第21話 地球へ向けて
惑星『ニーネル』の衛星軌道上に用意された宇宙ステーション。
そこの貨物専用搬入口に、俺の宇宙船『ランスロット』の貨物用搬出口をドッキングさせることで、貨物室にある冬眠カプセルで眠っている避難民たちを移動させるのだ。
宇宙ステーションに移動させた後は、軌道エレベーターを使って惑星『ニーネル』の地上へと移され、そこで冬眠から目覚める予定だ。
これからの生活場所が、惑星『ニプルネル』の地上から惑星『ニーネル』の地上へ移るだけなのだが、すべて同じというわけにいかないだろう……。
宇宙ステーションの宇宙港ロビーから、宇宙船『ランスロット』を見下ろしながらニルーナさんは苦笑いをしている。
「よく、あんな宇宙船で無事に運べたわね……」
「そこは、シールドシステムのおかげとしか言いようがないですね……」
そこへ、カレンとヘレンが俺とニルーナさんに近づいてきた。
「カレン、事情説明は終わったのかい?」
『はい、惑星『ニプルネル』の政府の担当の方が、戦闘のことを知っていたおかげで説明が早くて助かりました』
「まったく、ごめんなさいね?融通が利かなくて……」
「いえ、嘘をつかない、ということでアンドロイドに証言させるんですから、それだけ事情が知りたかったんだと思います」
こっちについて、すぐに俺とニルーナさんは事情説明に呼び出された。
そのうえで、その事情説明が真実かどうかをカレン達アンドロイドに証言させたのだ。アンドロイドは、まず嘘はつかない。
秘密にしなければならないことは、最初からしゃべらないように出来ているらしい。
……俺はそこのところは知らなかったが、カレンに聞いたところ本当のようだ。
それで、先ほどまで事情説明に時間をとられたのだ。
勿論、事情説明は事情説明で聞いておいて、運んできたものは別で、すぐに搬入ということになった。
「あ、そうだ。
ニルーナさん、貨物室のコンテナ三つに、アンドロイドが入っていたんですけど……」
「おそらく、それはアンドロイドたちを軍事利用させないように動いていたグループの仕業ね。
私と同じように、アンドロイドに思い入れがある人たちが計画していたらしいわ」
『それで、その人たちは?』
「こちらには着てないわね。
おそらく、軍に徴集されたアンドロイドを奪還しに行ったのかもしれないわね……」
軍に徴集されたアンドロイドを奪還、か……。
大丈夫なんだろうか?
「それにしても、お互い生きててよかったわね」
「ええ、まあ。逃げるのに必死でしたよ……。
そういえば、ヘレンはどうします?このままうちで働くとなると、なかなか会えなくなりますけど」
「あ、そっか。荷を下ろしたら別の場所へ行くのね……」
「ええ、まずは、あの宇宙船をどうにかしに行きますけどね」
宇宙港のロビーから見下ろす宇宙船『ランスロット』は、船体全体がボコボコだ。
正面先端にいたっては、大きくへこんでいてスクラップ同然である。
ニルーナさんは、じっと『ランスロット』を見下ろしていたかと思うと、意を決したように頷き、俺に向き合った。
「ヘレンを、どうかよろしくお願いします」
そう言って、頭を下げたのだ。
「ここにいても、私はヘレンに甘えてしまう。
だから、独り立ちするためにも、一度ヘレンと離れて暮らしてみたいの」
『ニルーナ……』
「ヘレン、ごめんなさい。
私のわがままなのはわかっているけど、一度自分の力で生きてみたいのよ。
ヘレンとは小さい頃からの付き合いだけど、いい加減一人で生きていける力を身につけないとね」
『……そうね、ニルーナは何時までたっても、料理を覚えなかったから』
「そ、それは……」
「『……フフフフ』」
二ルーナさんとヘレンはお互い向き合いながら、笑っていた。
これで、ヘレンは俺の宇宙船で、これからも働くことが決まった。
▽ ▽
二時間後、冬眠カプセルの搬出も、アンドロイドが入れられていたコンテナの搬出も終わった。
コンテナに入っていたアンドロイドのその後は、ニルーナさんが責任を持って担当することになったそうだ。
政府機関のお偉いさんの中で、ニルーナさんのことをよく知っている人がいたらしく、任せるなら彼女を置いて他に無し、と決まったそうだ。
ヘレンと別れる時、連絡先を教えるとともにそのことを教えてくれた。
その後、俺たちはニルーナさんに見送られながら、惑星『ニーネル』の宇宙ステーションを後にした。
「それじゃあエヴァ、次は地球に向けて亜空間長距離ワープを!」
『了解マスター!地球に向けて、亜空間長距離ワープ、開始!』
エヴァが操縦席の亜空間長距離ワープのレバーをゆっくり引くと、いつものように、ブリッジから見える景色が光りの線から光のトンネルへ変わった。
惑星『ニーネル』から地球へ行くには、いったん天の川銀河の外へ向けてコースをとってから銀河の中心を避けて地球へのコースをとるべきだと、みんなで話し合った結果そう決まった。
カレンの話では、惑星『ニーネル』は天の川銀河の中心寄りの場所にある惑星なんだそうで、本当に避難のための一時的な惑星でしかないそうだ。
会社の上層部は、永住のために貸したわけではないのでその辺りのことも含めて、今後さらなる話し合いが必要と考えているらしい。
で、惑星『ニーネル』が銀河の中心寄りなので、このまま地球へまっすぐ亜空間長距離ワープをすると、天の川銀河の中心へ突っ込んでしまうらしい。
地球の天文家の間でも、天の川銀河の中心には巨大なブラックホールがある事は知られている。
そんなブラックホールを、亜空間とはいえ突っ切るなど危険極まりないように思える。そこで、いったん天の川銀河の外へ向けてコースをとり、銀河の中心を通ることがないところまで進んだ後、地球へまっすぐ進むコースにすることにした。
回り道なコースだが、これが一番安全なのだそうだ。
『ただ、このコースをとると天の川銀河のどこかで、いったん亜空間を抜けなければなりませんが、よろしいですか?』
「……地球に帰るだけだし、帰りはゆっくり行こうよ」
『了解しました』
提案しておいて了承されるか不安だったカレンは、俺の一言で笑顔になってくれた。
『では、天の川銀河の中心を避けるとなると……この位置でいったん亜空間を抜けましょう。
この辺りにも、地球に似た太陽系があるみたいですが、問題があるような宙域ではありませんから、すぐに地球へ向けて再亜空間長距離ワープが可能です』
「よし、カレンの提案で進むぞ!」
『『『『了解です!』』』』
こうして、すぐに決まり亜空間長距離ワープをしたのだ。
考えていないようで、考えて行動はしているのだ……。
▽ ▽
亜空間航行二日目。
今日は、ナンシー班長へ運搬依頼の終了と地球への帰還の報告をしている。
また、帰還コースの説明もついでに報告しておく。
『……なるほど、報告ご苦労様でした。加藤さんからの報告は以上ですね?』
「はい」
『では、私からも報告を。
加藤さんが注文した宇宙船は、ドッグ宇宙艦に係留して現在地球と火星の間の空間に泊めてあります。
地球に帰る前に、新しい宇宙船を受けとり引っ越しを済ませておいてください。
それと、引っ越した後は、今乗っている宇宙船をドッグ宇宙艦に引き渡してください。ドッグ宇宙艦が引き取って帰還してくれます。
あと、地球での休息期間は地球時間で10日間です。
この間、好きに過ごしていいんですが、あまり目立つ行動は控えてくださいね』
……里帰りか。
そういえば、地球に着く頃には宇宙に出て半年が過ぎるんだよな。
いろいろ買い足さないといけないものもあるし、貯金大丈夫かな……。




