血を吐く慈愛。――新村長の誇りと、怒れる家族たちの『裏ルール』迎撃作戦
血を吐く慈愛。――新村長の誇りと、怒れる家族たちの『裏ルール』迎撃作戦
闇金シンジケート『黒蛇商会』による、村の乗っ取り宣言から一夜が明けた。
本隊が襲撃してくると予告された日の昼下がり、私たちは広場に集まり、防衛のためのバリケード構築や避難誘導の準備に追われていた。
「レオンハルト様、軍が動かせないなら、私たちだけで迎え撃つしかないんですよね?」
「あぁ。俺が軍隊(辺境伯軍)を率いて彼らを攻撃すれば、自治ルールを破ったとして国際問題になる。……だが、俺が『個人の剣士』として、村の防衛に手を貸す分には法的な問題はない」
レオンハルト様は、軍服を脱ぎ、動きやすい黒い私服姿で漆黒の大剣を手入れしていた。
為政者としての立場を一時的に捨ててでも、私たちを守るために戦ってくれる。その不器用な優しさに、胸が熱くなる。
「へっ、俺もだ。ポポロ村は俺の畑のすぐ隣だからな。自分の庭を荒らす害虫を、農民が『農具』で駆除するのに、誰の許可もいらねぇだろ」
龍魔呂さんも、愛用の神話級農具『創世のクワ』を肩に担ぎ、ヤル気満々の笑みを浮かべている。
イグニス様も「人間のゴミ掃除など気が進まんが、クロエの安眠を妨げる輩は灰にするまでだ」と、指先で火球を弄んでいた。
最強の仲間たちが揃っている。これなら、どんな傭兵団が来ても絶対に負けない。
そう思っていた、その時だった。
「ひぃぃぃっ! た、助けてくれぇっ!」
村の西側、農地の方角から悲痛な叫び声が上がった。
私たちが駆けつけると、数人の村人たちが地面に倒れ伏し、喉を掻きむしって苦しんでいた。
彼らの周囲には、ドス黒い瘴気を放つ、異形の『毒スライム』のような小型魔獣が何匹も這い回っていたのだ。
「なんだ、この魔獣は……!?」
「黒蛇商会の連中が、森の向こうから投げ込んで来やがったんだ! 水路の近くにも何匹か落ちて……うぐぁっ!」
報告しようとした村の青年も、瘴気を吸い込んでバタリと倒れてしまった。
「汚い真似を……! 本隊の襲撃前に、毒で村人の抵抗力を削ぎ落とす気か!」
レオンハルト様が怒りの声を上げ、大剣から冷気を放って毒スライムたちを一瞬で凍結・粉砕する。
私は急いでエプロンから『万能ポーション』を取り出し、倒れた青年たちに振りかけた。
「……えっ?」
ポーションの光が瘴気を浄化していくが、完全に症状が消え去らない。
苦しげな呼吸は収まったものの、顔色は青ざめたままで、意識も戻らないのだ。
「ダメだ、クロエ。これはただの毒じゃない。裏社会の連中が使う、呪詛を混ぜ込んだ特殊な遅効性の猛毒だ。お前のポーションで命は繋ぎ止められるが、完全に解毒するには専用の調合が必要になる」
イグニス様が倒れた村人の顔を見て、忌々しそうに舌打ちをした。
「そんな……! 解毒薬の調合には、どんなに急いでも数時間はかかります。それじゃあ、今夜の襲撃に間に合わない……っ!」
私たちが焦燥感に駆られていた、その時だった。
「退いてください、クロエさん。私に任せて」
キャルルさんが、倒れた村人たちの前にスッと膝をついた。
彼女は自分のポケットから『陽薬草』を取り出すと、それを両手で包み込み、ギュッと目を閉じた。
「月の導きよ。我が身の血肉を糧として、清らかなる光の雫となれ――」
キャルルさんのウサギ耳が淡く輝き、彼女の身体から凄まじい魔力が放出される。
月兎族の魔力を極限まで圧縮し、陽薬草と融合させる秘伝の技。
完成した光の粉末――『月光薬』を、キャルルさんは村人たちの口元にそっと含ませた。
シュゥゥゥゥッ……!
淡い光が村人たちの身体を包み込んだ瞬間、彼らの顔からドス黒い瘴気が完全に抜け落ち、血色がスッと戻った。
「う、あ……? 俺は、一体……」
「息が、苦しくない……治った……!」
村人たちが次々と意識を取り戻し、立ち上がっていく。
見事なまでの完全回復。
しかし、その代償は決して軽いものではなかった。
「ゴホッ、ゲホッ……っ!」
キャルルさんが、激しくむせ返り、その小さな口から赤黒い血を吐き出したのだ。
「キャルルさん!?」
私が慌てて抱きとめると、彼女の身体は驚くほど冷え切っており、息も荒くなっていた。
「ダメだよ、こんなの! 自分の命を削って回復させるなんて……っ!」
「……大丈夫、です。これくらい、いつものことですから」
キャルルさんは、口元の血を手の甲で無造作に拭いながら、力なく微笑んだ。
「私は、レオン・ハート王国の姫でした。籠の中で、誰かが傷つくのをただ見ていることしかできなかった。……でも、今は違います」
彼女のウサギ耳が、ピクッと震える。
その瞳に宿っているのは、他者への深い慈愛と、絶対に折れない高潔な精神。
「私は、ポポロ村の村長ですから。皆さんの笑顔を守るのが、私の仕事です。……私が血を吐くくらいで、みんなの命が助かるなら、安いものですよぉ」
えへへ、と。
ボロボロの身体で、私を安心させるように『星の王子様』のような無邪気な笑顔を見せるキャルルさん。
その健気な姿に、私の胸の奥で、今まで感じたことのないほどの激しい怒りが爆発した。
(絶対に、許さない)
善良な村人を毒で苦しませ。
出会ったばかりの、こんなにも優しくて強い友達に、血を吐かせてまで自己犠牲を強いたあの悪党どもを。
「……キャルルさん、少し休んでいてください。私が、特製のポーションを作ります」
「クロエさん?」
「私から、大切な友達の笑顔を奪おうとする連中を……私は、錬金術師として絶対に許しません」
私は、キャルルさんを村の女性たちに預け、足早に工房へと向かった。
キャルルさんの体力を底上げし、魔力を爆発的に回復させる『超回復ドリンク』を錬成するために。
「……嬢ちゃんが、あんなにマジギレしてんのは久しぶりに見たな」
龍魔呂さんが、タバコをふかしながらポツリと呟いた。
レオンハルト様も、大剣の氷の魔力を静かに高めながら、深く頷く。
「あぁ。……あのウサギの娘の心意気、痛いほど伝わってきた。軍の立場に縛られて動けない自分が、心底情けなくなるほどにな」
「なら、やることは一つだろ、お坊ちゃん」
龍魔呂さんがニヤリと笑い、レオンハルト様も冷酷な、けれど血の通った『漢』の笑みを浮かべた。
「あの悪党どもには、俺たちの『裏ルール』で落とし前をつけさせる。……キャルルに流させた血の分、きっちりと後悔させてやろう」
ポポロ村を守る最強の家族たちが、完全に一つになった瞬間だった。
* * *
そして、夜。
日が沈み、絶対緩衝地帯の森が深い闇に包まれる頃。
「ヒャハハハ! そろそろ毒が回って、村の連中も動けなくなってる頃だぜ!」
「さっさと村長を引きずり出して、村の権利書にサインさせろ!」
たいまつを掲げた黒蛇商会の傭兵団――その数、およそ百名以上が、獰猛な魔獣たちを引き連れて、ポポロ村の広場へと乗り込んできた。
しかし。
彼らを待ち受けていたのは、怯えて逃げ惑う村人たちではなく。
「待ちわびたぞ、下衆ども」
村の入り口を塞ぐように立ち塞がる、漆黒の大剣を構えたレオンハルト様と、神話級のクワを肩に担いだ龍魔呂さんだった。
「……あ? なんだてめぇら。この絶対緩衝地帯で、俺たちに手を出せばどうなるか分かって――」
「五月蝿い。農作業の邪魔だ」
龍魔呂さんがクワを一振りした瞬間、巻き起こった凄まじい突風が、傭兵団の先頭にいた十数人を一気に空の彼方へと吹き飛ばした。
「な、なんだとォ!?」
「法だのルールだの、そんな薄っぺらい盾で身を守れると思うなよ。……俺たちは今日、ただの『怒れる一般人』として、お前らを粉砕する」
レオンハルト様が、絶対零度の冷気を放ちながら一歩、前へ出る。
二人の圧倒的な武力を前に、傭兵団の男たちの顔に焦りの色が浮かび始めた。
だが、この夜の本当の恐怖は、彼らではない。
――スゥゥゥゥッ……。
分厚い雲が風に流され。
夜空に、美しく、そして不気味なほどに真ん丸な『満月』が顔を出した。
「……あ。お月様だぁ」
広場の奥。
私が作った『超回復ドリンク』を一気飲みし、体力を完全に取り戻していたキャルルさんが、月を見上げてポツリと呟いた。
その瞬間。
彼女のウサギ耳が、ピンッ!と限界まで直立し、可憐な瞳の瞳孔が、猫のように細く収縮した。
「あはっ……あはははははっ!!」
キャルルさんの身体から、先ほどまでの慈愛に満ちたオーラとは全く異質の、紫電を帯びた暴力的な闘気が爆発的に噴き上がる。
(……え? キャルル、さん……?)
私が戸惑う中、キャルルさんは『タローマンの特注安全靴』を履いた足を軽く曲げ、クラウチングスタートの姿勢をとった。
満月の夜。
理性を吹き飛ばし、ただ純粋な『雷神の月兎』として完全覚醒した彼女の、最狂の宴が、今、幕を開けようとしていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
卑劣な毒をばら撒くシンジケートに対し、自分の血を吐きながら『月光薬』で村人を回復させたキャルル。
「私が村長ですから」と笑う彼女の自己犠牲と健気な姿に、クロエもレオンハルトも龍魔呂もブチギレます。
もう軍のルールなんて関係ない。「怒れる一般人」として、全員で悪党をぶっ潰す準備が整いました!
そして、ついに夜が訪れ、雲の隙間から『満月』が顔を出します。
血を吐いて衰弱していたキャルルですが、クロエの超回復ドリンクと満月の力によって、限界突破の完全覚醒!
普段のぽわぽわしたお姫様から、テンションMAXのバーサーカーへと変貌を遂げました!
次回!
覚醒したキャルルがマッハ1で戦場を駆け抜ける!
【超電光流星脚】からの「全回復ヤキ入れ拷問」という、敵にとっての無限地獄がスタートします!
「キャルル健気で泣ける……」「からの満月覚醒ヤバそう(笑)」「絶対許さねぇ!」と思っていただけましたら!
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