第5話 受験
オグリキャップが勝った有馬記念から数日、冬休み真っ最中の太陽は短期間行われる塾の講習に出ていた。
中学の問題を解くことは決して難しくはない。特に英語は簡単だった。多少のスペルミスはあれど、中学レベルであれば長文も問題ない。
比較的記憶力のいい太陽であれば、社会、理科も問題なかった。
国語、聞いたことがある文章が多く出されたため、問題はない。読む分にはほとんど問題はなかった。たまに書きミスをする程度だ。
けれど、数学こいつだけは例外だった。
前の人生から苦手というわけではないが、応用問題になり補助線を必要な角度の計算となってくると、中学生特有の頭の柔らかさを求められ苦戦した。
けれど、決して点数が取れないわけではなく。そこそこ好成績は取ることが出来た。
だが、決して一番を取ることはなかった。
(転生した程度で頭が急に良くなるわけじゃないよな……)
志望校は問題なく合格はできる。だが、今のままでは一〇年で一億円を稼ぎきることはできない。
勉強とは違う別の知識が必要だ。税金や金融など、そういった扱いにたけている先生が欲しい。
「宮下先生、この問題いいですか?」
隣の女子生徒が質問をする。
太陽はマンツーマン指導を受けながら、問題を解くが質問することはほとんどない。
間違った問題を指摘されることはあるが、自分から質問はほとんどない。
「あーこれは特殊な文法だね。暗記しちゃう方が楽だよ」
「わかりました」
問題は解く、けれど頭の中に1億をどうするかでいっぱいだ。
「先生、雑談いいですか?」
数学の問題を解きながら大学生のアルバイト教員の宮下に質問をする。
「太陽君が珍しい……何?」
「税金とか、相続とかそういうのに詳しい先生って知ってます?」
「公民のことかな。太陽君苦手だっけ?」
「公民で習う事の外側です。そういうのって学校じゃ教えてくれないですので」
「……ワタシも詳しいわけではないけど、塾長なら詳しいかな。あとで聞いてみる?」
「そうですね……」
冬期講習に来た意味は半分はこれだった。
税金関係に詳しい人との接触が必要だった。どこでもいいからコネクションがあれば学ぶ機会はある。
けれど、元弁護士などという教員はほとんどいない。なぜなら、単純に教員の給料が少なく、出会いの場がない。
その後、塾長と話したが、大した情報を得ることはできなかった。
講習が終わり、近くの駅の中で、一人の女子生徒に声を掛けられる。
ラフな格好だが、かわいい顔立ちなのは間違いない。少し釣り目気味だが、その真剣そうな表情は彼女の象徴のような強い眼光を放つ。
そして、引き締まった筋肉と細いところは細く、出るところはしっかりと出ている。
そして、セミロングの髪型から香る、フローラルなにおいが官能的にも刺さる。
「ねえ、太陽君だっけ。税金とかに興味あるの?」
馴れ馴れしいと最初は思ったが、中学生ならこのくらいの距離感だろうと思い言葉を返す。
「えっと、柊さんだっけ?」
「そう、一緒に宮下先生から授業受けてるのに名前覚えてないの?」
「あー、ごめん」
「興味なさそう……」
ふてくされたような表情を見せる柊だが、彼女は何か考えているようだ。
「まあ、いいけど。パパがね、弁護士なの、興味ある?」
「興味あるけど、会わせてくれるの? 弁護士って相談するだけでお金がかかるって聞くけど」
「そうなんだ。太陽君は物知りだね」
どこかつかみどころのない飄々とした受け答えをする柊に違和感を覚える。
(もしかして転生者として探りを入れてきたか? もしかして私と同じように……)
「何を求めている?」
相手の出方がわからない以上、何をしてくるかわからんない。警戒することに越したことはない。
「別に何も……というかひどくない」
「え?」
言葉から中学生らしい言葉が出て唖然とする。先ほどの飄々した表情は消え、中学生らしい顔になっている。
「いや、別にいいんだけどさぁ。いや良くない」
「なに反語? 古典?急にどうしたの?」
困惑する太陽に柊は続ける。
「もういい、何でもない。というか弁護士探してなかったの?」
「探してるけど、別にそんな継続的な関係を求めてるわけじゃないし、勉強が出来ればいいかなぐらいだぞ。というかなんでそんなにわた…俺にちょっかい出すんだ?」
「……ああ、もういい。知らない。電車来るから私帰る!」
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