第五章 強欲人魚姫のタダ活サバイバル!~全てを奪うお賽銭箱と、奇跡のスパチャライブ~
タローソン前の死闘と鼻五円玉。――現れたのは、誇り高き『親友(寄生)』のアイドル!?
ポポロ村の超特大スパリゾート『ルナ・ポポロの湯』が大成功を収め、村がかつてないほどの活気に包まれていた、ある日のこと。
私とキャルルさんは、買い出しのために隣街の商業エリアへと足を運んでいた。
村の財政が潤ったことで、キャルルさんの村長としての仕事も少し落ち着き、今日は二人でのんびりとウインドウショッピングを楽しむ予定だったのだ。
「ふふっ、やっぱり街の空気もいいですねぇ! あ、クロエさん! あそこに新しくできたクレープ屋さん、後で行ってみませんか?」
「わぁ、いいですね! 私、甘いものには目がなくて……ん?」
私が笑顔で頷こうとした、その時だった。
ふと視線を向けた大通りの外れ。異世界でもお馴染みの青と白の看板を掲げたコンビニエンスストア『タローソン』の店舗前に、異様な人だかりができているのに気がついた。
「……あれ、何かな?」
私が指を差すと、キャルルさんもウサギ耳をピクッと動かしてそちらに視線を向けた。
「え? あ!」
キャルルさんが、信じられないものを見たかのように目を丸くして、その場に立ち尽くした。
タローソンの入り口付近。
そこでは、一人の『少女』と、一匹の凶悪な顔つきをした『野良犬』が、文字通りの【死闘】を繰り広げていたのだ。
「グルルルルルッ……!」
「ふんっ! 甘いですわね! その程度の牙で、この私からカロリーを奪えると思って!?」
野良犬と対峙している少女は、ものすごく、ちぐはぐだった。
波打つような美しいアクアブルーの長い髪。透き通るような白い肌に、宝石のように輝く大きな瞳。どこからどう見ても、おとぎ話から抜け出してきた『お姫様』のような、絶世の美少女だ。
……しかし。
そんな彼女が着ているのは、なぜか信じられないほどダサい『えんじ色の芋ジャージ(上下)』。
足元には、裏面にイボイボがついた安物の『健康サンダル』が履かれている。
その美少女と野良犬の視線の間には、地面に落ちた一つの『半額シール付き唐揚げ弁当』があった。
「ワンッ! ガウガウッ!」
「させませんわ! 今日の私のディナー(廃棄寸前)は、絶対に渡さないんだからぁぁッ!!」
野良犬が唐揚げ弁当に飛びかかろうとした瞬間。
芋ジャージの美少女は、己のポケットから一枚の『五円玉』を取り出し、なんとそれを自らの美しい【鼻の穴】にスッと装填したのだ。
(えっ!? 鼻に硬貨を!?)
私がドン引きして言葉を失う中、美少女は野良犬に向かって、思い切り息を吸い込んだ。
「食らいなさい! 五円(御縁)バズーカ!! ――フンッ!!」
シュパァァァァッ!!
彼女の鼻の穴から、凄まじい風圧と共に射出された五円玉が、見事な弾道を描いて野良犬の鼻先にクリーンヒットした。
「キャインッ!? キャインキャインッ!!」
予想外の飛び道具(鼻息)による痛撃を受け、野良犬は尻尾を巻いて路地裏へと逃げ去っていった。
「よっしゃあああ! 取ったどおおお!!」
美少女は、健康サンダルをペタペタと鳴らしながら駆け寄り、地面の唐揚げ弁当を天高く掲げて、歓喜の雄叫びを上げた。
周囲の通行人たちが、「なんだあのジャージの女……」「野良犬と弁当の奪い合いで勝ったぞ……」と、畏怖と哀れみの入り混じった視線を向けている。
「…………ねぇ、キャルル。あれ、何かな」
私は、引きつった笑顔のまま、隣で硬直しているキャルルさんに問いかけた。
キャルルさんは、ウサギ耳をペタンと寝かせ、この世の終わりを見たような顔で顔を引きつらせていた。
「……元シェアハウス仲間の……リーザ……」
「元シェアハウス仲間? じゃあ、キャルルさんのお友達……?」
私が聞き返した声が聞こえたのか。
弁当を胸に抱きしめていた芋ジャージの美少女――リーザが、クルリとこちらを振り向いた。
「まぁ♡ キャルルじゃないのぉ♡」
リーザは、一瞬にして気品溢れるお嬢様のような(芋ジャージだが)優雅な笑みを浮かべ、ペタペタと健康サンダルを鳴らしながらこちらへ歩み寄ってきた。
「探しましたのよ! ポポロ村で村長さんに栄転したって聞いたから、ご挨拶に行こうと思ってたんですの!」
言葉遣いだけは、どこかの国の王女様のように上品で可憐だ。
だが、その手にはしっかりと半額の唐揚げ弁当が握りしめられ、鼻の頭には五円玉を発射した際についた微かなススのようなものがついている。
「リーザ……。あんた、ルナミス帝国にいたはずじゃ……」
キャルルさんが、恐る恐る尋ねた。
「前のマンションは? 私が家賃の半分を払ってた、あの4LDKの部屋はどうしたの?」
「ああ、あのマンションですの?」
リーザは、フフッと優雅に微笑み、さらりととんでもないことを言いのけた。
「キャルルが居なくなって、当然私一人じゃ家賃が払えなくなりましたから。追い出されてしまいましたの!」
「お、追い出されたぁ!? じゃああんた、今までどこで生活してたのよ!」
「ふふん。私の生存能力を舐めないでくださいませ」
リーザは、胸を張って(ジャージのジッパーを少し上げながら)誇らしげに語り始めた。
「私は今、ルナミスデパートの主として、極上のシティライフを満喫しておりますのよ!」
「で、デパートの主……?」
「ええ! 朝はデパートの化粧室の石鹸で顔を洗い、一階の化粧品コーナーのテスターでバッチリフルメイク! お昼はデパ地下で優雅に試食品のフルコースをいただき、疲れたら家電コーナーの最新マッサージチェアでリフレッシュ!」
リーザの目は、キラキラと輝いていた。
それは悲壮感など欠片もない、極限のタダ活を完全に制覇したプロフェッショナルのみが持つ、誇り高き瞳だった。
「そして夜は、デパートの屋上で満天の夜空を眺めながら、大自然を感じるテント生活(寝泊まり)をしていたのよ! どうです? 家賃ゼロでこのラグジュアリーな生活! 完璧じゃありませんこと!?」
……ドヤァッ!
リーザの背後に、謎のキラキラしたエフェクトと後光が差しているように見えた。
「いや、それただのホームレスだから!! デパートの警備員さんに絶対マークされてるから!!」
キャルルさんが、たまらず激しいツッコミを入れた。
「それに何よさっきの犬との死闘! 鼻から五円玉飛ばすって、あんた腐っても海中国家シーランの『人魚姫』でしょうが! プライドはどうしたのよ!」
「プライドならありますわ! 私はアイドルですもの! アイドルたるもの、どんな過酷なステージ(路上)でも生き残るたくましさが必要なんですの!」
リーザはビシッとキャルルさんを指差した。
「そんなことよりキャルル! この唐揚げ弁当、野良犬から死守したのはいいですけど、白米が冷え切ってますの。村長さんになったのなら、温かいご飯とお味噌汁くらい、親友の私にご馳走してくれてもよろしくてよ?」
ちゃっかりと、寄生の要求までしてきた。
美しくて、気高くて、最高にドロ臭くて、図々しい。
私は、あまりにも情報量の多い目の前の『芋ジャージの美少女』を見つめたまま、ゆっくりとキャルルさんの袖を引いた。
「…………ねぇ、キャルルさん。これ、何かな」
私の純粋な疑問に。
キャルルさんは、深々と、この世の全ての疲労を背負い込んだような重いため息をついた。
「…………アイドルで。……親友で。……そして、最悪の『寄生魚』かな……」
タローソン前を吹き抜ける風が、リーザの美しいアクアブルーの髪をサラリと揺らした。
その神々しいまでの美貌と、手に持った半額弁当との凄まじいギャップ。
かくして。
雷神の月兎によって平和になったはずのポポロ村に、今度は『極限タダ活アイドル(人魚姫)』という、新たなる規格外の嵐が巻き起ころうとしていたのである。
第五章、開幕です!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
新章のスタートは、衝撃の「野良犬vsジャージ美少女」の唐揚げ弁当争奪戦から!
鼻の穴から五円玉を発射して勝利を掴んだ絶世の美少女、彼女の名はリーザ・シーラン・リヴァイアサン。海中国家の人魚姫でありながら、極限の「タダ活」で生き抜く地下アイドルです!
デパ地下の試食とテスターメイクでラグジュアリー(?)な生活を送る彼女のドロ臭すぎる誇りに、クロエも思わずドン引き(笑)。
キャルルの元ルームメイトにして最悪の寄生獣であるリーザが、ついにポポロ村へとやって来ました!
次回!
キャルルの村長宅に転がり込んだリーザ。
豪華なサンドイッチと「パンの耳」の圧倒的経済格差! そして明かされる、月末恒例の「家賃土下座」とは!?
「リーザヤバすぎる(笑)」「鼻五円玉は草」「タダ活のプロフェッショナル!」と思っていただけましたら!
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