蛭子様のご乱心3
滝壺ライダーは上から下に落ちるだけのアトラクションだが池にダイブするという要素が追加されていた。適切に安全バーをすれば池に投げ出されることもなく、濡れることもない。
リュウは素早く蛭子を滝壺ライダーに乗せるとそのまま発車させた。
「ちょっと!リュウ先輩!安全バー蛭子さんしてませんよ!」
「……いいんだ。タニ。」
リュウはなんだかとても穏やかな声でタニをなだめた。
滝壺ライダーは上に到達し、思い切り落下した。
「よし、タニ、行くぞ!」
「え?」
リュウはタニの手を引くと竜宮ロビーに向かって逃げた。
遠くの方で蛭子の「あー……。」という小さな悲鳴と思い切りのいい水の音が響いた。
おそらく池に勢いよく落ちたのだろう。
「あちゃ~……すごい音したね。リュウにタニちゃん。……あ、あれ?ちょっとリュウ!タニちゃん?」
ふと我に返ったエビスはリュウとタニがいない事に気がついた。
「ていうか、これ、パパ大丈夫なの?死んでないよね?ぱぱーっ!生きてるー?」
エビスが戸惑った声を上げた時、大きな水音と共にびしょ濡れの蛭子が鬼の形相でエビスの前に立っていた。
「エービースー!」
このお話では言っていなかったがエビスの父、蛭子は怒るととても怖い。
「ひぃい!これは私のせいじゃなくて……。」
「エービースー!これはどういうことだ!」
蛭子の酔いは完全にさめたようだ。
「違うの!パパにお酒を盛ったのは私だけどこれをやったのは違うの!」
「パパにお酒を盛っただと!エビス!そこに座りなさい!」
「ひぃい……ごめんなしゃあい……。」
エビスは蛭子にはとっても素直である。
「あーあー……かわいそ。大泣きじゃねぇか。」
リュウは柱に隠れながら心底楽しそうに叱られているエビスを眺めていた。
「ちょっと、リュウ先輩、あれじゃあエビスさんがかわいそうですよ。」
「かわいそうなもんかよ。こないだ、思い切り俺様達をハメやがって。いい薬だろ。……まあ、もう少ししたら助けてやるけどな。あと三時間後くらい。」
「エビスさんに厳しすぎますよ……。リュウ先輩。」
タニはエビスに同情の視線を向けていた。
「……くくっ。俺様はあの親子が好きなんだよ。眺めているだけで楽しいぜ。俺様も子供ができたらあんな風な親子になりたい。」
「リュウ先輩?」
リュウはどこかうらやましそうな顔で蛭子とエビスを見ていた。
「リュウ先輩、子供が欲しいんですか?」
「別に。お前で我慢するからいいや。」
「私は子供じゃありません!」
「……知ってるよ。」
頬を膨らますタニの頭をリュウは優しく撫でた。
蛭子のお仕置きはまだまだ終わりそうになかったがいい感じのタイミングでリュウがエビスを助け出し、この件はきれいに終わった。
しかし、この後、リュウにはオーナー天津彦根神からの雷が激しく落ちるのであった。




