第7話 勝負
年末に家族三人でお笑い番組を見ながら談笑をして年越しを迎えた。
勉強不足で、受験に失敗する可能性はほとんどない。年始も熱田神宮に行き、お参りをすればすぐに帰る予定だった。けれど、
「あっ、太陽君じゃん」
柊に声を掛けられる。あたりには数え切れないほどの参拝者の中たまたま近くを通っただけで見つかった。
名古屋市在住であれば、熱田神宮に参拝する人が大半だが、ここで接触するとは思っていなかった。
今の場所で止まると危ないので、少し参道から外れた場所に四人で移動する。
「久しぶり、勉強はどう?」
「問題ないよ。それよりご両親?」
「ああ、うん。父さんと母さん。柊さんは一人?」
「そんな感じ、友達とはぐれちゃった」
柊は携帯を取り出し、アピールする。
「太陽、友達?」
母親が興味を持ったのか、聞いてくる。
「あー、塾で一緒の子」
(やばい、そもそも、柊さんが名前か苗字かも知らない。どうやって紹介する……)
「冬期講習で一緒に勉強をしています。柊すみれです。よろしくお願いします」
一礼をして、柊は自己紹介を簡単に済ませる。
(あーよかった)
一安心しながらも柊は楽しそうに頬が緩んでいる。そして、腕を引っ張り、小声で話す。
「ねえ、勝負のことって伝えた?」
「伝えてない。年末年始に言えることじゃねーし。てかなんでそんなに俺にちょっかい掛けるんだよ」
「一応理由はあるけど、内緒。その方が面白いでしょ」
「俺は面白くねーよ……」
そう告げると、腕を振りほどき、両親のほうへ戻る。
「じゃあ、勝ったら教えろよ」
「それはルールを決めた時に入れてないから」
そう言うと柊の携帯が震え、友人からの電話がつながった。
「じゃあ、私もこれで」
「また塾で」
そう言い残し、太陽たちは熱田神宮を後にした。
「ねえ、太陽あの子とは仲いいの? 携帯買ってあげよっか?」
だが、母親の追及は止まらない。
恋バナが好きではない女性はいないと聞くが、本当だった。両親も例外ではない。
「ねえ、母さん。もし俺があの子と一緒の高校行きたいと言ったら、怒る?」
「別にいいわよ。あーでも極端に偏差値が下がるなら反対」
「いや、むしろ上がる。私立の中京大学付属高校だけど、いい?」
「いいよ。お父さんは?」
「構わん。太陽が好きにすればいい。けど、負けるなよ」
「うん」
その後、必死の勉強ののち、模試は行われた。
一科目五十分の戦いだが、緊張感はなかった。そして、どこか太陽の中で負けてもいいという選択肢が生まれていた。
もし、負けてしまい中京高校に進学することになってしまっても、嫌な気分ではなかった。
むしろ心のどこかで一緒の進学先に進みたいと思っている節もある。
だから、緊張せずに戦えた。
そして結果は出た。
国語 天沼太陽72点 柊すみれ83点
数学 天沼太陽67点 柊すみれ87点
英語 天沼太陽94点 柊すみれ88点
理科 天沼太陽88点 柊すみれ83点
社会 天沼太陽98点 柊すみれ90点
総合点 天沼太陽419点 柊すみれ431点
結果は太陽の勝利だった。けれど、総合点では柊に負けてしまった。
ルールからすれば勝利だ。けれど、腑に落ちない。
「ねえ、これだと太陽君は一緒の高校行かないの?」
「行くよ。中京高校。親には話してあるし……願書も出した」
「え? 本当!?」
「嘘ついてどうなるんだよ。別に高校で人生が決まるわけじゃないし。どこの高校へ行くかじゃなくて、その高校で何をするかのほうが大事でしょ」
「すっごい、真理をついてる気がする。私親から勧められた程度の認識でやってたから意識低いかも……」
「ほとんどの生徒がそんなもんだろ。弁護士の父親は紹介してくれるの?」
「あーうん、するよ。けど、ちょっと時間頂戴。太陽君は携帯持ってる?」
「持ってない。受験終わったら買ってもらえるらしい」
「そっかー、じゃあこれ」
そう言って一枚の紙きれを渡された、10桁の電話番号を。
信頼の証と言っても過言ではない。けれど彼女がなぜ太陽に執着する理由を聞いていない。だから、太陽からは一向に信用されていない。
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