第20話 二つの選択肢
宇宙船『ランスロット』のブリッジにある艦長席に、ドカッと座り込むこの船の艦長、加藤康介。
今まで、報告のために話していたナンシー班長との通信でよほど、緊張していたのだろう。
「あ~…、つかれた~」
『マスター、お疲れ様です』
私は、マスターである加藤康介の体調を心配しています。
惑星『リプルネル』付近での戦闘に巻き込まれ、極度の緊張と敵宇宙戦艦との正面からの衝突の衝撃で、気を失われたのだから……。
あの時は、ショートワープで戦場を抜け出せた後、すぐにマスターに駆け寄った。
短い声を発した後、動かなくなりましたから……。
本当に心配しましたが、オリビアが診てくれて、ただの失神だと分かりすぐに椅子のベルトを解き、ブリッジの床に寝かせました。
その時、私が膝枕をしましたが、不快に思わなかったでしょうか?
アンドロイドである私たちが、人間と同じような仕草をすることを不快に思う人が中にはいるそうです。そういう人たちは、アンドロイドの姿をロボットのように表情の分からない感じにするのだとか。
幸い、私たちのこの容姿はマスターが望んだものらしいですから、おそらく不快には思われていないはず。
「カレン、ナンシー班長が言ってたカタログって届いてる?」
『はい。……こちらになります』
そう言って、私の持つA4タブレットを渡しました。
どうやらマスターは、次の新しい宇宙船に興味津々の御様子。そばで見ている私でも、ウキウキとしている雰囲気が伝わってきます。
……どのような宇宙船であろうと、私はマスターとともに。
▽ ▽ ▽
カレンからタブレットを受けとり、表示されている宇宙船のカタログを見ると、二種類の宇宙船があった。
一つ目に表示された宇宙船は、セルバリックタイプと呼ばれる宇宙船だ。
セルバリックとは、惑星『セルバ』で造られた貨物宇宙船で、小さい運搬会社ではこれを正式採用している。
全長は1.5キロメートルと宇宙船『ランスロット』より少し小さくなるが、温度調整機能が付いており主に食品を運ぶのに適している宇宙船である。
欠点らしい欠点もなく、姿は長方形の箱型タイプとなる。
二つ目に表示されているのは、ホリーブリアタイプと呼ばれる宇宙船だ。
ホリーブリアとは、惑星『ニグリット』にいる機械科部隊の総称で、そこで開発された軍事物資運搬用貨物宇宙船だから、ホリーブリアタイプということだ。
全長は3キロメートルもあり、宇宙船『ランスロット』よりも1キロメートル長くなる。また、その分積み込める量も増えることになり元々の開発目的が、軍事物資の輸送となれば丈夫さは折り紙付きとなるだろう。
今回、提示された宇宙船はあくまで民間会社での使用となるため、ホリーブリアタイプといえど、武装はすべて撤去されている。
姿は、二等辺三角形のような先端が細くなっており、後方部は箱形になっている。
貨物宇宙船というよりは、宇宙戦艦に近い姿といえるのは開発をした関係者が軍人だったからだろう。
どちらも、宇宙船『ランスロット』の時と同じように動かすことができる。
姿形は異なるが、どちらもあくまで貨物宇宙船。
機能はそれほど変わらないということだ。
「う~ん、機能が同じようならホリーブリアタイプの方がいいかな?」
『そうですね、乗組員の生活空間も変わらないようですし……』
「それに、セルバリックタイプよりもホリーブリアタイプの方が、ブリッジに居住区から近いみたいだよ」
緊急時を考えると、ブリッジと居住区の距離は大切だ。
よって、俺はホリーブリアタイプの宇宙船を選ぶことにした。
後で聞いたが、オリビアやエヴァ、ヘレンは俺の判断に任せるつもりだったらしく、文句や注文は出なかった。
そもそも、選択肢が二つしかないのだから、どちらを選んでいようが、オリビアたちは文句も注文も出せれないというのが正しいだろう。
もっと、選択肢が多くなれるぐらい出世してから注文を出す気らしい。
とりあえず、タブレットに表示されているホリーブリアタイプの宇宙船を選び、ナンシー班長に注文しておく。
これで、今回の避難民の輸送が終わったら、新しい宇宙船へ乗り換えることになる。
「ふぅ、それじゃあカレン、荷物の整理はしておいて」
『分かりました、いつでも引っ越せるように用意しておきます』
次の宇宙船、どんな感じになるのか楽しみだ……。
▽ ▽
亜空間航行三十日目。
亜空間航行は順調に進み、トラブルなどなく進んでいる。
船体のへこみやくぼみは、シールドがカバーしているため亜空間の圧などで亀裂が入ったり歪みがさらにひどくなったりはなかった。
このまま、何ごともなく目的地の惑星『ニーネル』へ着くことを祈ろう。
それにしても、この亜空間航行時の宇宙船の中での生活は、就職前の生活とほとんど変わりがない。
規則正しい生活は、送れるようになったが何か特別にしなければいけないことはない。
そのため、日々を自分の好きなように過ごすことができる。
本を読んだり、本を読んだり、本を読んだり……。
本しか持ってこなかったことがいけなかった。
宇宙船を乗り換えるとき、日本で買い物をしよう。
今度は、映画やアニメが見れるようにテレビなどを運び込もうか。
あとゲームもいろいろ買いそろえてみたい。
……お金があるか心配だが、本だけという選択肢がない事は……。
いや、俺自身が飽きているのかもしれないな。本だけという過ごし方に。
▽ ▽
亜空間航行三十二日目。
ようやく、惑星『ニーネル』へ到着する。
ブリッジにカレンをはじめとして全員がそろった。
そして、ブリッジにこの宇宙船のパイロット担当のエヴァの声が響く。
『ワープアウトまで、5……4……3……2……1……0!亜空間長距離ワープ停止!』
エヴァが、操縦席にある亜空間長距離ワープのレバーをゆっくりと押し出すと、ブリッジから見えていた光のトンネルが光りの線に変わり、次に通常の宇宙空間へと変わった。
「すぐに索敵、現在地を調べて」
『……現在地、惑星『ニーネル』の宙域に入っています。
マスター、目の前に見えるボール大の赤い星が、惑星『ニーネル』です』
カレンが索敵を行い、現在位置を教えてくれる。
どうやら無事に、惑星『ニーネル』へ到着できそうだ。
―――ピピピッ、ピピピッ。
『マスター、この宙域にワープアウトしてくる宇宙船があります』
「ええっ!」
ここは避難惑星のはず、敵勢力が攻撃を?
俺は、狼狽えることしかできない。どうすれば……。
『右後方、ワープアウトします!』
カレンが叫ぶと同時に、宇宙船『ランスロット』の右後方十キロメートルの距離に、宇宙戦艦らしき宇宙船が現れた。
あれは……。
『マスター、後方に現れた宇宙船から通信が入ってきましたわ』
「メインモニターに出してくれ、オリビア」
『分かりましたわ。今繋ぎますわね……』
俺は狼狽えていた態度を引き締め、モニターに映った人と対峙する。
その人は、俺たちの知っている女性でヘレンの、家族だ。
『無事、到着しましたね』
「お互いにね、ニルーナさん」
俺たちは、ともに笑顔で喜んだ……。




