第10話 やっぱり巻き込まれました
「ミュージー様!大変なことが分かりました!」
「どうしたササナー君、そんなに慌てて」
惑星『スライブ』の衛星軌道上にある宇宙ステーション『コーファル』の、第6宇宙港の見送りロビーに、ミュージー・ハルドは加藤康介の乗る宇宙船ランスロットを見送るため来ていた。
以前から運搬を頼んでいた、宇宙運搬会社『ショルフダール』のナンシー女史とは、彼女が貨物宇宙船の艦長をしていたころからの知り合いだ。
当然、ナンシー女史を口説いたこともある。
無論、ことごとく断られたがな……。
しかし、今回の新人教育の一環ということでそのナンシー女史に頼まれるとは、世の中どうなるか分からないものだ。
そして、その頼まれた新人の加藤君。
なかなかの好青年ではないか?少し年齢がいっているようだが、ナンシー女史に比べたら……っと、それは言っても考えてもいけないことだったな。
話しやすいし、何より真面目な所がいいな。
そんな加藤君を送ろうと、見送りロビーで出発前の彼の宇宙船を見ていれば、下方から小型の宇宙船が突っ込んでいったではないか!
どういうことか、すぐにササナー秘書官に調べるよう頼んだら、少しして慌てて私の元へ戻ってきた。
もしかして、よくない事でも起きたのか?
「大変です、貨物宇宙船にオーベベン博士のお孫さんが!」
「はぁっ?!ど、どうして博士のお孫さんが関わってくるんだ?
最初から順に話してくれ」
「わ、分かりました。
ミュージー様に言われたとおり、事故の様子を調べに参りました。
その時、救助された方がいるとの情報を得て、この第6宇宙港内にある病院へ向かいあってきたのです。
その人物が、レレンナ・モドス様。
オーベベン博士の第一助手をしている方ですが、お孫さんであるニニシア様の友人でもあるそうで、今回の事故を故意に起こされたそうです」
「ワザと小型宇宙船をぶつけて、どうするつもりだったんだ?」
「ニニシア様の密航を阻止するためだったようです!」
「み、密航?!」
「はい、レレンナ様がおっしゃるには、ニニシア様は祖父であるオーベベン様以上の好奇心の持ち主で、今、惑星『クトゥ』に調査のために出張しているオーベベン様を追いかけたのではないかと。
それも、オーベベン様を出し抜いて惑星『クトゥ』の遺跡の謎を調べるために、と」
「……と、言うことは、今出港しようとしているあの加藤君の宇宙船に?!」
「は、はい!」
私はすぐに、見送りロビーの大きな窓に張り付き加藤君の宇宙船を探す。
かなりこの宇宙港から離れていて、船体が小さくなっていたがまだ連絡可能範囲にいてくれた。
そこで、すぐに宇宙港の通信室へササナー君と急ぐ。
密航とは、何を考えているのか!
確かオーベベン博士のお孫さんは、まだ学生のはず。
学生の身分で、外宇宙へ出ることは法で禁止されているはずだ。
もし法を無視して、外宇宙へ出たら大変なスキャンダルだぞ!
祖父のオーベベン博士だけじゃない、彼女の父親のレーハスス連邦議員の立場もまずいことになる!
何としても、止めなければ!
▽ ▽
ようやく宇宙港を離れ、これから目的地の惑星『クトゥ』まで亜空間長距離ワープをすれば到着だ。
何ごともなく無事にすめばいいけど、あの事故が引っ掛かるんだよな……。
「カレン、惑星『クトゥ』までは亜空間長距離ワープで二十日だったよね?」
『はい、正確には二十二日になります』
その間、のんびり過ごすことになるかな……。
そんな空気を一変する報せが、通信で入ってきた。
『マスター、ミュージー様から緊急連絡ですわよ。そちらに回しますわね』
オペレーターのオリビアが、緊急連絡を受けとった。
ミュージーさんって、依頼者のあの人だよね?何の用だろうか?
そして、俺の目の前のメインモニターに現れるミュージーさん。
その後ろには、秘書のあの女性もいる。
『あ、加藤君!た、大変だ、落ち着いて聞いてくれ!』
「ど、どうしたんですか?そんなに慌てて……」
『実はだね…』
その時、ブリッジの扉が開き、二人の女性が飛び込んできた!
どちらも、まるでプロテクターのような黒い服を着て、両手には小銃のようなものが俺たちに向かって構えられている。
「動かないでください!両手は見える位置へ!」
そう言われ、驚いていた俺たちは、言うとおりに両手を見える位置にあげておとなしくする。
操縦席に座るエヴァは、手が離せず後ろに叫んだ彼女とは別の女性が、小銃を構えて待機していた。
どうやら、宇宙船を操縦しているのがエヴァだと、手が離せない状態だと分かっているようだ。
「……そのまま、宇宙船の操縦を」
『は、はいぃ……』
いつもの元気なエヴァじゃない、恐怖に震えあがっている返事だった。
『加藤君!!』
「フフフ、どうやら止めるのが遅すぎたようね?」
ブリッジの中にゆっくりと入ってくる女性。
この女性が首謀者というわけですか!いったいどこに紛れ込んでいたんだ?!
『やはりニニシア・クーボスさん!
このようなことをして、どうなるか分かっているのですか?!』
「ええ、分かっているわ、当然祖父や父がどんな立場になるかもね」
『でしたら……』
「それでも、私は知りたいのよ!
惑星『クトゥ』にある遺跡の謎を解明すれば、あの古文書の謎が解けるわ!
なぜ私たちの惑星『スライブ』から、1000光年も離れた惑星『クトゥ』の記載が3000年前の古文書にのっていたのか!
わずか200年ほど前に初めて宇宙に出た私たち人類が、どうしてそんな1000光年も離れた惑星と交流があったのか!
気にならない?私は、気になって気になって気が狂いそうなの!」
『だ、だからと言って密航はやりすぎです!
あなたの祖父であるオーベベン博士の力を使えば、助手として特別に連れて行ってもらえるでしょうに!』
ニニシアは、つかつかと前に出てメインモニターの前に仁王立ちになる。
「それはもうお願いしたわ!でも駄目だった。
お爺様は、あの遺跡の謎を自分で解くつもりなのよ?そんなの許せる?
あの謎は、私が解きたいのよ!
この、私の手で、解いて見せたいの!
……だから、私の邪魔はしないでちょうだい!」
『ニニシアさん!』
「通信を切って!そして、すぐに惑星『クトゥ』に向けて発進よ!!」
オリビアが俺を見たので、頷く。
ここは刺激せずに、言う通りにするのがいいと思えたからだ。
オリビアは、すぐに通信を切る。
『まっ!』
ミュージーさんが切れる寸前に止めようと、叫んだが無情にも通信は切れた。
その後、惑星『スライブ』との回線を切り、通信できないようにする。
……それはやりすぎじゃない?オリビアさん。
「フフフ、これで邪魔者はいなくなったわ。
艦長さん?惑星『クトゥ』まで、嫌でも付き合ってもらうわよ?」
「……わ、分かったよ」
ニニシアさんは、嬉しそうにニコリと笑うと、小銃を突き付けていた仲間二人と一緒にブリッジを出ていった。
ブリッジの扉が閉まると、俺たちは大きく息を吐いた。
『はぁ~、マスター~……』
「泣かないでくれエヴァ、惑星『クトゥ』には最初っから向かうことになっていたんだ。同乗者が増えただけだよ……」
エヴァが俺を見て、今にも泣きそうな顔をしてたので、何とかなだめる。
すると、今度はオリビアが声をかけてきた。
『マスター、今のうちに救助を呼ばない?スライブの人達には無理でも、本社に助けを求めれば……』
「いや、それをするとナンシー班長に叱られる気がする。
ここは、俺たちで対処しよう。
それに、今のところこちらを傷つける気はないようだしな……」
『マスター、どうしてわかるんですか?』
「カレン、彼女たちの武器を見たかい?あの小銃らしきものを……」
カレンは、少し考えて何かに気付いたように俺を見る。
『マスター、よく気づかれましたね』
「まあね、ナンシー班長のくれた資料に載っていたからね。
ほんと、よく調べているよ、ナンシー班長は」
エヴァとオリビアはどういうことか分からないようで、俺たちに聞いてくる。
『え?どういうことなの?』
『カレンさん、マスターと一緒に分かってないで、教えて下さらない?』
俺は、カレンと顔を見合わせて、クスリと笑うと教えてあげる。
「エヴァ、オリビア、彼女たちの武器はショックガンだったんだよ」
『『ショックガン?!』』
『ええ、あの武器で人を殺すことはできません。
しかも、生体強化しているマスターや、アンドロイドの私たちを傷つけることはね』
『なぁ~んだ、それじゃああんなに怯えることなかったのか』
『そうだったんですね……。
でもそれなら、今からでも取り押さえれば……』
「目的地は一緒だからね、このまま言う通りにしてもいいかなと思ってね。
それに、向こうでも何か対策がされていると思うし……」
『……マスター、めんどくさいんですね?
彼女たちを捕らえて、引き渡す際のゴタゴタが』
さすが俺の秘書のカレン。
よくわかっていらっしゃる……。




