第18話 脱出
惑星『ニプルネル』へ侵攻してきた『ハースネット』という敵軍。
何隻もの宇宙戦艦が、ワープアウトをしてくると、辺りかまわず攻撃をしてくる。
その攻撃は、次々と人工衛星を撃墜し大気圏へ突入していく。
それは、まさに流星のようだ。
惑星『ニプルネル』を守る守備隊や、護衛隊所属の宇宙戦艦が敵の出現に反応して、次々と出撃するも間に合わず、敵軍である『ハースネット』は惑星『ニプルネル』の地表へ攻撃を開始した。
そのため地表は、その攻撃で地獄となるが、あらかじめの避難計画のおかげか人々の避難は完了していた。
ほどなくして、ようやく惑星『ニプルネル』側も反撃を開始する。
宇宙戦艦同士による艦隊戦は、一進一退でなかなか決着がつかない中、宇宙ステーションからようやく離れた宇宙船『ランスロット』は、ミサイルとビームの飛び交う戦場を進んでいく。
艦隊戦が繰り広げられている中で、俺たちはワープを使用して逃走を図ろうとしていたが、こうも敵味方の戦艦が入り乱れる中で使うわけにはいかなかった。
いや、そもそもワープの使用は自身の自滅を意味する……。
「ん~、この戦闘宙域を何とか抜けたい……」
『マスター、ここは我慢しかありません』
カレンの言葉に、じっと正面に映る戦闘を見ながら我慢するしかなかった。
宇宙船『ランスロット』は、あくまでも貨物専用の宇宙船だ。
そのため、戦闘行為のできる『武器』というものを積んでいないのだ。
勿論、シールドシステムがあるため、防御には自信はあるが世の中何が起こるか分からないのだ。
こうしている間にも、何隻もの敵の宇宙戦艦が近づいてくる。
そのたびに、惑星『ニプルネル』の守備戦艦や、護衛艦によって守られていた。
そして、ようやくこの宙域を抜け出せるか、という時に災難は襲ってきた。
『マスター、左舷から敵と思われる戦艦が二隻、突っ込んできた!』
「エヴァ、回避できない?!」
『……ダメ、確実にこの船を狙ってる!』
どうやら、この宙域から逃がさない気らしい。
しかし、二隻で突っ込んでくるなんて逃げ場を無くすつもりか?
目視でも確認したが、結構大型の宇宙戦艦だな……。
『マスター、どうしたらいい?!』
「エヴァ、シールドレベルを七へ、そして、面舵いっぱいで二隻の船を正面に捉えて!」
『りょ、了解!』
エヴァは、すぐにシールドレベルを上げると、操縦レバーを操作し敵宇宙戦艦二隻を正面にもって来るようにした。
これで、敵二隻の動きがよくわかる。
『わ、わ、撃ってきたよ!』
「だいじょうぶだ、エヴァ。こちらのシールドレベルなら、攻撃は一切効かないはずだ!」
俺の言う通り、敵宇宙戦艦の攻撃は、全く宇宙船『ランスロット』の船体に傷をつけることができなかった。
しかし、衝撃だけはシールドを張っていても、身体に少しだけ感じる程度ながらあった。
「カレン、この衝撃で貨物室の冬眠カプセルは大丈夫かな?」
『おそらく問題はないと思います。
心配であれば、衝撃吸収シールドも張りますか?』
「二重に張ることってできるの?」
『はい、出来ます。そもそも、衝撃吸収シールドと通常のシールドはセットで使われることが多いですね』
それは、早く言ってほしかったよ、カレン。
「すぐに、衝撃吸収のシールドを張ってくれ!」
『分かりました。エヴァ、衝撃吸収シールドを展開!とくに貨物室を重点にお願い』
『了解!衝撃吸収シールド、展開!』
すると、今まで攻撃を受けるたびにあった小さな震動が無くなった。
すごいな、衝撃吸収シールド!
しかし、どんどん近づく敵宇宙戦艦。そして、止むことのない攻撃。
だが、俺たちは一切反撃をせずに進むだけ。
そこへ、惑星『ニプルネル』側の宇宙戦艦が、こちらを狙う二隻のうちの一隻へ攻撃を仕掛けてくれた。
こちらに攻撃を集中していたところへ、別の方向からの攻撃。
惑星『ニプルネル』側の宇宙戦艦を、迎え撃つように一隻離れていったがもう一隻は進路を変えず突っ込んでくる。
『マスター、どうする?どうする?』
「落ち着けエヴァ、ギリギリまで引きつけて直前になってかわすんだ。
この宙域に来た時を思い出せ、アレをしてかわすんだ」
『この宙域に来た時……この宙域……分かった!』
頼むぞ、エヴァ。
宇宙船『ランスロット』は、敵船が向かってくる中まっすぐ進む。
敵の宇宙戦艦もまた、こちらを捕らえて攻撃を仕掛けながらまっすぐ進んでくる。
……しかし、何故攻撃してこない俺たちにこんなに攻撃をしてくるのか?
しかも、体当たりをしようとしているようだし……。
目の前にまで迫ってきた敵宇宙戦艦。
タイミングを見計らって、エヴァが叫び、敵宇宙戦艦をギリギリでかわそうとした。
『……今だ!面舵いっぱい!』
そして、すぐに気づいた!敵の宇宙戦艦も、俺たちの曲がる方向へ舵を切ったのだと。
「まずい!取り舵だエヴァ!」
『えっ?!』
エヴァの声が聞こえた瞬間、宇宙船『ランスロット』の正面にあたるブリッジの下に敵宇宙船の先端が突っ込んできた。
―――ドカッ!!!
いくら衝撃を吸収するシールドでも、敵宇宙戦艦からの攻撃が効かなかったシールドでも、敵宇宙船の体当たりの衝撃は防げなかったようだ。
ブリッジにいる俺たち五人に、シートベルトをして対ショックの対策をしている俺たち五人に、椅子から投げ出されるかと思えるような衝撃が襲い掛かった。
それほどの、衝撃があったのだ。
幸い、エヴァが取り舵に切り替えていたため、正面にぶつかった敵宇宙戦艦は、ガリガリと宇宙船『ランスロット』の先端をこすりながら抜けていった。
俺たちは、衝撃とシートベルトの痛みに声も出なかったが、すぐにエヴァがショートワープを展開。
戦闘宙域から脱出できた……。
▽ ▽
「……ここは……」
どうやら俺は、艦長席に座ったまま気を失っていたようだ。
いつの間にか、戦闘がなくなっていた。
『マスター、気が付かれましたか?』
俺をのぞき込むのは、カレンだ。
カレンの顔を見て、そしてその後ろの光景を見る。
「天上……ここは、ブリッジなのか?」
『はい、あの体当たりの後、何とかショートワープで戦闘宙域を脱出。
ここは、惑星『ニプルネル』のあった恒星系の外になります』
「恒星系の、外……」
起き上がって、宇宙船『ランスロット』の外を見ようとするが、すぐにカレンに止められる。
『ああ、起き上がらないでください。
まだ安静にしておかないといけません』
目が覚めてから、少し時間が経って頭が回るようになったのか、今いる場所や皆の様子が気になった。
「ここは、ブリッジなのか?」
『はい、ショートワープ後、マスターが気を失っていたので動かさない方がいいだろうと……』
「それじゃあ、他のみんなは?」
『オリビアは、貨物室の様子を見に行きました。
エヴァは、体当たりされた船体のチェックです。
ヘレンは、生活空間がどうなっているのかの確認と清掃を』
どうやら、みんな無事なようだ。
しかし、こうして静かに考える時間ができると、後悔してしまうな。
俺の指揮はあれでよかったのか、とか。
そもそも、もっと早めに行動を起こしていれば、とか。
俺はふと、自分の手が震えていることに気付いた。
そして、俺の震える手をそっと握りしめてくれるカレンの両手。
アンドロイドとはいえ、温かかった……。




