第11話 原因究明
「さて、精密検査でも異常は見られなかったそうだね?」
「はい、お世話になりました。
ミュージー様、ニニシアさんを止めることができず、申し訳ありません」
「それは、もういいんだよ。
それより、ニニシアさんが密航することになった経緯は分かりますか?」
「はい、すべてはオーベベン博士の手紙からなんです……」
第6宇宙港の併設してある病院から、無事退院したオーベベン博士の第一助手のレレンナさん。彼女は、ニニシアさんの同年代で友達でもある。
高学校(地球でいう大学院)で勉強している時に、オーベベン博士の第一助手に任命され、それが孫娘のニニシアさんの友達としてのコネだとしても、うれしかったそうだ。
ところが、五年前に惑星『クトゥ』の存在が明らかになり、古代美術館に納められていた『キージェスの古文書』が注目を集めることになった。
それは、あるページに書かれている内容のことが原因だ。
『私たちは、星の海を飛び彼らの母星に降り立った。
そこは、光り輝く世界で、まるで神の世界だった。一瞬、私は死んでしまったのかと錯覚したほどだ。
その驚きを、隣に立つ友人に話せば、花のような笑顔で笑われてしまった……』
この後にも、その母星のことが紹介されていて、最後にその星の名前が記されていた。惑星『クトゥ』と。
今から約3000年前に、キージェスという人物によって書かれた本なのだが、惑星『クトゥ』が発見されるまでは、想像で書かれた創作物として、ただ古い本としての価値しかなかったものが、一気に古文書にまで祭り上げられた。
そして、専門チームによる解明が始まり、わずか一年で宇宙船の建造が始まったほどだ。
勿論、これは外宇宙の人たちの協力なしには実現しなかったが、完全に私たちだけで造り上げた宇宙船の最初の使い道が、惑星『クトゥ』の調査とは我々スライブ人の本質を表しているということだろう。
有名なオーベベン博士をはじめ、第一線で活躍中の博士や教授を乗せ、調査宇宙船は旅立っていった。
それが二年前のこと。
オーベベン博士の手紙が届き始めたのがその頃か。
まあ手紙といっても、亜空間通信の内容を手紙にして、孫のニニシアさんに届けられたってだけなのだがな。
「そういえば、亜空間長距離ワープができる宇宙船は、連邦軍しか持ってなかったな。ワープ航法の仕組みとかも秘匿されていたか……」
「ええ、ですから、今回の調査宇宙船には、連邦の軍関係者が多く乗っているらしいです。おそらく、古代遺跡の謎を解明し軍事力の強化が目的でしょう……」
「愚かな……」
オーベベン博士からニニシアさんへの手紙は、遺跡のことが大半だったようだ。
孫のことより遺跡の話。
オーベベン博士らしい、好きなことにとことん夢中になれる性格だ。
「そして、十日前に届いた手紙の最後の言葉が、ニニシアさんをあの行動へ動かしてしまったんです」
「最後の言葉?それは……」
「それは、祖父から孫への約束の言葉だったはずです。
ですが、ニニシアさんはそう捉えなかった。
『遺跡の謎はこの儂が必ず解明してみせよう、だから土産話を楽しみにな』
……これがいけなかったんです』
確かに、祖父から孫への言葉になっているが……。
「なるほど、ニニシア様はその言葉でお怒りになったのですね?
ミュージー様、ニニシア様は好奇心旺盛な方、今までの何度かの手紙で遺跡のことを知らせてもらっていたのでしょう。
そして、その遺跡の謎を自分でも解明したくなっていった。
いつか自分も現地へ行って、探索チームに加わり遺跡の謎の解明をしたい。
そう思っていたのでしょう。
ですが、祖父の手紙の最後で、今までたまりにたまってたのものが爆発した、と」
それで自分の手で、遺跡の謎を解明したい。祖父を出し抜いてってことなのか?
知識欲ありすぎだろう。好奇心旺盛過ぎだ。
どうやったら、あんな娘に育つのか、訳が分からん……。
「まあ、原因は分かった。
亜空間通信で、惑星『クトゥ』にいるオーベベン博士に知らせておこう。
そうすれば、向こうで対処してくれるはずだ」
加藤君の宇宙船はもともと、その調査宇宙船に生活物資や食料を届ける宇宙運搬会社の宇宙船だからな。
それに、加藤君たちを傷つけることもないと思えるしな……。
「ミュージー様、大丈夫でしょうか?
ニニシアさんが出発してから、すでに五日が経過しています。
今から向こうに知らせても……」
「それは心配するな。
惑星『クトゥ』までは距離がある。いくら亜空間長距離ワープといえど、すぐのすぐ到着するわけではない。
確か、二十日はかかるらしいから、今からでも大丈夫のはずだ。
そうだよね?ササナー君」
「はい、ミュージー様。亜空間通信はすぐ繋がりますが、移動はやはり時間がかかるようです」
「そういうことだ。
それじゃあ今から詳細をまとめて、向こうに知らせてくれ」
「分かりました」
さて、後の問題は、加藤君たちが無事に目的地に着くことだな。
……頑張ってくれよ、加藤君。
▽ ▽
「それじゃあカレン、これをナンシー班長に送っておいてくれ」
俺はブリッジで、カレンに報告書を手渡した。
ナンシー班長には、内緒で事を解決しようと考えた俺だが、後々になって報告ぐらいはしておかないと大変なことになりそうな気がしたので、こうして報告書を作成したのだ。
現在、亜空間長距離ワープを起動し、亜空間を航行して十日が経過していた。
絶賛、外の景色は光のトンネル状態である。
また、密航者のニニシアさんたち三人は、早くも亜空間航行に飽きたのか暇を持て余し俺に泣きついてきた。
どうやら、密航までしか計画していなかったらしく、こんなに亜空間長距離ワープも時間がかかると思ってなかったようだ。
そんなわけで、俺は地球の日本の本を出してあげた。
勿論、そのままでは読めないため、通訳眼鏡なるものをかけて夢中になって読んでいる。
本の内容もさることながら、別の星の宇宙人の文化に触れることがワクワクするのだろう。
おとなしいものである。
あと、食事にも喜んでいたな。
宇宙コンテナに、スライブ人の食料は積み込んであるが、あれはあくまでも大事なお届け物。
勝手に手を付けるわけにはいかないと、彼女らを説得し俺たちと同じ食事を提供した。
最初は、身体は大丈夫か?とか、病気は?とか心配していたが、いざ勇気を出して食べてみると、思いのほか美味しかったのか笑顔でぺろりと平らげてしまった。
とりあえず、地球の食事を気にいってくれてよかったよ。
この先、食事は、俺たちと同じものを食べるしかないんだし……。
ブリッジで、目的地の資料を見たり、航行日誌をつけていると、ニニシアさんと一緒に来た女性の一人のススーニさんが呼びに来た。
「みなさん、夕食の準備が整いましたよ?」
「はい、知らせてくれてありがとうございます」
「いいえ、では食堂へお集まりくださいね?」
ススーニさんは、大人な人なのに、なぜこんなことに付き合っているのかな?
今度、聞いてみるか?




