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第6話 ヒシミラクルおじさん

 塾から帰る途中、これから起きる競馬のことを思い出す。


(春の天皇賞はメジロマックイーンだったはず。翌年も連覇だったはず。宝塚はどうだった? 覚えてないな他も有馬記念以外ろくに覚えていないな……宝塚?)


 だが、その思考のさなか宝塚記念で一つの出来事を思い出す。


 ヒシミラクルおじさん……二〇〇三年、私が死ぬ前に奇跡を起こしたギャンブラー。


 二〇〇三年六月八日の安田記念で単勝9.4倍のアグネスデジタルに一三〇万円を賭け勝利。一二二二万円を手に入れた。


 そして、同年の宝塚記念でそのままヒシミラクルに全額入れ二億円を手に入れた。


 少しだけギャンブルに手を出したらこの事件を太陽は知っている。


(まさか、私以外にも転生者はいるのか……)


 可能性はゼロではない以上、頭の片隅に入れておく必要はある。


(けど、あれは二〇〇三年の出来事、使えないな)





 翌日の講習でも柊から授業前に声を掛けられた。


 「ねえ、太陽君勝負しない?」


「なんで?」


「私が勝負したいから! それ以外に理由はない!」


「……いいけど、何で勝負するんだ?」


「年始の模試でどう。受験前の最後の模試、これで完全に偏差値がわかるからいいじゃない?」


「いいけど、勝敗はどうやって決める? 総合点、勝った科目数?」


「……ちょっと待って、それは考えてなかった……うーん科目数でどう?」


「わかった。ちなみになんで俺にそこまで突っかかるんだ? 別に同じ学校ってわけでもないし」


「うっさい。それは私の勝手でしょ。私に勝ったら、お父さんを紹介してあげる。それでいいでしょ」


「いいけど、俺だけメリット多くないか?」


「……じゃあ、負けたら私と志望校一緒にして。今からなら間に合うでしょ」


「……まあ、いいけど」


 隣で教師の宮下が笑いを堪えきれず、クスクスと笑っている。よほど二人の会話が面白いのだろう。


「太陽君、鈍感なのは罪だよ」


(柊や宮下の言っていることもわかる。惚れているといいたいだけなのもわかる。けれど、本当にそうなのかどうか疑わしい面がある)


 太陽が転生してからまだ十日も経っていない。中学時代の記憶はあまりないが、前の人生で女性と付き合った経験がないため、自然と警戒をしてしまう。


(もし仮に柊が惚れているというならさんざん利用はできる。父親の弁護士を介して、父さんの工場を守ることが出来る。今は鈍感な振りで適当にごまかし続け、柊を落とせばいい。時間はたっぷりあるその間に柊を調べることはできる)


(だが、勝負は勝負。負けて志望校を適当なところに変えられるのも嫌だ。勝ちに行く)


「ちなみに俺の志望校は名古屋南高校だが、変える予定はあるのか?」


「私の志望は中京大学付属高校。負けたらここに専願で来て」


(マジかよ私立かよ。金の面どうしよ……1時間ぐらいで通学はできるけど、マジで急に私立に変えたって言えるか……無理やり変えたら怒られるだけならいいけど、この先信頼してもらえるか)


「わ、わかった。いいぜ乗ってやる」


(あーどうしよ。急にピンチになったじゃねーか)


 柊は別に太陽を貶めようとする考えなどみじんもない。けれど、その前向きな恋心が太陽の弱点に突き刺さる。

面白いと思っていただけたら、


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