第22話 リピーター
惑星『クトゥ』の宙域にいる探索宇宙船『ホウゴート』の食堂では、ある事が話題になっていた。
それは、遺跡調査の先頭に立っているオーベベン博士の孫娘であり、遺跡調査をしたいばかりに宇宙運搬会社『ショルフダール』の貨物宇宙船に密航までした問題の人物、ニニシア・クーボスの不機嫌な顔だ。
ニニシアは、食堂で食事をするたびに不機嫌になって出ていく。
遺跡調査がうまくいってないのか、それとも何かトラブルを抱え込んでいるのか分からないが、今この宇宙船内では話題になっていた。
「………」
オーベベン博士は、今日初めて孫娘のそんな光景を食堂で見てしまった。ただの噂かと気にしていなかったが、どうやら本当のことだったようだ。
博士が、遺跡の今までわかっている資料に目を通しながら食事をとっていると、孫娘が食堂に入ってくる。そして席に着き、いつもの通り食事をとる。
すると、食事をとっていくたびにだんだんと機嫌が悪くなっていく。スープをひとすくいして口へ運ぶ。そして、またひとすくいして口に運ぶたびに機嫌が悪くなる。
食事を終え、食堂を出るときには顔を歪めるほど機嫌が悪くなっているのだ。
博士は、その光景を見て近くにいたススーニに質問してみる。
「ススーニ君、ちょっといいかね?」
「あ、博士。……どうしましたか?」
娘と一緒に食事をとっていたススーニは、博士からの質問に姿勢を正して聞いた。
「すまんな、娘との食事を邪魔してしまい」
「いえ、それで何をお聞きしたいのですか?」
元軍人だったススーニは、立場が上の者に対しての姿勢が出てしまっていた。
娘は、そんな母親に少し驚いている。
「実はな、孫娘のニニシアの食堂での出来事を見てしまっての……」
「ああ~、食堂で機嫌が悪くなるというあれですか?」
「うむ、まさにその現場を見てしまったのじゃ。儂が思うに、ニニシアは食事に何か思うところがあるのかの?」
さすが博士、噂よりもきちんと的を得ている。
そう思ったススーニは、何故ニニシアが食事のたびにあのような態度になるのか話した。
「実はニニシアは、あの貨物宇宙船にいる間、食事をもらっていたんですが、その食事がものすごく美味しかったんです。
それ以来、こっちの食事が美味しくなく感じているのでしょう……」
「……そんなに、貨物宇宙船の食事が美味しかったのかね?」
ススーニは、笑顔で頷いた。
「ええ、私たちの文化にはない食事でしたよ」
「う~む……」
博士は考える、そんなに美味しい、このいつも食べていた食事が機嫌が悪くなるほど、美味しく感じなくなるほど美味しいのか、と。
最近のニニシアは、遺跡調査にも身が入っていない様子だしのう。
……もう一度、あの男の運搬屋に頼んでみるかの。確か、ミュージー君の推薦で決めたとかだったな。
後で、ミュージー君に連絡しておくかのう……。
▽ ▽ ▽
『聞いていますか?加藤さん』
「あ、すいません、聞いていませんでした」
『……まったく、久しぶりの地球ですから、その気持ちも分からなくはないですが、私の話は最後まで聞くように。いいですね?』
「申し訳ありません」
そう言って、俺は頭を下げる。
亜空間航行二日目の、ナンシー班長への報告のための通信で、10日も休みがもらえると言われて少し妄想してしまった……。
『それで、先ほどの続きですが、惑星『スライブ』のミュージーさんから連絡がありました。また、加藤さんに運搬の仕事を頼みたいそうです。
勿論、こちらの都合を話しておきましたから、地球を出立した後、私に連絡をしてください。ミュージーさんの依頼を優先させておきますので』
ミュージーさんの依頼ってことは、また運搬業なんだよな……。
今度は、何を運ぶんだろう。また食料と生活雑貨だろうか?
……まさか、また密航とかはないよな……。
「ナンシー班長、ミュージーさんの依頼って前と同じですか?」
『……あ、そういえば前の依頼では、トラブルがありましたね。
今回は、そんなことにはならないでしょう。トラブルの元は、惑星『クトゥ』の遺跡調査をしているそうですから』
そういえば、遺跡のことで密航したんだったな……。
なら、安心して業務に邁進できるな。
「それを聞いて、安心しました……」
『まあ、一応万が一に備えておくのも、トラブル防止に繋がりますよ?』
「はい、分かりました」
『……では、以上ですね。では加藤さん、地球を出立するころにまた』
そう言って、ナンシー班長との亜空間通信は切れた。
今、このブリッジにいるのはカレンと俺だけだ。となれば当然、後でみんなにこのことを知らせておかなければならない。
……ヘレンに、あのニニシアさんのことを説明するのか。
『マスター、ナンシー様へのご報告、お疲れさまでした』
「ああ、ありがとうカレン。しかし、ミュージーさんから再び依頼されるなんてね」
『よほど、マスターのことが気に入ったんでしょうかね?』
「どうなんだろう、俺は普通に仕事しただけなんだけど……」
もしかしたら、ニニシアさんの件で負い目を感じているとかかな?それで、もう一度正式に運搬依頼を出したいと、指名までしてくれた……。
まあ、そんなところだろうな。
「とりあえず、ミュージーさんの依頼は本人に会えばわかるよ。
それよりも、地球へのコースだけど、明日通常空間に出て、今度は地球に向けて亜空間長距離ワープをするってことで合っているよね?」
『はい、合っています』
「それで、明日出る通常空間は、どんなところだか分かるかい?カレン」
『えっと……』
そう少し考えながら、手に持つタブレットを操作し艦長席についているモニターに映し出した。
モニターには、赤黒い、太陽系の火星のような惑星が映し出される。
『この宙域は、この惑星があるだけです。ですから、ここを選びました』
……なるほど、この火星のような惑星が一つか。
映像を見る限り、衛星も写ってないし近くに他の惑星があるようでもないし、空白地帯みたいになっているんだな……。
「う~ん、とりあえず警戒だけはしておこう」
『警戒ですか?』
「ああ、宇宙海賊にね。
こういう場所って、宇宙海賊が出やすいって新人研修で教えてもらったからな」
『分かりました、マスター。宇宙海賊に警戒しつつ、亜空間長距離ワープを実行します』
こういう時、新人研修で教えてもらったことが役に立つ。
宇宙海賊か……。




