冷林ぬいぐるみ騒動4
「……?」
タニとリュウは階段の上の方を向いた。
「!」
刹那、青いぬいぐるみの渦にタニとリュウは飲まれた。
「うわっ!なんだ!」
「えっ!これ……。」
リュウとタニは自分達の状況を見て全力で戸惑った。タニとリュウは沢山の冷林ぬいぐるみに埋まっていた。従業員用階段は幅が狭く、冷林のぬいぐるみは階段にぎっちりと詰まっている。
「ひやあああ!タニ!タニィ!」
リュウはタニに向かい悲鳴に近い声を上げた。
「リュウ先輩!どうしたんですか!」
「これの勢いで本物の冷林を離しちまった!動かねぇからどれだかわからねぇ!」
リュウはぬいぐるみに埋もれながらタニに半泣きな顔を向けた。タニも半泣きになった。この大量の冷林ぬいぐるみから本物の冷林を見つけ出さなければならない。
ぬいぐるみはどれも精巧に作られており、まったく見分けがつかなかった。
「もう勘弁してくれよ!畜生!」
「なんでこんなに冷林さんのぬいぐるみがっ!」
リュウとタニはわかるはずもない本物の冷林をパニック状態になりながら探した。一つ一つ声をかけたり、お腹を触ったり、意味もなくぬいぐるみの手を上げてみたり……しかし、何も起こらなかった。
タニとリュウはいよいよ追い詰められ、がっくりとうなだれた。
「おい、タニ……俺様達、終わったな……。つーか、誰だ!こんなに紛らわしいぬいぐるみを作ってぶちまけた奴は!タダじゃおかねぇぜ!」
リュウが怒鳴り声を上げた刹那、下の階にいた少女がケラケラと笑い出した。
「ああ?てめぇ……何笑ってやがんだよ!小娘め!調子に乗ってんじゃねぇぞ!お前、天界通信の奴だろ!」
リュウが少女を睨みつけると笑っている少女が何か看板を持っていた。
……ん?
―ドッキリ大成功―……?
「ドッキリ大成功……。ドッキリ……てめぇ!」
リュウは顔を真っ赤にして怒っていた。少女が持っている冷林ぬいぐるみがふわりと動いた。
「そっちが本物かよ!焦らせやがって!てめぇ、タダじゃおかねぇぞ!冷林を使っておちょくるなんてお前程度の神がしていい事じゃねぇ!お前、天界通信本部の社長、蛭子の娘、エビスだろ!俺様がきつくお仕置きしてやる!」
「あー、ちょっと待ってよ。リュウさん。お仕置きはパパにされるだけで充分だから。自己弁護のために言っておくけどこの企画を考えたのは冷林さんだよ。私じゃない。私は冷林さんに乗っただけよ。」
少女エビスは再びケラケラと笑った。
「れ、冷林が……。」
リュウはエビスの横に浮いている冷林を青い顔で見つめた。
冷林は一つ頷くと頭にテレパシーを流してきた。
……ニンゲンガ、ヨクヤッテイル、「ドッキリ」トハ、ナンナノカ、ドウイウ、カンジョウデヤルノカ……キニナッテイタタメ、ヒトノエンヲ、マモルカミトシテ、ゴキョウリョク……イタダイタ。スマナイ……。
冷林はワープロ文字のように頭に文字を送るとフヨフヨとどこかへ飛んで行ってしまった。
リュウとタニはポカンと口を開けたまま、しばらく放心状態だった。
「な、なんだったんだ……。」
「ど、ドッキリでよかったですね……。あ、このぬいぐるみ、一個もらっていいんですかね?」
タニは冷林ぬいぐるみを一つとるとエビスにかざした。
「いいよ。それ、ひそかに人気の冷林ぬいぐるみなの。かわいいっしょ?」
エビスはにこりとタニに笑いかけた。
「おーい、タニ、紛らわしいもん増やすんじゃねぇよ!」
冷林ぬいぐるみを大事そうに抱くタニにリュウは呆れたため息をついた。
「じゃ、私はこれで。今はパパがこの竜宮の宣伝記事を書くために竜宮にいるの。私はもう帰るけどパパはまだ残っているから文句はパパによろっ!……ふふん~いい記事が書けそう!」
エビスは冷林ぬいぐるみを一つ掴むと満面の笑みを向けた。
リュウはなんだかいやな予感がした。
「……おい、ちょっと待て。まさかこの痴態を天界通信の新聞に書くんじゃねぇよな?」
「さあ?でもいいネタだから。」
「待て!ちょっと説教だコラ!」
「パパ―、エビスをイジメる怖いお兄さんがいるー。しかも従業員―。」
エビスは棒読みだが大きな声で叫んだ。
「うわっ!や、やめろ!お前のパパは呼ぶな!頼むから!俺様が捻りつぶされちまう……。だから権力者と記者は嫌いなんだよ!くそぅ!」
リュウは半泣きで冷林ぬいぐるみを一つ掴むとその場から転がるように去って行った。
タニも慌ててリュウを追って走り出した。
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「もう、信じらんねぇぜ!ありえねぇ!あの小娘に冷林!」
しばらくしてからリュウとタニの元に一つの電子新聞が届いた。天界通信本部社長、蛭子神が書いた竜宮の記事の下の方に小さくエビスが書いた記事が載っていた。
記事は読む気にならなかったがそこに載っていた写真は嫌でも目に入った。
リュウとタニが涙目で冷林ぬいぐるみに埋もれていてその前でドッキリ大成功の看板を持ってピースしているエビスと冷林。エビスはすごく楽しそうだったが冷林は表情どころか顔すらないので喜んでいるのか不明だ。
「畜生!ハードボイルドな俺様がこんな痴態を……。」
リュウは電子新聞をゴミ箱フォルダにさっさか移すと頭を抱えた。
「リュウ先輩、冷林ぬいぐるみを竜宮で売ったらすごく売れました!」
竜宮のロビーをリュウがうろついていたらタニが興奮気味に走ってきた。
「はあ?」
リュウがタニに呆れた顔を向けた時、あちらこちらの神々が冷林のぬいぐるみを持って歩いているのが見えた。
「リュウ先輩、いいビジネスでした!売ったら……。」
「売るな!いちいち紛らわしい事するんじゃねぇよ!馬鹿。」
「この記事、宣伝広告だったみたいです。冷林ぬいぐるみを竜宮で売るための……。」
タニはアンドロイド画面を起動させてリュウがさっき捨てた電子新聞を再び見せた。
「ああああ!もう!さっき捨てたんだから見せんな!それからお前もそのぬいぐるみ持ってウロウロしてんじゃねぇよ!」
リュウはタニが大事そうに抱えている冷林ぬいぐるみを指差し叫んだ。
「……?リュウ先輩、こちらは本物の冷林様ですよ。」
タニに抱かれている冷林が小さい右手を軽く上げた。
「うっ、うわわ!た、大変失礼いたしました!……タニ!紛らわしいんだよ!最初から言えっての!」
リュウは全身冷や汗をかきながら慌てて冷林に謝罪した。
「あ、それからインスタグラムで冷林ドッキリが流行っているみたいで、ちょっと恥ずかしいですけどブームになって良かったですね。」
タニはアンドロイド画面から冷林ぬいぐるみに埋もれて笑っている神々の写真を出した。
「はあ……。」
リュウは脱力し、がっくりとうなだれた。
竜宮は今日も平和だ。冷林はときどき竜宮に入り込んではぬいぐるみドッキリを仕掛け、タニ達の心臓を跳ね上がらせるのだった。




