第27話 里帰り
休暇、七日目。
昨日、ネットで注文していた商品がすべて届いた。
寮の管理人さんは、その量に少し驚いていたが何も言わずに、商品を俺の部屋に運んでくれた。
アニメや映画の動画に、ゲーム一式。ソフトや本に服と段ボール箱十箱分。
これで、宇宙船の移動の時の暇をつぶすことができるだろう。
さて、今日は三日ほど前に連絡しておいた実家に帰ってきている。
日曜に帰るとだけ連絡したが、母と妹家族が待っていてくれた。
「康介、お帰り」
「兄さん、お帰りなさい」
まずは、母と妹が迎えてくれて、その後義弟と姪たち五人が迎えてくれた。
……妹家族は、娘ばかりなのだ。
義弟の博君は、家では少し肩身の狭い思いをしているのかもしれないな……。
「ただいま」
俺は挨拶を済ませると、リビングに案内される。
自分の家なのに、久しぶり過ぎてどこか懐かしい気分になる。しかも、匂い?が違うのだ。今まで、実家から出ることはあまりなかったが、こうして実家を離れると、実家の匂いっていうのが分かるんだな……。
姪たちは、俺との挨拶を済ませると、それぞれで遊び始める。
中には、勉強をしている子もいるが、ほとんどが遊びに夢中だ。
「康介さん、今日は泊っていくんですか?」
「う~ん、母さん、俺の部屋ってそのままなの?」
「そんなわけないでしょ、物置になっているわよ」
「だそうだ、だから近くのホテルにいくよ」
「……勿体なくないですか?せっかく、実家に帰ってきたのに……」
「でも、泊まる部屋がないからな……」
「客間なら使えるけど、そっちに泊まる?康介」
「いや、いいよ。もうホテル予約してあるし。
それに、明日かえらないと仕事に差し支えるからな……」
妹が、キッチンから料理を運びながら話に加わってくる。
母さんは、キッチンで何かまだ作っていた。
「兄さんから、仕事なんて言葉が出るとは思わなかったわ~」
「一応、俺、就職したんだけど?……まだ、新人だけど……」
「それで、どんな会社なんです?康介さんの勤めている会社は」
「あれ?言ってなかったっけ?」
確か、博君にも言ってあったと思うけど?
貿易会社の『ショルフダール』と……。
「名前は聞きましたよ。確か『株式会社ショルフダール』でしたよね?」
「そうそう、主に貿易関係の仕事をしている会社だよ。
俺の仕事は、積み荷の確認が主だよ」
「積み荷の確認?」
キッチンから、料理を運んできた母さんが話に加わる。
ここでは、お酒は出ない。
何故なら、家族みんな飲めないからだ……。
缶ビール一杯で、みんな顔が赤くなるから飲まないんだよね。
「輸入した積み荷が、入ってきているかどうか、とか、間違っている場合の手続きとかだよ。一応何人かのチームで動くんだ。
俺一人では、遅いからね。常時五、六人のチームで確認作業だよ」
「何だか、大変ですね。それに、言葉の壁もあるんでしょ?」
「ああ、それは問題ないよ。
最近は、翻訳できる機械があるからね。それで画像を撮って、ピッだよ」
まるで、見て来たかのような説明をする。
実際の宇宙船の艦長をしているとか、宇宙で運搬をしているとか、話せるわけないんだよな……。
少し心苦しいが、話しても信じてもらえないし……。
「でも、兄さん、お正月にも帰れないほど、忙しいの?」
「まあそれは、ネット通販の弊害というやつかな。
貿易関係の仕事をしているから、常に荷が行き来するんだよ。国内からも海外からも。勿論、交代要員はいるんだけど、忙しいのは変わらないからね。
来年の正月は無理だけど、再来年の正月は休めるから……」
実際、本当に『株式会社ショルフダール』という会社は存在する。
勿論、設立したのは、宇宙にある本物の『ショルフダール』だ。
地球で社員を募集する前に、貿易会社を設立し軌道に乗せ、黒字会社にしてしまった。それが十年前。
今では、普通に貿易会社として社会人の就職先になっている。
でも、裏の顔が銀河をまたにかける運搬会社とは、地球で働く社員たちは夢にも思わないだろう……。
俺たち家族は、近況を夢中になって話し合い、時間が過ぎていった。
久しぶりの実家、でも、こんなに家族で話すのは初めてだった。
▽ ▽
休暇、八日目。
今俺は、三百万円の札束の入った封筒を、母親の前に置いている。
昨日、ホテルに泊まった時に用意しておいたものだ。
ニートで母親にいろいろと立て替えてもらったお金を、返すためだ。
複雑な表情で、母さんは封筒を見ている。
「そのお金は、借りたものじゃないから受けとってくれ。
今まで母さんに立て替えてもらったお金を、返すだけなんだからさ」
「……本当に、大丈夫なの?こんな大金を……」
「ああ、問題ないよ。今の会社の給料が結構いいんだよ。
それに寮住まいだと、そんなにお金がかからないんだ。
仕事はやりがいあるし、仲間もいるから大丈夫だって」
母親は、ようやくその封筒を受け取ってくれた。
「じゃあ、これは一応受け取っておくわね。
康介が将来何かがあった時のために、貯金しとくから……」
「……母さんが使ってくれてもいいのに」
「世の中、どうなるか分からないでしょ?
今は、どんな大きな会社でもどうなるか……」
うちの会社は、資本が宇宙にあるからな。
どんな不況がこようが、大丈夫な気がするけど、こんなこと母さんに言えるわけもない。
「分かったよ。あ、それと、コレ、来年の正月にでも母さんから渡しておいて。
俺帰れないからね」
「気が早いわね、郵送でもよかったんじゃないの?」
「その時になって、財布に無かったじゃ、カッコつかないでしょ?
せっかく就職したんだし、来年こそ『お年玉』くらいはね」
「子供たちも喜ぶわよ。おじさんありがとうって、ね?」
これで、渡すもの渡せたな。
この後、一時間ぐらい母さんと話をして、俺は家を出た。
駅まで見送るって言っていたけど、タクシーで帰るつもりだって言ったら呼んでくれて、玄関で別れたのだ。
今日は、妹家族は来ていない。
何故なら、今日は平日で、姪たちは学校、義弟の博君は仕事、妹も同じく仕事だったからだ。妹の家庭も、大変そうだ。
こうして、二日に及ぶ里帰りは終わった。
次は、来年の今ごろか、それとも再来年の正月休みか。
今は、この仕事が楽しい。宇宙に出て宇宙船の艦長をして、地球にいる人たちの一歩も二歩も先を行っている気がして、少しだけ楽しいのだ。
テレビでは、領土問題やら外交問題とかニュースになっているが、宇宙を経験すると本当にどうでもいいほど小さく見えてしまうな……。
……まあ、いいか。
さて、休暇も後一日。
何を……て、そういえば、うち会社の麻薬密輸の問題はどうなったんだろう。
ナンシー班長にでも、聞いておくか……。




