第26話 休暇の過ごし方
休暇一日目。
休みを十日もらったとしても、世間は休みではなく平日だ。
俺が就職して、この会社に入ったあと宇宙に行っている間に半年が過ぎていた。今月は十月。中途半端な時期である。
とりあえず、日本に戻り住んでいるはずの寮から出てまず行くところは銀行だ。
俺の給料は、銀行振り込みになっているため、まずは降ろさなければ使うこともできない。何せ、今、俺の財布には『二百四十四円』しか入ってなかった。
四十過ぎた大人が、就職したのにもかかわらず『二百四十四円』はないだろう。
だからこそ、何をするにも先立つものが必要なのだ。
今なら、携帯に電子マネーとか言いそうだが、俺は携帯を持っていない。
何せ、地球にいる時間が少ないのだ。携帯を持っていたとしても、宇宙から通じるわけもなく、持っていても仕方ないということになる。
そのため、現金を手に入れるため、今住んでいる寮の近くにある銀行に着くと、さっそく俺の口座の残金を確認する。
……おかしいな、通帳に書かれている残高の桁が違う。
元々入っていた金額と合わせて『七千万円』って、半年ぐらいで稼げる金額ではないぞ?
いくら、寮住まいで、電気・ガス・水道などのもろもろや、税金を会社が払ってくれているとしても、この金額はドッキリではないだろうか?
俺は思わず、辺りを見渡してしまう。
その行動に、銀行の行員さんが不思議そうに見てくるが、とりあえずいくらか下ろしてみよう。
「すみません、これ、お願いします」
「はい、少々お待ちください」
窓口の行員さんに、下ろしたい額を書いて通帳と一緒に渡す。
そして、しばらく窓口正面のソファに腰かけて待つのだ。
すると、すぐに呼ばれた。
「加藤さ~ん」
俺の名前を呼んだ窓口に行くと、身分証明書の提示を求められる。
まあ、下ろしたい額が額だ。これはしょうがないだろう。
「加藤さん、失礼ですがこの金額の使い道を教えてもらえますか?」
「え、……ああ、詐欺対策ですね?」
「はい、下ろされようとする額が高額ですから、お聞きしているわけです」
「それは、身の回りの物を購入するためです。
この度、こっちに引っ越して来まして、何もない状態だったので貯金を下ろしに来たんです」
「……なるほど、ちなみにどのようなお仕事を?」
「貿易関係ですよ。入社して引っ越しを済ませて、すぐに海外へ行っていましたので、今になって身の回りの物の購入になってしまったんです」
「……分かりました、お話しくださりありがとうございます。
それでは、もう少しだけ、お待ちください」
そう言って、頭を下げてくれる。
まあ、詐欺対策で聞くのはしょうがないんだろうな。
俺が宇宙に行く前にも、そんな詐欺が横行していたし……。
それから二十分程待つと、再び名前が呼ばれ窓口でお金を受け取ることができた。
俺は、そのお金を側にあった銀行の封筒に入れると、窓口の行員さんに一礼して銀行を後にした。
さて、まずは大型スーパーに行くか!
▽ ▽
ここは、寮の近くにある『業務用スーパー』だ。
大量買いなら、ここがいいだろうと寮の管理人さんが薦めてくれた。
確かに、スーパーの中に入ってそれが実感できる。
売っている商品のサイズが違うのだ。
これはいいと、俺は必要だと思うものを片っ端から購入していった。
無論、店員さんに無理を言って手伝ってもらったわけだが、野菜、肉、他にもいろいろと大量に購入していく俺を見て、呆れると同時納得もしているようだ。
理由は聞かないが、この手のスーパーでは大量買いの人は少なくないらしい。
最終的に、支払いを済ませスーパーの裏手に購入したものを運んでくれた。
ありがとうございました、とお礼を言われて店の中へ戻っていく店員。
それを見送った後、周りに誰もいないことを確認して、俺は久々に使う『亜空間倉庫』の扉を開いた。
今まで、宇宙でもめったに使うことのなかったこの中に、購入したものを中へ入れていく。少し往復したものの、無事誰かに見つかることなく収納できた……と思う。
次は、家電量販店だ。
▽ ▽
家電量販店は、寮の近くに無く駅前まで行く必要があった。
そこで、俺はタクシーに乗って駅前まで行き、駅前にある家電量販店に入る。
ここで購入するのは、ネットで購入予定の映画やアニメの動画を見るための家電だ。もちろんテレビもセットで購入する。
何せ、宇宙船のモニターにつながるかどうかわからないからな。
ここは、既存のものを使った方がいいだろう。
ただ、宇宙に出てしまうと修理ができるか分からないので、二台購入することにした。ただ、設置はお願いせずに、寮に届けてもらうことにした。
寮の部屋に設置するわけには、いかないからね。
これで、今日の買い物分は終了。
明日は、届けてくれる家電を待って、ネットカフェに行くことに。
そこで、アニメや映画の動画、本や服などをネット注文する予定だ。
クレジットカードなどはないので、すべて代引きで届けてもらうことになるが、出来ない場合は注文できないな……。
あ、後、日数がかかるものもパスということになる。
この十日の休みの間に届かなければ、宇宙に持っていけないからね。
▽ ▽
休暇三日目。
昨日ネットカフェで、大量注文しておいた。
欲しかったものは、すべてこの休暇内に届く予定だ。
……だけど、昨日のネットカフェからの帰りに、目の前の女性に声をかけられた。
名刺の名前が本当なら、『秋本 京香』というらしい。
「フフ、加藤さん、私の顔に何かついています?」
「ああ、いえ」
「そうですか?」
そう言って、ストローでジュースを飲む。
彼女は、警察の人間だと言っていたが、そんな彼女が何故俺に声をかけたのか分からない。何か裏があるのか?
「……あの、それで今日は何か?」
「そうでしたね。
まずは、平日の午前中に時間を作ってもらい、申し訳ございません。
……実は、私たちはあなたの勤めている会社の内定調査をしているのです」
「……え?」
「まあ、驚かれるのも無理はありません。
内部告発、みたいなものがありましてね?あなたの勤めている会社にある嫌疑がかけられているのです」
「嫌疑、ですか?」
うちの会社、そんないかがわしいものを扱っていたのか?
普通の貿易会社だと聞いていたけど、違うのかな?
「ええ、………麻薬の密輸入、です」
ま、麻薬?!
うちの会社が?!
「そんなばかな……」
「勿論、加藤さんが信じられない気持ちも、分からないでもありません。
そのために、私どもが調べているんですから……」
そ、そうだよな、分からないから調べているんだよな。
でも、うちの会社って……。
「でもうちの会社って、普通の貿易会社ですが……」
「そう、その貿易に疑いがかかっているんですよ。
……それで、加藤さんは何かそういった社内の話題とかは、知りませんか?」
社内の話題?
……ほとんど宇宙にいるし、入社したばかりだしな。
「う~ん、ちょっとわからないですね……」
「そうですか……。
分かりました、お時間とらせて申し訳ありません。
もし、何かありましたら、その名刺の番号にご連絡お願いします」
そう言って、俺たちは喫茶店を出て別れた。
それにしても、麻薬とは……。
テレビのニュースの話題が、自分に降りかかると、何も無くてもドギマギするんだな……。少し勉強になった。




