第12話 それぞれの思い
「ん~、美味しい!」
「地球の料理、なかなか美味しいです」
亜空間航行、十五日目。
今日も食堂でみんなそろって昼食、というわけにもいかず、ブリッジに残ったオリビアを除く全員が食事をしていた。
今日の昼食は、みんな大好き『カレーライス』だ。
一週間前の夕食に出して、ニニシアさんたちも気に入った地球の料理だ。
基本、食堂の料理は地球の料理が出る。
そのため、毎回勇気を出して一口目を食べているようなのだが、今のところハズレはなかったようだ。
「それにしても、スパイスの調合でこんな味が出せるものとは……。
本当に、興味深い料理ですね」
ブリッジに小銃持って乱入してきたマナルルさんとススーニさんは、素直に『カレーライス』を美味しいと褒めてくれた。
また、ニニシアさんは『カレー』のスパイスに注目し、料理そのものに関心を寄せている。
この『カレーライス』も、ニニシアさんのリクエストだったりする。
「ニニシアさんの故郷である『スライブ』にも、美味しい料理はあるでしょ?」
俺が、食べながら質問すると嬉しそうにニニシアさんが答えてくれる。
「ええ、私の故郷の『メールンド』は特に美味しいって有名ね」
「そうですね『メールンド』は、手軽で有名ですよね~」
ニニシアさんとマナルルさんは、互いに『メールンド』押しか。
……で、『メールンド』って何?
俺たちの疑問に思っていることを察してくれたのか、ススーニさんが説明してくれる。
「『メールンド』とは、昨日の昼食に出た『サンドイッチ』のことですよ。
挟んでいる具材は違いますが、有名な料理ですね」
「そうそう。加藤さん、実は『メールンド』って昔の人の名前なんです。
昔、メールンドって貴族が他の貴族の不正を見つけ、昼夜を惜しんで調べている時に簡単に食事がとれるように、考えだされた料理なんです」
「そういえば私、何かに夢中になると『メールンド』ばっかり食べてたわね」
ニニシアさんが、ふと思い出したように言った。
どうやら、誕生物語は、どこも似たような感じだな。
地球の『サンドイッチ』は、確かカードゲーム中にだったっけ?
何かに夢中になって、簡単に食事をとるために発明された料理。
どこも、変わらないね……。
▽ ▽
亜空間航行、二十日目。
カレンの計算では、明後日の昼近くに亜空間航行を抜けて通常航行に入る。
それで、惑星『クトゥ』が見える位置に出るはずだ。
資料を見直しながら、ブリッジの艦長席に座っていると、のどが渇いてきた。
俺は後のことをカレンとオリビアに任せて、食堂へ移動する。
食堂に入ると、ニニシアさんたちはおらず、付き添いのススーニさんだけが椅子に座りコーヒーを飲んでいた。
何か考え事をしているような感じだな……。
「ススーニさん、お一人ですか?」
「ヒャッ!………なんだ、加藤さんでしたか。
ええ、ニニシア様やマナルルは、自分たちの部屋に戻っています」
どうやら、ニニシアさんとマナルルさんはお昼寝のようだな。
ここ何日か、何の本の影響か昼食の後お昼寝をするようになっていた。
ススーニさんは、お昼寝には付き合わずに、初日から飲んで気に入った地球産のコーヒーを飲んでいる。
俺は、キッチンに入ると、冷蔵庫からペットボトルに入ったオレンジジュースを取り出し、食堂の席に座ってコップに移して飲む。
「お一人で、何か考え事ですか?」
「………向こうに着いてからのことを、ちょっと」
う~ん、このまま聞いていいものなんだろうか……。
ススーニさんから話すのを待った方がいいかな?
そんなことを考えていると、ススーニさんから話しだした。
「……今回のニニシア様の密航計画、私にとってはチャンスだったんです」
「チャンス、ですか?」
「ええ、私には、別れた男との間に娘が一人いるんですが、その娘が探査宇宙船のメンバーに選ばれているんです」
え?……ちょっと待てよ。
「あの、失礼ですが、その娘さんは何歳ですか?」
「娘は、六歳になったばかりです」
「……だとするなら、普通は選ばれることは、ないですよね?
ニニシアさんが、選ばれてないんですから……」
「ええ、そうです。
娘が選ばれたのは、その別れた男が探索チームの護衛部隊のリーダーになっているからです。
……あの男には娘を預かってくれる人がいなかったのでしょう、一緒に連れて行ってしまいました。
そのために、私が娘に会うことができなくなってしまって……」
なるほど、それでチャンスだったというわけか。
でも、どうやって誘われたんだろ?
「あの、ニニシアさんの密航計画には、どうやって加わったんですか?」
「普通に、求人募集してましたから、それに応募して……」
……ニニシアさん!何、普通に募集してるの!?
「……私は、どうしても娘に会いたかった。
あの男が、娘とともに旅立ってすでに二年がたっています。
娘と連絡をとろうにも、探査宇宙船に知り合いはいませんし、政府の許可なく連絡も取れません……」
「あの、その娘さんを連れて行った男の人は……」
「あの男のことは、もう何とも思っていません。
私が妊娠したと分かると、家に帰ってこなくなる男など……」
……おいおい。てことは、ススーニさんは、一人で子供を産み、一人で育てていたってことか?
二年前に出発したらしいから、娘さんが三歳か四歳まで。
「何というか、同じかどうかはわかりませんが、男として申し訳ない……」
ススーニさんは、謝った俺を見てびっくりしてすぐに笑った。
「フフフ、何故、加藤さんが謝るんです?」
「いや、何か謝った方がいいかな~、と」
「加藤さんは、あの男じゃないんですから、謝る必要はないんですよ。
……でも、フフ、ありがとうございます」
……向こうで、娘さんに会えるといいな。
もしかしたら、男の方にも何か理由があったのかな?
何だろう、俺には手に負えない世界の話だ。
結婚も、子供も持ったことない俺には、どう言っていいのか分からない。
俺は、温くなったジュースを飲みながら、ススーニさんの話を聞いてあげた……。
▽ ▽
亜空間航行、二十二日目。
『亜空間長距離ワープアウトまで、5……4……3……2……1……0!』
パイロットのエヴァのカウントダウンとともに、亜空間トンネルから通常航行へ景色が変わっていく。
そして、目の前の宇宙空間に小さいながらも、惑星『クトゥ』を確認した。
『マスター、惑星『クトゥ』を確認しました。
付近にスライブの探査宇宙船がないか、捜索を開始します!』
ブリッジに俺とカレン、オリビアにエヴァのいつものメンバーが、それぞれに仕事をしている中、補助椅子を出して俺の右隣に座っているのが、密航計画首謀者のニニシアさんで、そしてその護衛に雇われたマナルルさんとススーニさんの二人。
今にも飛び出しそうなニニシアさんをなだめて、大人しく椅子に座ってもらっている。




