第24話 先輩は宇宙人
亜空間航行十八日目。
地球と月の間の宇宙空間に、突如宇宙船『ランスロット』が姿を現した。
亜空間長距離ワープを使い、この場所に到着したのだ。
その姿は、どこでぶつけてきたのかと言いたくなるほど、ベコベコの状態になっているが、亜空間航行から出てきたばかりで、淡く光っていた。
そんな宇宙船『ランスロット』のブリッジでは、艦長席から立ち上がり地球の青い姿に感動している男がいた。
「ああ……俺は帰ってきたんだな……」
そんな感動中の加藤の姿を、どこか温かいまなざしで見る四人の女性。
秘書のカレン、パイロットのエヴァ、オペレーターのオリビア、そして、メイドのヘレンだ。全員アンドロイドである。
『マスター、ワープアウト完了!これより、ドッグ艦へ向かいます!』
「……ああ、そうだったな。
では、火星に向けて発進!その途中にドッグ艦があるはずだ」
『了解!』
エヴァが報告と加藤の指示に返事をして、宇宙船を目的の場所へ向ける。
新しい宇宙船の受領と、ナンシー班の先輩に会いに出発した。
▽ ▽
三十分ほど、火星に向かって進むとナンシー班長の言っていた、ドッグ艦が見えてきた。そして、それは俺にとって驚く形をしている。
ドッグ艦は、新しい俺の宇宙船より長さはなかった、が、大きさは大きかった。
何せ、俺の新しい宇宙船を包み込んでいたのだから。
その形は、円筒形のコロニーのような形で、両端がない筒だった。
その筒に、俺の新しい宇宙船が突き刺さっている印象だ。
おそらく、この形をしているのは、そんな宇宙船でも修理したりできるように、ということだろう。
「……変わった形の宇宙船だな……」
『マスター、昨日の夕食に出た『ちくわ』みたいです!』
『確かに、ちくわに似てますわね』
エヴァが、ドッグ艦を見てちくわといい、オリビアは少し笑っている。
カレンとヘレンは、何も言わないで笑顔だ。
そんな俺たちは、ドッグ艦にばかり目がいってしまい、近づいてくる一隻の宇宙船に気が回らなかった。
だから、通信の警告音が鳴り、驚いてしまった。
―――ピピッ、ピピッ!
「おっ、と、通信か?オリビア」
『あ、はい、そうですわ。
近づいてきている宇宙船からのようです、回線を回しますわね』
そう言って、通信パネルを操作し、メインモニターに相手が映し出された。
しかし、そこに映し出された姿は、俺が期待し想像した姿とは違った。何せ、その姿は『のっぺらぼう』だったからだ。
つるんとした顔、まるでスライムが服を着てそこに立っているかのようだ。
その姿に、俺は顔を崩して驚いてしまった。後から考えれば、アメーバのようなスライムのような宇宙人がいてもおかしくはない。
宇宙は広いのだ。その姿形は人型である必要はないのだし、生まれた惑星の環境次第では、そんなスライムのような人がいてもおかしくはない。
だが、今まで俺の出会ってきた人たちは、人型をしていたので勘違いしたのだろうな……。
『フハハハ!やっぱりそんな顔になるんだよな~』
「スライムがしゃべった!」
『マスター、失礼ですよ?!』
俺の後ろにいたカレンに、すぐに小突かれて、俺はハッとした。
「す、すみません!」
『ああ、構わないよ。こういうのは慣れてるからね。
特に、新人社員に多いからね……』
頭を下げて俺が謝ると、先輩はすぐに許してくれる。
どうやら、こういうことは慣れているようで、最初に先輩を見る人はほとんどが同じように驚かれるそうだ。
『自己紹介がまだだったな。
俺の名前はロニー、君の三年先輩になる。だが、俺の後にナンシー班に配属になった新人社員はいなかったから、君は俺の一つ下の後輩だ』
「俺は、加藤康介と言います。
これから、よろしくお願いします!」
俺は頭を下げて、挨拶をした。
宇宙人相手に、どう挨拶をしていいのか分からないが、地球の日本のやり方で良かったと思う。
それぞれ違う環境で生き育ってきたのだ、習慣も宗教も何もかもが違うとしても仕方がないと、分かっていれば怒る人は少ないだろう。
『ああ、こちらこそよろしくな。何か困ったことがあれば、知らせてくれ。
出来るだけ、加藤君の一番近い先輩として力になろう』
「はい、お願いします。先輩!」
おや、先輩の顔?が少し赤くなった。
おそらく、喜んでいるのだろう。この先輩は、顔色が変わることで感情を表しているんだな……。
『では、さっそく、宇宙船を乗り換えてくれ。
ドッグ艦を今の宇宙船から、その宇宙船に変えるから』
「了解です。乗り換える宇宙船の横に並行してつければいいですかね?」
『ああ、ドッグ艦自体が動いて移動するから』
「では、いったん通信を切りますね」
『おう、新しい宇宙船に乗り換えたら、また連絡してくれ』
そう言うと、通信が切れた。
「……宇宙って、本当に広大な世界なんだな……。
先輩のような外見の知的生命体は、初めて見た」
『マスターの知らない知的生命体は、まだまだいますよ?
それも、マスターたちよりももっと高次元の生命体だっているみたいですし』
……地球から宇宙に出て、本当に良かった。
日本なんて、そして地球なんて、なんて小さな世界なんだろうって、初めて実感したぜ。
「エヴァ、新しい宇宙船の横に並行に付けてくれ。
通路を繋げたら、すぐに引っ越しに移るぞ」
『了解!』
エヴァは、ウキウキしながら宇宙船を操作し動かす。
本当に、新しい宇宙船を操縦できることが、楽しみでしょうがないようだな。
▽ ▽
ベコベコにへこんだ宇宙船『ランスロット』を、新しい宇宙船の横へ並行してつけると、こちら側から通路を伸ばしドッキングさせる。
ドッキングして、すぐに通路に空気を入れ圧力を同じにし、宇宙船『ランスロット』側の扉を開ける。
プシュッという音とともに、少し空気が通路側へ流れたがそれもなくなり通れるようになった。
「それじゃあ、引っ越しといこうか」
『はい!』
俺の後ろについて、カレンが一緒に通路を通り新しい宇宙船の外壁の扉まで来た。
そこで、横のパネルに俺の手を押し当てると、センサーが感知し外壁の扉が開く。認証システムってやつだ。
パネルに、解放したままになるように打ち込むと、扉は開いたままになる。
「これで、この新しい宇宙船が、俺を認識したから貨物室の扉が開けれるはずだ。
オリビアとエヴァに、搬入用ロボットの移動を開始してくれ」
『分かりました』
カレンが、エヴァとオリビアに通信で知らせる。
すると、少しして、宇宙船『ランスロット』の貨物室の扉が開き、中から搬入用ロボットが出てきた。
そして、その搬入用ロボットを先頭で指揮しているのが、宇宙服を着たエヴァとオリビアだ。
俺はその光景を、通路から覗き込んで見ていた。
「……エヴァとオリビアの宇宙服姿、初めて見たな……」
『宇宙服であれば、乗組員全員の者が用意してありますよ?
マスターも後で着て、宇宙遊泳を体験されてみますか?』
宇宙遊泳か。そういえば、新人研修でも宇宙遊泳体験はなかったな……。
地球に帰る前に、一度体験してみようかな……。
「う~ん、地球に行く前に体験してみようかな……」
『フフフ、では後で用意しておきますね』
カレンは笑顔で、了承すると俺と一緒に新しい宇宙船の中に入っていく。




