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第9話 邂逅

 室内に案内され、少し待つと四十代ぐらいの男性が入ってきた。

 

 父とは違い、スーツのよく似合う男性。それが彼への第一印象だった。


 スーツの左襟に弁護士記章をつけ、ジェルをつけオールバックの髪型に少しだけ鋭い目つきが太陽を見つめる。


 どことなくすみれと似たような顔つきだが、雰囲気は天と地ほど違う。


「君が天沼太陽君で間違いないかな?」


「間違いないです」


 一言一言に緊張が走る。


「ワタシは柊すみれの父、柊拓斗だ。よろしく」


 営業時代に社長に営業を掛けたことはあるが、あれは何度も失敗をしてもチャンスはあった。


 けれど、今回は違う。


 この一度だけで興味を持ってもらえなければ意味がない。


「……まず初めに30分5000円。それが弁護士の相談料の相場だが、今回は除外する。あくまで君は中学生だ。ワタシも真剣に聞くつもりはない」


「わかっています。今回は単純に税金に関して、そして借金の回避の仕方に関してお尋ねしたく来ました」


「借金、あまり中学生が言う言葉ではないな。家には負債があると?」


「今はまだありません。けれど、このままでは必ず負債を背負うことになります」


「なぜだ、不確定要素は必要ない。端的に話せ」


「現在、日本の経済指標に当たる日経平均株価は下がり続けています。このままでは会社はリストラを始めるでしょう。けれど、背負ってしまった借金はどうなるか。それは下請けへの行きます」


「……なるほど、君の親は下請け会社の社長あたりか」


「はい、あくまで自己判断で。という形をとる可能性が高いですが、リスクある投資をさせられ、親会社は失敗すれば切り捨てる。その程度の認識と考えています」


「それもあるだろうな。けれど、弁護士一人で私に何ができる?」


「契約に立ち会えますか?」


「……なるほど、ワタシを味方につけそのタイミングでの不当な契約を防ぐ役割か」


「はい、おっしゃる通りです」


 数秒の間が空き、弁護士が口を開ける。


「ダメだ」


「どうしてです」


「単純な話だ。いつ不正契約を結ばされるのか、それがそもそも不正なのかどうかもわからないのに、どうやってワタシは干渉すればいい」


この弁護士の言っていることは正しい。いつ来るかわからない、不正かどうかもわからない。そんなものに手を出すほど弁護士は暇ではない。


「なら、お前は何のために借金を回避する」


「私は……家族の……笑顔を……」


「笑わせるな。家族が大事ならなぜ親を呼ばない。家族が大事? ならなぜ親を連れてこない。論外だ、多少頭はいいが、肝心なところが抜けている。これでは話にならん」


「わかりました……」


「引き下がりが速いな、ほかに行くのか?」


「当てはありません。ならどうするかは決めています。ここはあくまでセーフティネットでしかありません」


「何? 何をする気だ」


「一〇年、それで一億を稼ぐ。それで借金をそのまま返すパワープレイをする。ただそれだけだ」


「正気か?」


「いかれているに決まってます。出なければこんなこと話しません」


「……なるほどな。いいだろうお前をテストしてやる」


「テスト?」


「ああ、単純な話だ。1年で10万それだけ稼いで来い。それでお前の話を信用してやる。高校はすみれと同じだったな」


「はい中京高校に行く予定です。ちなみに費用は?」


「稼げれば無償で受けてやる。住所と親の会社名をそこで初めて聞いてやる」


「気前がいいですね」


「ああ、楽しみが増えた。もちろん、強盗などつまらんことはするなよ。そして中京高校はアルバイト禁止だ、完全に詰みだぞ」


「構いません」


 そう言い残し、太陽は部屋を後にした。



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