第23話 中継宙域
『それにしても、よくわかりましたね』
「ん?何が?」
『宇宙海賊のことです。この宙域にいるかもしれないということが、よくわかりましたね、マスター』
艦長席に座って、明日の今頃、ワープアウトしているであろう宙域にある赤黒い惑星を見ている俺に対して、カレンが質問してきた。
確かに、こんなことを知っているなんて不思議に思うだろうな……。
「新人研修の時の座学でね?最近の宇宙海賊の目撃された場所って、いくつかピックアップして教えてくれたんだよ。
その中の一つが、この赤黒い惑星だったんだ。
しかも、座標まで同じだしな……」
そう、新人研修の座学で宇宙海賊のことを教えてくれた時、豆知識って感じでエミリーさんが教えてくれたんだよね。
『なるほど……。ちなみに、どんな宇宙海賊が目撃されたか教えてもらいましたか?』
「ああ。たしか『ボルグワックト』だったかな、カレンは知ってる?」
『ええ、有名な十大宇宙海賊の一つですから』
「有名なのか……。そして、十大ってことは後有名な宇宙海賊が九つもあるのね?」
『はい。この天の川銀河をまたにかける有名な宇宙海賊たちですからね。
私の知識にも、ちゃんと収められています』
十大宇宙海賊。
エミリーさんからは、ボルグワックトしか教えてもらってないけど、そんなにいるのか……。絶対、会いたくないよな……。
『ボルグワックトのボスは、女帝と呼ばれ、恐れられています。
遭遇すれば、積み荷は根こそぎ奪われることでも有名ですからね』
何というか、こんな話をすると嫌な予感がするよな。
確か、フラグだったか?
絶対、会いたくないね。それも、今のこの宇宙船では……。
▽ ▽
『ワープアウトします。3……2……1……0!』
亜空間トンネルから抜け出し、通常空間に戻るとブリッジからの視界に、赤黒い惑星が小さくサッカーボール大の大きさで確認できた。
さらに、周囲を索敵すると、怪しい物体や生命反応はなかった。
どうやら、ここは安全だったようだ。
『周囲索敵完了。マスター、どうやら宇宙海賊の気配はないようです。
今のうちに、地球に向けて亜空間長距離ワープに入りましょう』
「だな、トラブルが向こうから襲ってくる前に!
エヴァ、地球に向けて船首回頭!」
俺の指示で、宇宙船のブリッジから見える景色が変わりだす。赤黒い惑星は、宇宙船の右後ろに移動した。
『マスター、回頭完了!』
「よし、宇宙海賊なんかに遭遇する前に、地球へ向けて亜空間長距離ワープ!」
『了解!亜空間長距離ワープ開始!』
エヴァが、操縦席のレバーをゆっくり押し込むと、ブリッジから見える景色は変わり、光の線から光のトンネルへと変化した。
無事、俺たちは宇宙海賊に遭遇することもなく、亜空間に入ったようだ。
『亜空間に入りました、長距離ワープ安定しています!』
「よし、自動操縦に切り替えて、順次仮眠などをとるように」
そう俺が言うと、まずオリビアとヘレンが立ち上がってブリッジを出ていく。オリビアは仮眠を、ヘレンは夕食の準備だろう。
ここに来るまでに、カレンから料理を教わっていたからな。
さすがアンドロイド、一度教えるとすぐに覚えてしまう……。
『それじゃあ、マスター。私も寝るね~』
「ああ、夕食には起こすから、それまではお休み」
『おやすみなさい、エヴァ』
エヴァは、手を振りながらブリッジを出ていった。これから先、エヴァが朝方、俺やカレンが昼間、オリビアやヘレンが夜の時間帯でブリッジにつめることになる。
ただし、長距離の場合は、ここからさらに交代する。
そうしないと、不公平が出るんだと……。
まあ、食事に不公平が出るから、この交代が採用されたんだがな。
「さてカレン、地球まではどれくらいかかるかな?」
『約18日になるはずです。ワープアウトの場所を地球と火星の間に設定しましたから……。それと、引っ越しの準備も進んでいますよ』
新しい宇宙船に、乗り換えるんだったな。
星間戦争の戦闘に巻き込まれて、宇宙船がボコボコにされたからな……。
▽ ▽
亜空間航行五日目。
この日は、亜空間通信が入ってきた。それも、ナンシー班長から。
いつもは、こちらから通信するのにナンシー班長からとは珍しい。というより、初めてじゃないか?
『お久しぶりですね、加藤さん』
「お久しぶりです、ナンシー班長。今回はどうされましたか?」
『ええ、報告書は昨日読ませてもらいました。
中継の宙域が宇宙海賊の目撃宙域とは、ついてなかったですね?加藤さん』
「でも、遭遇することなく亜空間に入れましたから」
『それはよかった。
………それで、本題に移りますが……』
え、今までの世間話だったの?
ナンシー班長も、暇なときがあるんだな……。
「はい」
『実は、加藤さんの新しい宇宙船を持っていくときに、私の班の者で、加藤さんの一つ先輩を挨拶のために付けました。
私の班における、加藤さんの次に若いメンバーになります。
しっかり、挨拶をしておいてください。いずれ、一緒に仕事をするかもしれませんからね』
俺の先輩か~。どんな先輩なんだろうな~。
「あの、その先輩は男性ですか?女性ですか?」
『……それは会ってから判断してください。
後輩ができることを、一番楽しみにしていた人ですから、今回挨拶をさせることにしました』
後輩ができるのが楽しみって、どこかの学校の部活のノリじゃないか?
「あの、本題ってそれだけですか?」
『いいえ、まだあります。
加藤さんの休暇のことですが、移動はすべて公共のものを使うようにしてください。決して、自分で車などを運転しないように』
「えっと、自分で運転はまずいですか?」
『……いいですか加藤さん。あなたには『生体強化』が施されています。
これは、今の地球という惑星の医療技術では、未知のものになりますし未来の技術でもあります。
そんな技術を施されたあなたが、医療機関を利用したらどうなるか……』
はい、大変なことになります。
そして、大騒ぎになります……。
『よろしいですね?決して、医療施設を利用するような事態にはならないでください。もし、そんな事態になったら、こちらで強制転位することになります。
カレンたちが見張っていることを、忘れないように』
「あ、あの、私用で医療機関に行かなくてはいけないときは?
例えば、知人のお見舞いとか……」
『そういう時は、一度カレンに連絡を入れるように。
……連絡の仕方は分かっていますね?』
「はい、大丈夫です。
そのときは連絡するからな、カレン」
『はい、お待ちしておりますマスター』
カレンは笑顔で、笑って返事をしてくれた。
アンドロイドとはいえ、美人の笑顔は癒しになるな……。
『オホン。……とりあえず、以上です加藤さん。
くれぐれも、目立つ行動には、気をつけてくださいね?』
「はい!」
そう返事をすると、ナンシー班長は、笑顔で頷き通信を切った。
……とりあえず、先輩と会うのか。どんな先輩だろうな……。
それと、休暇の過ごし方だな……。




