蛭子様のご乱心1
あと一、二話でこのシリーズはおしまいとなります!!
最後までギャグっぽく進みます。
よろしくね!!
神々が住まう所、高天原には神々の娯楽施設があった。高天原南にあるテーマパーク竜宮では従業員の龍神達が常に慌ただしく動いている。
ここで働く従業員の少女タニは今日も例外ではなく忙しかった。
時期は寒さも本格的になってきた晩秋。日も短くなり雪が降るのではないかと思うほどに寒い。
「お鍋の季節~。お鍋の季節~♪」
タニは謎のお鍋の歌を歌いながら気持ちよく竜宮ロビーをスキップしていた。
「しらたき、白菜、にんじーん~。しい~たけ。ミキサーでみっくす!」
「おい、わけわかんねぇ歌、歌ってんじゃねぇよ。その歌、鍋じゃなくてなんだか得体のしれねぇもんができてんじゃねぇか。」
「わっ!リュウ先輩!」
タニの横を何気に歩いていた、先輩のリュウにタニは驚いて飛び上がった。
リュウは黒字の布に金色の龍が描かれている着物を半分脱いで着ており、目つきも悪いのでぱっと見、怖いお兄さんに見える。
だが実は面倒見がよく、優しい男なのであった。
「得体のしれねぇもん作る歌なんて歌ってねぇでチャキッと仕事しろ。今日は竜宮の宴会席で七福神の会合だぜ。」
「七福神!」
リュウの言葉にタニは優しそうにニコニコ笑っている神々達を思い浮かべた。
「えーと……今日はどこの七福神だったかなー……。」
「七福神っていっぱいいらっしゃるんですか?」
タニの質問にリュウは大きなため息をついた。
「知らねぇのかよ……。本来は一つだったが日本人が区分けごとに七福神を作っちまったせいで同じ神でもまったく別物の七福神があっちこっちでできちまったんだよ。例えば、相模七福神とか江の島七福神とか、日本橋七福神とか浅草七福神とか……いっぱいいるだろ?」
「た、確かに……。七福神だけで八百万ですね……。」
タニはリュウの説明に目をパチパチさせて驚いた。
「んで……今日は……ああ……思い出した。天界通信の社長のとこの七福神だ。」
「それってこないだ来たエビスさんのお父様ですか?」
「ああ。予想だとあのクソ真面目な社長が最初に乗り込んで来るな。」
タニとリュウが会話をしているとシルクハットを被った羽織袴のハイカラな男性が宴会席方面のロビーへと歩いて行くのが見えた。
「ほうら、来た。」
「あ、あれが……エビスさんのお父様、蛭子神。」
「そうだぜ。まだ会議までだいぶん時間があるじゃねぇか。なんか嫌な予感が……。」
リュウは縮こまった。会議までまだ三時間近くあるため、他の従業員はまだ来ていない。
まだ時間ではないからとはいえ、相手をしないというのはまずい。
「と、とりあえず、このままですと竜宮の勤務体制を疑われてしまうので接待しましょう。」
「おう。」
タニの言葉にリュウも頷き、蛭子の元まで恐る恐る歩いて行った。
「ずいぶんとお早いお着きですね。どうなさいましたか?」
リュウがプロ根性で蛭子に笑顔を向けた。
蛭子は突然話しかけられて驚いていたが生真面目な顔で一つ頷いた。
「ツアーコンダクターと丁稚さんか。」
「でっち!?」
蛭子の低く美しい声にタニは反応した。
「丁稚奉公は大変だろう。理不尽な理由で殴られたりしていないか?いじめられたりしていないか?」
なぜか蛭子はタニをとても気にしていた。
「えー、えーと……あの、私、丁稚じゃなくて従業員です。」
「タニ……どっちも一緒だ。」
困惑しているタニにリュウが小さく耳元でささやいた。
「リュウ先輩……丁稚ってなんですか?出っ張っている幼稚ですか?」
「うるせぇ。何わけわかんねぇこと言ってんだ。……いい。今は流せ。後で教えてやる。」
「はい。」
リュウのささやきにタニもささやいて答えた。
「うむ。ちょうどいい。竜宮の手代と丁稚の記事を書かせていただこう。」
……うぐっ……やっぱそっちかよ。この記事オタク。ていうか、手代って俺様の事か?俺様、番頭くらいの地位だと思ってんだが……。
リュウはそう思ったが口には出さなかった。
「では、そこの少女を手代さんが壁に押し付けて見てくれ。」
「ちょっと待て……あんたは俺様達に何をさせようってんだよ!妄想で記事書こうって魂胆か?スキャンダルになっちまうだろうが!」
「冗談だ。」
マニュアル通りの言葉遣いをきれいに取っ払ったリュウはその後の蛭子の言葉で目を見開いた。
……冗談?このクソ真面目な男が冗談だと!
「なんだ?ヘチマみたいな顔をして。」
「ヘチマって……どういう顔だよ。」
蛭子は真面目くさった顔でリュウに言い、リュウは頭を抱えた。
「リュウ先輩……蛭子さんって真面目なんですか?それとも冗談がお好きなんですか?」
タニが困惑した顔でリュウにささやいた。
「……うーん……いつもは真面目が真面目になったくらい真面目なんだが……今日はなんだかおかしいぜ。」
「よし、では丁稚さんの仕事風景を取材させてくれ。」
「まてまてー!あんた、ここに何をしに来たんだよ。」
「何って取材だ!」
リュウの言葉に蛭子は目を輝かせて叫んだ。
「や、やっぱりおかしいぜ。あんた。熱あるんじゃないか?」
リュウが戸惑っていると遠くの柱の影に蛭子の娘、エビスが控えめにこちらに向かって手招いていた。
どうやらこっちに来いと言っているらしい。
「タニ……ちょっと離れるぞ。」
「え?」
リュウはタニに壁際にある柱を見るように目で促した。
「あ……。」
「すんません。ちょっと用事を片づけてきますのでここにいてください。タニ、相手していろ。いいな。」
リュウは蛭子に軽くほほ笑むと困惑気味のタニを残し、素早くエビスの方へ歩いて行った。
「りゅ……リュウせんぱーい……。」
タニはすでに柱の影に隠れてしまったリュウに助けを求めるように小さく声を上げたが蛭子に捕まってしまった。
「何歳くらいから丁稚をしているんだ?いつもは何をしている?カマドウマのようなダンスができるというのは本当か?カマキリの構えもできるとか……。PRのCMでジェットコースターを灰にしたというのは真実か?タマリュウという草の成分は主に何なのか?」
……リュウせんぱーい……。
タニは心の中で泣いた。




