お姉様と騎士様のバチバチ牽制バトル!――過保護すぎる二人に囲まれて、私は今日も幸せです
お姉様と騎士様のバチバチ牽制バトル!――過保護すぎる二人に囲まれて、私は今日も幸せです
レオンハルト様と『専属契約』を結んでから、数日が経った。
専属錬金術師となった私の工房には、辺境伯様の権力と私財が惜しみなく注ぎ込まれ、毎日ものすごい量の物資が運び込まれてくるようになっていた。
「クロエ様! 本日は南の森で採れた最高級の『月光草』と、ドワーフの鉱山から直接買い付けた『ミスリルの粉』をお持ちしました!」
「あ、ありがとうございます……。でも、こんなに高価な素材、私なんかが使っていいんでしょうか……?」
「閣下からは、『クロエの望むものは国庫を傾けてでも用意しろ』と厳命されておりますゆえ! では、失礼します!」
屈強な騎士さんたちが、宝の山のような素材をドサドサと置いて嵐のように去っていく。
王都の錬金術ギルドでも滅多にお目にかかれないような超一級品の素材たち。実家の地下室では、干からびた薬草のクズしか与えられなかった私にとって、ここはまさに天国だった。
(こんなにたくさんの素晴らしい素材……。これなら、もっと色んなポーションやアイテムが作れる……!)
私が目を輝かせていると、カランコロン、とドアベルが鳴った。
「やあ、クロエ。……パトロールの途中で、たまたま通りかかってな」
「あ、レオンハルト様。いらっしゃいませ!」
現れたのは、もはや毎日の日課となっている「たまたま通りかかった(大嘘)」辺境伯、レオンハルト様だ。
今日の彼は、漆黒の軍服姿。そしてその手には、不釣り合いなほど可愛らしく包装された箱が握られている。
「その……これを。街で評判の洋菓子店で、新作のケーキが出たという報告を受けてな。専属錬金術師への福利厚生の一環として、君の口に合うかどうかの……その、試食を頼みたい」
目を泳がせ、耳を真っ赤にしながら箱を差し出すレオンハルト様。
福利厚生と言い張っているが、これはどう見ても私へのプレゼントだった。彼が毎日、手を変え品を変え、私を喜ばせようと花束やスイーツを持ってきてくれるのは、メイド長さんからこっそり聞いて知っている。
『氷の死神』と恐れられる彼が、ケーキ屋さんに並んで買っている姿を想像すると、胸の奥がキュンとしてしまう。
「ありがとうございます、レオンハルト様! すっごく嬉しいです!」
「そ、そうか! 君が喜んでくれるなら、店ごと買い取って――」
彼が私の手を取ろうと一歩踏み出した、その瞬間だった。
「――ストォォォップ!!」
二階からものすごい速度で飛び降りてきたイグニス様が、私とレオンハルト様の間に「ドンッ!」と立ちはだかった。
「おい、発情期騎士。パトロールと称して毎日毎日我が可愛いクロエの店に入り浸りおって。貴様の領地はそんなに暇なのか?」
黄金の瞳をギラギラと輝かせ、凄まじい威圧感を放つ最強の神獣(お姉様)。
しかし、レオンハルト様も負けてはいない。彼は一歩も引かず、キッとイグニス様を睨み返した。
「クロエの身の安全を確認するのも、雇用主である俺の重要な責務だ。それに、専属契約を結んだ以上、俺とクロエの絆を深めるためのコミュニケーションは必要不可欠だろう」
「ふん。絆だと? 笑わせるな。貴様の下心が丸見えだと言っているのだ。大方、甘いものでクロエを餌付けして、なし崩し的に手を出そうと企んでいるのだろうが、そうは問屋が卸さんぞ」
バチバチバチッ!
火竜の威圧感と、最強騎士の氷のような剣気がぶつかり合い、店内の空気がビリビリと震える。
「俺は純粋に、クロエの笑顔が見たいだけだ! あんたこそ、過保護すぎてクロエの自由を奪っているのではないか!?」
「何だと? 私はクロエの世界で一番のお姉様だ。妹を害虫から守るのは姉として当然の務めだろうが!」
「俺は害虫ではない! シュヴァルツ辺境伯だ!」
……また始まった。
最近、毎日繰り広げられる二人の言い争い。
最初はハラハラして止めに入っていたけれど、最近は「あ、またやってるなぁ」と微笑ましく見守る余裕ができていた。
だって、二人が言い争う理由は、いつだって「私のこと」だからだ。
(誰も私のことなんて気にかけてくれなかったのに。今、こんなに強い二人が、私を守ろうとしてくれている……)
そう思うと、心がじんわりと温かくなって、幸せな気持ちでいっぱいになる。
「まぁまぁ、お二人とも。せっかくレオンハルト様がケーキを買ってきてくださったんですから、一緒にお茶にしましょう?」
私がパンッ、と手を打って笑顔で提案すると、二人の殺気が嘘のようにスッと霧散した。
「……クロエがそう言うなら、仕方ないな」
「う、うむ。君が淹れてくれるお茶なら、喜んでいただこう」
さっきまでのバチバチが嘘のように、二人は大人しくカウンターの席に並んで座った。本当に、なんだか手のかかる大きな子供みたいで可愛い。
「お待ちくださいね。今日のために、新しいお茶とクッキーを作ってみたんです!」
私は調合室から、熱々のティーポットと、焼き立てのクッキーが入ったカゴを持ってきた。
今回のお茶は、レオンハルト様が差し入れてくれた『月光草』の葉を乾燥させてブレンドした特製のハーブティーだ。クッキーには、疲労回復の薬草を少し多めに練り込んである。
もちろん、私の無自覚チート【万物昇華】のせいで、ハーブティーは星空のようにキラキラと輝き、クッキーからは黄金のオーラが立ち昇っていた。
「……相変わらず、クロエの作るものは見た目からしてヤバいな」
イグニス様が呆れたように呟きながら、ティーカップに口をつける。
「ん……美味しい。香りが素晴らしく立っていて、口当たりがまろやかだ。……それに、飲んだ瞬間に体内の魔力が浄化され、底上げされるのを感じる。ただのハーブティーが、最高純度の『霊薬』に昇華されているぞ」
「ええっ!? ただお湯で煮出しただけなんですけど……!」
「俺もいただこう」
レオンハルト様がクッキーをかじり、熱いお茶を流し込む。
その瞬間。
――ぽわぁぁぁん……っ!
彼の身体が、目も眩むような黄金の光に包まれた。
「な、なんだこれは……!?」
光が収まると、レオンハルト様の顔から疲労の影が完全に消え去り、瞳のブルーがいっそう深く、澄み切った色に輝いていた。
彼は驚愕の面持ちで、自身の両手を握ったり開いたりしている。
「信じられん……。さっきまで、数日間の徹夜仕事で体が鉛のように重かったというのに。疲労が完全に吹き飛んだどころか、細胞の一つ一つから凄まじい力が湧き上がってくる。今なら、素手でドラゴンと殴り合えそうなほどだ」
「やめとけ発情期。私に挑めば三秒で消し炭だぞ」
イグニス様が鼻で笑うが、レオンハルト様の驚きは収まらないようだった。
「クロエ、君は本当に……奇跡のような存在だ。君の作るアイテムは、もはや国を根底から変えうる力を持っている」
「そんな、大げさですよ。私はただ、皆さんに元気になってほしくて……」
私が照れてもじもじしていると、レオンハルト様がふと、何かを思いついたように真剣な表情になった。
「クロエ。一つ、君に頼みがあるのだが……聞いてもらえるだろうか?」
「はい! 私にできることなら、なんでも!」
彼のお願いなら、なんだって聞いてあげたかった。私を信じ、居場所をくれた大切な人なのだから。
レオンハルト様は、少し言い淀んだ後、私の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「明日、黒竜騎士団の月例の大規模演習が行われるのだ。魔物の大群を想定した、丸一日がかりの過酷な訓練でな。……もし良ければ、明日の昼、演習場に君の作った『差し入れ』を持ってきてはもらえないだろうか」
「差し入れ、ですか?」
「あぁ。君の作ったこのクッキーや、ご飯を……俺の部下たちにも食べさせてやりたいのだ。彼らの士気と疲労回復のために、君の力が必要なんだ」
そして、レオンハルト様は少しだけ頬を染め、小声で付け加えた。
「それに……俺の専属錬金術師がどれほど素晴らしい女性か、騎士団の奴らに自慢してやりたくてな」
ドキン、と心臓が鳴った。
真っ直ぐ向けられる熱い視線に、私も顔が熱くなるのを感じる。
「……はいっ! 喜んで作らせていただきます!」
私が満面の笑みで答えると、レオンハルト様はパッと花が咲いたように笑った。
「おい、辺境伯」
そこへ、イグニス様が冷や水を浴びせるように声をかけた。
「クロエが差し入れに行くのは構わん。だが、私も当然同行するぞ。むさ苦しい騎士どもが我が可愛いクロエに群がるのは目に見えているからな。虫除けとして私が完璧にガードしてやろう」
「……勝手にしろ」
レオンハルト様は少し渋い顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
(お弁当の差し入れ……! なんだか、ワクワクしてきた!)
私は、明日のメニューを頭の中で組み立て始めた。
過酷な訓練をしている騎士さんたちだから、お肉がたっぷりで、精力がつくものがいい。そしてもちろん、回復効果のある薬草もたくさん使おう。
まさか、私が気合いを入れて作ったその「差し入れ(お弁当)」が。
翌日の演習場で、黒竜騎士団の屈強な男たちを狂喜乱舞させ、私が彼らの『女神』として崇められる結果になるとは……この時の私は、まだ予想もしていなかったのである。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




