第11話 王都グラリアーナ⑥
魔族、ガゼル=ダイアー。褐色の肌を露出の多い革の衣装で包んだ長髪の美青年である。髪は紫で、鋭い目をしていた。右手には長剣、盾は無い。明らかに魔法戦士である。
通常、鎧を着た状態では魔法を使う事ができないため、魔法戦士は軽装が多いのだ。マーリンは例外である。
既に身体強化の魔法はかけていたらしい。一瞬でリーナの懐に飛び込み、長剣を一閃させる。
ガキイィィン!
その剣は横合いからの長剣に弾かれていた。
「…我が名はディートリッヒ=ガルゼリア。主に手を出すことは許さぬ。そして俺を操った礼、きっちりとさせてもらう。」
ディートリッヒはリーナの神聖魔法「受肉」で実体化していた。
ガゼルの剣はかなりの腕前だったが、ディートリッヒはそれを上回る。
魔法を唱える隙も与えない。徐々にガゼルは追い詰められていく。
「ち!どいつもこいつも化け物め!ムグド・マグド・ディー・ブルー!」
一か八かで詠唱に入る。だがそれほど長い詠唱を許すディートリッヒではない。
ディートリッヒの剣撃がガゼルを袈裟懸けに切り払う。が、その皮膚はディートリッヒの剣を弾いていた。
「「対剣防御」の魔法か。だが、それは防げる回数に制限があるぞ?」
ディートリッヒの連撃が一瞬でガゼルの「対剣防御」を使い切らせる。しかしギリギリでガゼルが詠唱を間に合わせた。
「…汝が敵を蹂躙せよ!『無命群陣』!」
「泥兵団」の魔法だ。生き物ではない「泥兵団」はリーナの神聖魔法では解除できない。
もっとも、リーナは最初から手を出すつもりはなかった。
ディートリッヒが、自分が片を付けたい、と申し出ていたからだ。
「フ。俺を剣士とみて、物理耐性の高い泥人形を持ち出してきたか。」
ディートリッヒの剣が鈍く輝く。
「未熟者が!魔法だけが魔力と思うな!」
魔力を込めたディートリッヒの剣が「泥兵団」を一瞬で全滅させていた。
元々「泥兵団」で勝てるとは思っていない。より強力な魔法を唱えるための時間稼ぎのつもりだった、が、「対剣防御」を張り直す余裕さえない程の瞬殺だった。
せめて泥兵団と戦っている隙を突こうと死角から襲いかかったガゼルの剣が右腕ごと斬り飛ばされ、次の瞬間、ガゼルは袈裟懸けに切り伏せられていた。
「青いぞ、小僧。」
ディートリッヒは無慈悲に言い放ったのだった。
◆◆◆
ガゼルは即死である。が、問題ない。リーナは創造神の高位神官なのだ。
「死者蘇生」の魔法があっさりとガゼルを生き返らせていた。
人の命とは何なのか悩みたくなるくらい本当にあっさりと。
「ガゼルさん。事情を教えていただけますか?」
だが、殺されても易々と言いなりになるガゼルではない。
「フ。魔族が簡単に口を割るとでも?」
次の瞬間、リーナが表情も変えずにガゼルの股間を踏み抜いた。
ちょっと待て。
声にならない絶叫を上げてのた打ち回るガゼル。だがリーナは変わらない微笑みで問いかける。
「大丈夫ですよ。回復魔法をかけています。痛みは和らぎませんが、狂う事も死ぬ事もありません。さあ。」
「ま、待て!俺は確かにガルーダの雛を狙った。だが、別にお前を害するつもりは…」
…そういえば、コイツ単に死霊を送り込んでストーキングしただけだったな。まあ、実際に何かする隙もなかったと思うが。
リーナは引き続き聖女のような微笑みで問いかけた。
「ですから、全ての事情を、お話しください。(にっこり)」
――ガゼルは頑張ったと思う。
多分、誰かの命令でやったんじゃないかな。
だから、自分の判断で事情を話すわけにはいかなかったのだろう。
たっぷり30分ほど、天使のような拷問を受けて、ガゼルはとうとう折れた。
「ご、ごめんなひゃ…。話しますぅ、話しますからやめないれ…お姉さま…」
どうしてこうなった。
先ほど見事な戦いを演じた美青年は、見る影もない恍惚の表情でお仕置きを求めていた。
◆◆◆
「彼」は強い魔力をいくつも感じて疾走していた。
一つはおそらく不死鳥のどれか、そして一つは金属竜。
…後の二つは魔族。しかも魔王級。
彼は「自分のもの」を取られるのが大嫌いだった。
獲物を追う野獣のような疾走は野の獣にすら気取られず、ただ、赤い風だけを捲いていた。




