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第10話 信頼

「どうだったの?」


 事務所を出てすぐすみれはすぐに聞いてくる。


「全然ダメというわけではないが、一年で十万円を稼ぐことを条件に協力してもらえる」


「無理じゃん。中京高校はバイト禁止だよ」


「別にバイトだけがお金を稼ぐことじゃない」


「じゃあ、何をするの?」


「秘密」


「何で隠すの?」


「隠すことでメリットがあるから」


「……ちゃんと学校くるの?」


「学校に行って勉強もする。けれど、部活はしない。入っても文科系のパソコン部とかだろうな」


「……つまんな。プロとか目指さないの?」


 言葉と裏腹にすみれはキラキラとしたまなざしを向けている。


「野球とサッカーでプロになれる可能性があるならこの場所にいない」


 もし仮に、高校卒業後にプロになれば数年で1億円を稼ぐことができる。だが、そんな素晴らしい能力はこの肉体に備わっていない。


「興味本位だけなら、もう付き合うのはやめておけ。学校でもきっと変人扱いをされる。そんな人と付き合うメリットはないだろう」


「……そうね、君には失望した」


「その割に目がキラキラしている。目を逸らしもしない。何が目的だ?」


「知らないほうがいいんじゃない。私は君が思うほど素晴らしい人じゃないよ」


「大半の人間がそうだろ。歴史に名前を残す人間なんて数年に一人だ。百万分の一それ以上か。そんな人間を見過ごすほど馬鹿じゃないだろ」


「まあ、そうね……」


「柊、お前は目が悪い、俺は優秀だが百万分の一の天才じゃない。よくて十万分の一程度の才能だ。それもすぐに枯れる」


「いや、私は……」


「どうせ、その程度あと数年で枯れる人間に付き合うべきじゃない。お前はお前で別の寄生先を探せ。そうでないと、母親みたいになるぞ」


「な!? どうしてそれを……」


「別に、ちょっと調べれば簡単だった。暇だから数日この辺りにいるおばさんたちに話を聞いた。お前は優秀だが、根っこの部分で誰かに寄り添わなければいけない。寄生しなければいけない」


「ち、違う」


「だから、俺というそこそこ優秀な人間に目を付けた。自分の道を最初から塞いでいた。塞いだ人生の末路なんて大したことないぞ」


 太陽は知っている。菫の花は光を浴びつつけないと成長ができず、そのうちかれてしまう。


 自分で自分の咲き方を知っていれば、別の選択を取れる。


 それをしなかったのが、すみれの母だ。


 優秀な父と出会い、結婚をした。けれど、少しづつ自己主張がなくなり実家に帰った。そして、その後再びすみれの両親が出会うことはなかった。


 父も優秀な弁護士なだけに、先ほど話した通りプライドも高く引き下がれない。ましてや娘がいる以上仕事を無下にできない。


 だから、すみれの両親は自分で能動的に元に戻ろうとすることが出来ない。


「……なら、私に何を……」


「知るか、自分で考えろよ。俺に寄生するな。せっかく休みなんだから母親に会いに行けよ」


「今更どんな顔で会いに行けば……」


 半ば泣きかけたような声になるが太陽は止まらない。


「だから、知らねーよ! 自分の意志で考えろよ。母親と同じ末路を歩みたいのなら好きにしろよ」


「……わかった。もういい」


 そう言って彼女は別方向のホームへ走っていった。


(それでいい。そうでなければ君はきっと同じ末路を歩む)


 柊すみれ、前の人生で直接会う事も、話すことも、仕事の関係もなかった。


 けれど、両親が死んだニュースの後にすみれが死亡したニュースが流れていたのを最近思い出した。


 近隣住民はいざこざの果てに喧嘩をして、同棲相手に殺された。その相手の名前は篠原だった気がする。


 名前までは憶えていないが、きっとこの先中京高校あたりで出会う可能性が高い。


 もしかすると太陽以上に異質な天才かもしれない。そんな相手に出会ってしまえばきっとすみれは母親と同じ道を進む。


 それまでに、少しでも矯正が出来ればいいが、実際上手くいくとは思っていない。


 何より、太陽はすみれが何を考えて接触をしてきたのかがここ数日の調査で分かった。


 そして、すみれの人生には太陽のような特殊な力を持つ人間が必要だ。だが、太陽にはすみれが必要ない。


 ただ、それだけだった。今のすみれは将来枷にしかならない。


 ならば、今のうちに切る。ただそれだけだ。


 もし、彼女が自分からこうなりたいという意志があるのであれば、きっと違った人生を歩むことが出来るかもしれない。

 

「あー、つっら。マジでつらい。初恋を自分から終わらせるってこんな感情なのかよ……」


 のどが締め付けられるような辛さと、多少の吐き気。そして、力の入らない全身。


 まさに最悪の状況と言っても過言ではない。


 太陽はすみれのことを好きでいた。けれど、その反面、すみれの母親と今の現状を知ってしまった以上、手を出さずにはいられない。


「どうせ、高校で篠原あたりと出会って取られて終わりだろ……まじで俺なにしてんだよ……」


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