正気に戻ったウサギと、山積みの貢物。――私の推しカプ(尊い)は、誰にも邪魔させません!
正気に戻ったウサギと、山積みの貢物。――私の推しカプ(尊い)は、誰にも邪魔させません!
チュン、チュン、と。
ポポロ村の朝を告げる小鳥のさえずりが、のどかに響き渡る。
爽やかな朝日が村の広場を照らし出していた。
「あぁぁぁぁぁっ! ごめんなさぁぁぁぁいっ!!」
そののどかな空気を切り裂くように、キャルルさんの絶叫が響いた。
ウサギ耳をペタンと寝かせ、両手で頭を抱えながら地面にしゃがみ込む彼女の顔は、見事なまでに真っ青だった。
「わ、私、またやっちゃいました……っ! ルナミス帝国の駐留所で大暴れした時、もう二度と満月の夜に外出しないって誓ったのに……っ! 調子に乗ってマッハ1で飛び蹴りとか、顎カチ上げ拷問とか、ひどすぎる……ウッ、ウウッ……!」
ぽろぽろと涙を流し、大反省会を繰り広げているキャルルさん。
その目の前には、黒蛇商会の傭兵団百名が、なぜか一糸乱れぬ完璧な『正座』をして並んでいた。
彼らの身体は、キャルルさんの異常なまでの『全回復』のおかげで傷一つない。しかし、その瞳からは一切の生気が失われ、完全に心がへし折られた抜け殻のような顔つきになっている。
「……気にすんな嬢ちゃん。結果オーライだろ」
龍魔呂さんが、タバコをふかしながら呆れたように声をかけた。
「むしろ、あいつらのおかげで村の借金問題が丸く収まったんだ。胸張っていいぜ」
「え……? 丸く、収まった?」
キャルルさんが涙目で顔を上げると、黒蛇商会のリーダー格だった大男が、ズザザザァッ!と勢いよく土下座スライディングを決めてきた。
「あ、姉御ォォォッ!!」
「ひゃんっ!?」
大男は、床に額を擦りつけながら、一枚の羊皮紙をビリビリに破り捨てた。
それは、前村長がサインした『ポポロ村の土地を担保とする借用書』だった。
「借金なんて最初からありませんでした! 俺たちが、この村の平穏を乱してしまった慰謝料として……これ、ウチの商会からの『寄付金』です! どうかお納めくださいぃぃっ!」
大男が指差した先には、木箱に山積みされた大量の金貨や、高級な反物、さらには建築資材までがズラリと並べられていた。
その額、ざっと見積もっても金貨五万枚は下らない。
前村長が持ち逃げした額を補って余りある、超絶黒字の莫大な財産だった。
「え、えええ……? こ、こんなにもらえませんよぉ!」
「受け取ってください! じゃないと、俺たち夜も眠れません! 満月を見るたびに、姉御の『全回復』がフラッシュバックして……ヒィィッ!! 顎がっ、俺の顎がァァッ!!」
大男は、キャルルさんのタローマン製安全靴が少し動いただけで、ガタガタと震え上がり、白目を剥いて失神しかけていた。
完全にトラウマを植え付けられている。
「……見事な手腕だ、新村長」
レオンハルト様が、大剣を鞘に収めながら静かに言った。
「これだけの資金があれば、村の立て直しどころか、シュヴァルツ領有数の特産品開発拠点にすら成長できるだろう。……結果的に、君が一人で村を救ったんだ」
「レオンハルト様……。でも、あの……」
キャルルさんは、ウサギ耳をシュンと垂らしたまま、私の方をチラリと見た。
「クロエさん。私……あんな、野蛮な暴力ウサギになっちゃって。……嫌い、なりませんか?」
「えっ?」
私は、キャルルさんのその不安そうな顔を見て、思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、嫌いになるわけないじゃないですか!」
私はキャルルさんに駆け寄り、彼女の両手をギュッと握りしめた。
「キャルルさんは、お昼間、自分の血を吐いてまで村のみんなを助けてくれました。あの優しい心も、満月の夜のすっごく強くてかっこいいところも……全部、キャルルさんです。私、キャルルさんのこと、大好きですよ!」
「クロエさん……っ!」
キャルルさんは、パァァッ!と顔を輝かせ、そのまま私に抱きついてきた。
「わぁぁぁん! クロエさん優しすぎますぅ! 私、一生クロエさんについていきますぅぅっ!」
「ふふふっ、よしよし」
私が彼女の背中を撫でていると、横からスッと、大きな手が伸びてきた。
レオンハルト様が、私とキャルルさんの間に割って入り、私の肩を抱き寄せたのだ。
「キャルル。気持ちは分かるが、俺の婚約者にあまりくっつかないでもらえるか。……少し、嫉妬してしまう」
「れ、レオンハルト様っ!?」
皆の前で堂々と『婚約者』と言われ、しかも肩を抱かれたことで、私の顔は一瞬でリンゴのように真っ赤になった。
「よく頑張ったな、クロエ。君が無事で本当によかった」
レオンハルト様が、甘く低い声で囁き、私の髪にそっとキスを落とす。
冷徹な『氷の死神』が、私の前だけで見せる、この甘すぎる態度。
心臓が早鐘のように鳴り、私は恥ずかしさで彼の胸に顔を埋めることしかできなかった。
「…………ッ!!」
その光景を。
キャルルさんは、少し離れた物陰から、口元を両手で覆い、目を極限まで見開いて見つめていた。
(と、尊いぃぃぃっ……!!)
彼女の脳内で、ファンファーレが鳴り響いていた。
泥沼恋愛小説『ガオガオン』のドロドロ展開も好きだが、やはり生で見る圧倒的な【純愛】の破壊力は凄まじい。
不器用で過保護な最強騎士と、健気で可愛い天才錬金術師。
「……ハァ、ハァ……素晴らしい。この空間、マイナスイオンが出てます。眼福すぎます……!」
「おいウサギ。よだれが出ているぞ」
横から、イグニス様が呆れたようにツッコミを入れる。
しかしキャルルさんは、ウサギ耳をピクピクと興奮気味に揺らしながら、特注安全靴の踵をトントンと地面に鳴らした。
「イグニスさん。私、決めました。ポポロ村の村長としての最大の使命が、たった今、定まりました」
「ほう? 流通ルートの拡大か? それとも村の防衛力強化か?」
「違います! 【クロエさんとレオンハルト様の、尊い純愛空間の絶対防衛】です!!」
「……は?」
キャルルさんは、鼻息を荒くして拳を握りしめた。
「いいですか。恋愛というのは、いつ横恋慕する泥棒猫や、厄介な障害が現れるか分からない戦場なんです! もし今後、お二人の仲を引き裂こうとする不届き者が現れたら……」
キャルルさんの瞳の奥に、再び『雷神』のドス黒いオーラが宿る。
「私の安全靴で、相手の顎を粉々に砕いて、三日三晩『全回復ヤキ入れ』の刑に処します」
「……お前、クロエのためなら平気で法を犯しそうだな」
「愛(推しカプ)を守るためなら、常識なんて投げ捨てますよ!」
キャルルさんのヤンデレ気質――いや、狂信的な【推し活】モードが完全に火を噴いていた。
イグニス様は深々とため息をついたが、やがて「ふっ」と小さく笑った。
「まあ、クロエの笑顔を守るという点においては、私も同意見だ。いざという時は、私が灰にして、お前がヒールをかければ完璧だな」
「さすがイグニスさん! 話が分かります! さあ、これから二人のイチャイチャを特等席で観察する業務に戻りましょう!」
物陰で、最強の神獣と最狂の村長が、がっちりと熱い握手を交わしていた。
* * *
こうして。
前村長の失踪と、闇金シンジケートの襲来というポポロ村最大の危機は、新村長キャルルの圧倒的な『武力』と『慈愛』によって、あっけなく幕を閉じた。
莫大な寄付金を得たポポロ村は、クロエの錬金術と龍魔呂さんの神話級農具、そしてキャルルの現代知識(ファミレスやサウナ文化)を融合させ、辺境随一の豊かな村へと急成長していくことになる。
「クロエさん! 今日のお昼は、ルナミス帝国発祥の『オムライス』にしませんか!」
「わぁ、オムライスですか! いいですね、龍魔呂さんの星屑トマトで作ったケチャップをたっぷりかけましょう!」
平和な村の広場に、女の子たちの楽しそうな笑い声が響く。
絶対防衛の村おこしと、雷神の月兎。
波乱万丈だった第四章は、温かいご飯の匂いと、仲間たちの確かな絆に包まれて、最高の大団円を迎えるのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
翌朝、正気に戻ったキャルルさんの大反省会!
そして、完全にトラウマを植え付けられた闇金シンジケートからの、莫大な「寄付金」による大黒字決着。
キャルルのギャップと、クロエの優しさが交差する、温かい大団円となりました!
後半では、レオンハルト様の甘々な態度に悶え、完全に「推し活」モードに覚醒するキャルルさん。
イグニス様とも謎の防衛同盟を結び、クロエたちの尊い日常を守るための最狂のボディガードが誕生してしまいました(笑)。
「キャルル可愛い!」「ヤンデレ推し活ウサギ最高!」「レオンハルト様の嫉妬甘すぎる!」と思っていただけましたら!
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