺は、すぐにカレンたちを見ると、カレンたちも驚いた顔をしている。
メインモニターに映っているオーベベン博士は、目を瞑り何度も頷く。
どうやら、こうなることを予想していたようだ。
マナルルさんは、こんなことを言い出すのが分かっていたのか、両手で顔を覆っている。
そして、言い出した本人は、胸を張ってドヤ顔である。
「これからよろしくね!」
そんなことを、驚いている俺に言い出す始末。
これは後で、ナンシー班長に報告しておこう。許可するかどうかは、ナンシー班長の判断にゆだねたい。
『加藤君、すまんが孫娘のこと、よろしく頼むぞ!』
それだけを言うと、通信を切られた。
……こうして、新たな乗組員が二人増えたのであった。
▽ ▽
『報告書は読みました。
それで、加藤さんはどうなされるおつもりですか?』
少し怒っているのか、ナンシー班長の言葉が所々刺々しい。まるで、話が進めば進むほど彼女が増えるどこかの小説の主人公のように俺を見てくる。
ナンシー班長、これは俺のせいではありませんよ!
「とりあえず、体験という形で雇おうかと」
『……そうですね、今はそれしかないでしょう。体験入社として、こちらで手続きをしておきます』
「ご迷惑をおかけします……」
はぁ、とため息を漏らすナンシー班長。
どこかお疲れのようだ。ナンシー班所属の人で、何かあったのだろうか?
それとも、ナンシーさんの上司が何か言ってきたんだろうか?
「あの、お疲れですか?」
『……ええ、まあ、ね。
加藤さん、覚えてますか?次の運搬の仕事のこと』
「はい、例の宇宙海賊がらみの件ですよね」
『そうです、必ず狙ってくる例の依頼です。
宇宙海賊の計画が、事前に分かったのは銀河警察の情報収集能力のたまものですが、撃退する戦力をこちらで用意しないといけないのが、ね……』
「……いなかったんですか?戦力」
『いえ、いることはいたんですが……。
まあ、それはこちらで何とかします。加藤さんは、対処方法通りに、襲われたら……』
「すぐに、ナンシー班長に連絡する。
その後は、ひたすらシールドで耐え抜く、でしたね」
俺の答えに、満足そうに頷くナンシー班長。
……いずれにしても、現在対抗手段を持っていない俺の宇宙船では、援軍が来るまで耐え抜くしかないだろうな……。
『そうです、援軍は必ず来ます。それまで、何としても耐えてください』
「あの、銀河警察は助けてくれないんですかね?」
『銀河警察は、犯罪にあわないように計画を教えてはくれますが、護衛はしてくれません。それに、どこの星でも警察みたいな組織は、事件が起きてからでしか動けませんからね。
こちらの援軍に連絡後、銀河警察に連絡ということになります。
それだと、到着に時間がかかるみたいなんですよ。
こちらの援軍は、近くに待機するようにお願いしているので、すぐに駆けつけることができそうなんですが、それでも少し時間がかかります』
……おそらく、宇宙海賊に発見されないように待機するのが難しいのか。
少し離れたところに待機すれば、駆けつけるのに時間かかるものな……。
『とにかく、シールドシステムを信じてじっと耐えてください、加藤さん』
「分かりました」
『では、また何かあれば報告をお願いします』
そう言うと、ナンシー班長は通信を切った。
「……耐えろ、か……」
ナンシー班長が、助けは来ると援軍は来るといったんだ。
それを信じて、耐えるしかないか……。
しかし、宇宙海賊に襲われる体験をするためとはいえ、こんな計画を利用するとはな……。
▽ ▽
「おかわり!」
宇宙船『アーサー』の食堂では、ニニシアさんがおかわりをしている。
亜空間長距離航行に入って、十日目。
毎日毎日、俺の部屋に来ては、ゲームしたり映画見たりアニメ見たりと、地球文化を楽しんでいた。
そして、食堂では、日本の食事を楽しんでいる。
「ニニシアさん、これで三杯目ですよ?」
「こんな美味しい食事を出す方が悪いんです。
特にこの『カレーライス』という料理!最高です!」
ダメだこりゃ、とニニシアさんの横を見ると、マナルルさんもニニシアさんに負けず劣らず美味しそうに『カレーライス』を食べている。
何しにこの宇宙船に乗ったのか、分かっています?お二人とも。
昨日は失礼しました。
変な事件が起きて、朝からテンションが下がり更新できませんでした。
今は持ち直しましたが、嫌な事件、多いな……。




