第19話 宇宙船の現状
カレンの膝枕で、少しだけ横になっているとブリッジに、エヴァが慌てた様子で入ってきた。
『カレン!駄目だったよ~』
『エヴァ、マスターが目を覚ましたわよ』
その言葉に、エヴァの視線はカレンから俺に移る。
『マスター!よかった~、目を覚ましてくれて~』
どうやら、エヴァも俺のことを心配してくれたようだ。
俺の側に座って、俺の手を握ってくれる。
「あ~、それで、何がダメだったのか教えてくれるか?」
『……あ!そうそう。マスター、あのね……』
そこへ、今度はオリビアがヘレンと一緒に入ってきた。
『ただいま戻りましたわ』
『ただいま、カレンさん』
そして二人も、カレンとエヴァに目が行き、最後は俺に視線が移る。
「お疲れ様、オリビア、ヘレン」
『マスター、目が覚めたんですわね』
『ご無事で何よりです、マスター』
そこでエヴァが、面白くなさそうな顔をしているのに気付き、報告の途中だったことを思い出し、もう一度報告を促した。
「エヴァ、すまないな。もう一度、報告してくれるか?」
『はい!マスター。
私はあの宇宙戦艦とぶつかった箇所を調べるために、探索ロボットを外に何体かはなって、船体を撮影してきました。これを見て!』
エヴァが手元にある小型のパネルを操作すると、撮影してきた映像がメインモニターに映し出される。
そこに映し出されたのは、ボコッとへこんだ宇宙船『ランスロット』の先端部分。
ちょうど、ブリッジの下方部にあたる場所だ。
また、船体全体が映し出されると、所々がボコボコに小さくへこんでいるのも発見できた。
「この、船体全体に広がってある小さなへこみは?」
『たぶんだけど、ビームやミサイルの攻撃をシールドだけで受けた時にできたんじゃないかな……』
「ということは、このへこみは衝撃によるへこみの跡か……」
『おそらくね~』
俺たちは全員で、この船体の様子を見ながら唸っていた。
これ、修理できるのか?と思ってしまったのだ。
「それでエヴァ、この状態でも亜空間長距離ワープは大丈夫か?」
『それは問題ないよ!空気漏れとかは見つからなかったし、シールドが守ってくれるから』
衝撃吸収シールドがあるのは、攻撃などの衝撃で、船体がへこんだりするのを防ぐためにあるのか……。
どうやら、今回は不慣れな俺の判断ミスで展開が遅れて、船体をへこませてしまったようだ……。
「オリビア、貨物室の冬眠カプセルに異常は見つかったかい?」
『いいえ、異常は見つかりませんでしたわ。
貨物室を重点にシールドを展開したことが、功を奏したようですわ』
「そうか、よかった……」
しかし、オリビアは少し顔を曇らせてさらに答える。
『ただ、最後に積み込まれたコンテナが問題でしたわ』
「コンテナ?確か、三つほど積み込まれたよね?」
俺は、カレンに確認のため聞くと頷いて答える。
『敵の宇宙戦艦にぶつかった際、貨物室の搬入ロボの何体かがコンテナに接触したため、コンテナの扉が開いてしまいましたの。
コンテナの中身や扉はそのままだったのですけれど……』
「中身が、問題だったと?」
『ええ、この納品書に記載されている中身と違いましたわ』
ということは、ワザと書き間違えたということか……。
「それで、中身は何だったんだ?危険なものだったのか?」
『いいえ、中身はアンドロイドでしたわ。
それも、全員冬眠カプセルに入れられてコンテナに積み込まれていましたわ』
アンドロイド……。
もしかして、これってニルーナさんの時と同じ理由か?
「……これは、戦争利用させないために運び込まれたってことかな?」
『おそらくそうでしょう。オリビアが見たアンドロイドは、全員ニルーナ様と同じような思いで、コンテナに入れて運び込んだ』
『ニルーナ……』
ヘレンが、何かを思い出したのか、ニルーナさんの名前をつぶやいた。
戦争利用させないように、アンドロイドの一部をコンテナで避難先の惑星『ニーネル』へ運ばせるため。
大切にされているね、アンドロイドたちは。
それにみんな、そんな期待するような目で俺を見なくても大丈夫だよ。
「今さら、戻すこともできないだろうし、このまま運んでしまおうか」
『『『はい、マスター』』』
『……ありがとうございます、マスター』
みんなの返事を聞いて、起き上がろうとしてカレンを見ると、笑顔で頷く。
それを見て、ようやく起き上がる許可が出た俺は、艦長席に座り指示を出す。
「エヴァ、シールド展開。そして、亜空間長距離ワープへカウントダウン」
『了解マスター、シールド展開……完了!惑星『ニーネル』へ向けて亜空間長距離ワープ、カウントダウン!』
エヴァの声で、カウントダウンがおこなわれている最中に俺は、ナンシー班長にあげる報告の心配をしてしまった。
……これは、怒られるかもしれないな、と。
『カウント0!亜空間長距離ワープ開始!』
そして、亜空間長距離ワープのレバーをエヴァがゆっくりと押し込む。
すると、ブリッジから見えていた宇宙空間の景色が光りの線になり、光のトンネルへと変わる。
亜空間航行に入った証だ。
これで、惑星『ニーネル』へはノンストップとなる……。
▽ ▽
亜空間航行、三日目。
今、ブリッジにいるのは俺とカレンの二人だけだ。
エヴァとオリビアは、夜間の業務のために睡眠をとっている。ヘレンは、部屋の掃除を済ませて食堂のキッチンで料理を勉強中だ。
空中に浮かぶモニターを見ながら、地球の料理を習っている。
昨日の夕食に作ってくれた、オムレツは美味しかったな。今も、一つ一つ勉強している。
それはさておき、ブリッジは今、空気が重い。
直立不動で立っている俺と、その俺の側に立つカレン。
そのカレンが見つめる視線の先には、亜空間通信で繋がったナンシー班長の姿が。
しかも今、真剣な表情で報告書を読んでいる……。
ナンシー班長に提出した報告書は、紙ではないので音も何もなく、重苦しい空気が辺りを支配している。
そして、報告書を読み終わったナンシー班長は、ため息を吐いた。
『はぁ、加藤さん』
「は、はい」
『……そんなに緊張しなくても、怒ったりしませんよ?
それに、今回の依頼はこちらからの緊急の物ですから、加藤さんが何か責任をとることはありません』
俺は、ホッとした。
今回の事で、何か責められて怒られることはなくなった。
それだけでも、よかった……。
どうも、俺の中に、女性の上司って怖いイメージがあるんだよな……。
『さて、報告書に書かれてあった荷物のコンテナの件は分かりました。このまま惑星『ニーネル』へ運んでください。
向こうの受取人へは、私から報告しておきます。
あと、宇宙船のことですが、報告書の通りなら修理修復はできませんね。
それよりも新しい宇宙船にした方が、安くすみます。加藤さんが、その宇宙船に何か思入れがあれば別ですが、一年と経っていませんからそれはないでしょ?』
「はい」
『では、後でカタログを送ります。
今日から十日以内に新しい宇宙船を選んで、報告してください。
加藤さんが地球に戻った時、ドッグ宇宙船を向かわせますから、その時に引っ越しを済ませてください。
あと、ヘレンの件はこちらで受理しておきました。後は……』
あ、新しい宇宙船か~。
この会社に入社して一年たっていないのに、もう次の宇宙船が手に入るとは……。
『そうそう、加藤さんが地球に戻ったら、一週間ほど休みとします。
休暇を楽しんできてください。
それと、ご実家から荷物が届いたそうなので、お礼の電話を入れておいてくださいね?
その時は、オーストラリア行きの船に乗っていると言って下さい。
うちの地球での会社は、貿易関係の会社なので』
「分かりました」
俺の返事を聞くと、ナンシー班長が笑顔で通信を切った。
俺は、ため息を吐くと側にいたカレンが、クスクスと笑っていた……。




