第8話 弁護士事務所へ
その後、受験はすぐに終わった。
内容も例年レベルで特筆するほど難しい問題ではなかった。
公衆電話で十円を入れ家に電話する。
「あー、母さん終わったよ。問題ない。合格してる。今から帰るところ」
余裕がある姿に母は驚いていたが、最近の生活で何となく慣れ始め何も言わなかった。
無事受験も終わり、携帯ショップで携帯を選び電話を掛ける。もちろん柊すみれへの電話だ。
「もしもし?」
「もしもし。太陽君?」
「そうだよ、受験終わったから携帯を買ってもらった」
「えっ、早くない?まだ合格発表されてないよね」
「あの程度の問題で落ちると思うか?」
「それはそう……じゃあ、お父さんだよね。2月の三週目の土曜日空いてる?」
「空いてる。どこへ行けばいい?」
「緑区の柊事務所ってところに来てもらえればいいよ。駅からも近いし」
「時間は?」
「15時ぐらいで」
「オッケー。じゃあよろしく」
その時、太陽は気が付かなかった。
自然と口角が上がり、ほほが緩んでいた。
頭は大人のはずだ。けれど、精神年齢はまだ年相応のままだ。
約束した15時に鳴海駅にいると母親に買ってもらった携帯が震える。
「鳴海駅ついた? 今向かってるから少し待ってね」
すみれの言葉が電話越しに聞こえる。少し緊張しているのか、いつもの言葉の切れがない。
「どれくらいかかりそう?」
「うーんどうだろう……」
そう言うすみれの声は真後ろから聞こえた。
「気づいちゃったか、背中からタッチしようと思ってたのに」
小悪魔のようにすみれは声をかけてくる。
「結構遠い?」
「いやすぐ近くだよ。駅近のほうがお客さんも来るってパパ言ってたし」
「そういうもんか」
鳴海駅から徒歩五分ほどで柊法律事務所に到着した。
雑居ビルの二階、一階には飲食店や美容院が入ったテナントの一室だ。決して金持ちという印象は受けないが、法律関係となってくると口コミのほうが大事なのだろうか。
「確認するけど、アポイントは取れてるんだよな?」
「え? パパなら暇だし大丈夫だって」
そう言って、無神経に事務所の入り口を開けた。
決して気品な感じはしなかった。仕事場そういう雰囲気を感じ取るような場所であった。
受付ですみれが挨拶をすると顔パスで中に入れた。
受付嬢が待合室にいると飲み物の希望を聞かれすみれは紅茶、太陽はお茶をもらうことにした。約一分で飲み物をもらい、飲みながら緊張を落ち着かせる。
「珍しく緊張してるね。パパはそんなに怖い人じゃないよ」
「そりゃ、家族相手に怖い奴なんて……亭主関白な家庭はまだあるか」
「それでパパと何話すの?」
「いう必要あるかそれ」
「気になるし」
「俺はまだ、ちょっかい出す理由聞いてねーよ」
「うーん……あえて言うなら第六感、かな」
「なんだよ、それ……答えになってないじゃん」
「本当に直感だよ。あえて言うなら他とは違う気配を感じた? みたいな」
曖昧な返答に太陽もあきれ、会話が終わった。
そのタイミングで受付嬢が声をかけ、太陽が席を立つ。同時にすみれも一緒に立とうとするが、太陽が横目で少しにらむ。
「ここから先はプライベートだ」
「えー、いいじゃん」
「よくねーよ。受付嬢さん頼みます」
「天沼様、かしこまりました。お嬢様申し訳ございませんが……」
「はーい」
ふてくされているが、すみれは納得したようだった。
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