ウサギ耳の新村長と秘密のお泊まり女子会。――泥沼恋愛小説と、過激すぎる恋バナの夜!
ウサギ耳の新村長と秘密のお泊まり女子会。――泥沼恋愛小説と、過激すぎる恋バナの夜!
「はい、これで作付け計画の再編と、隣街への流通ルートの確保は完了! あとは予算の再計算ですけど……前村長さんが持ち逃げした穴を埋めるには、特産品のブランド化を急がないとですね」
ポポロ村の村長室。
デスクに向かっていたキャルルさんは、凄まじいスピードでペンを走らせ、山積みになっていた書類を次々と処理していく。
元王族であり、近衛騎士隊長候補だった彼女の【政治力】と【事務処理能力】は、控えめに言ってバケモノじみていた。
「すごい……。キャルルさんが来てくれてから、村の行政手続きが今までの十倍くらいの早さで終わっていく……」
「へっ。見かけによらず、優秀なウサギだぜ。これなら俺の育てた野菜の出荷ルートも、さらに拡大できそうだな」
お茶を運んできた私と、納品に来た龍魔呂さんが、その鮮やかな手腕に感心して息を吐く。
当のキャルルさんは、書類にポンッと村長のハンコを押すと、「ふぅ」と伸びをして、特注の安全靴を履いた両足をブラブラと揺らした。
「これくらい当然ですよ。私、冒険者時代は『ルナキン(ルナミスキング)』っていうファミレスで、朝定食を食べながら一日のクエストと収支の計算を完璧にこなしてましたから!」
「ふぁみれす……? よく分からないけど、キャルルさんはすごいね!」
「えへへ、クロエさんに褒められちゃいました!」
キャルルさんはウサギ耳をピョコピョコと揺らし、ポケットからおもむろに人参スティック(おやつ用)を取り出してサクサクと囓り始めた。
「よし! 今日の業務はここまで! 定時退社です!」
「お疲れ様でした、キャルルさん。……もしよかったら、今日は私の工房でお泊まり会しませんか? 美味しいご飯と、ふかふかのベッドを用意しますよ!」
「お泊まり会!? 行きます! シェアハウスの友達以外とするの、初めてです!」
こうして、村長就任初日の夜。
私の錬金工房の二階にある居住スペースで、キャルルさんを交えた『女子会』が開催されることになった。
* * *
「ふはぁ〜、いいお湯でしたぁ……」
私が錬金術で作った特製の美容入浴剤入りのお風呂から上がり、キャルルさんは持参したショートパンツとゆったりしたルームウェアに着替えていた。
彼女の腕には、なぜか巨大な『人参の抱き枕』がしっかりと抱き抱えられている。
「キャルル、その奇妙なオレンジ色の物体はなんだ」
パジャマ代わりの黒いネグリジェを着たイグニス様が、胡散臭そうに人参抱き枕を指差した。
「これですか? 私の安眠の友、特製人参抱き枕です! これがないと夜ぐっすり眠れないんですよねぇ。あ、イグニスさんもおひとつどうですか? 今ならお揃いの人参柄のお手製刺繍ハンカチもつけますよ!」
「い、いらん! 神獣である私がそんな野菜のクッションなど抱いて寝るわけがなかろう!」
イグニス様が顔を赤くしてそっぽを向く。
キャルルさんは「え〜、いい匂いするのに」と残念そうに抱き枕に頬ずりし、それからゴソゴソと自分の鞄を探り始めた。
「あ、そうだ! お泊まり会といえば、恋バナと読書ですよね! クロエさん、煎餅食べます?」
「おせんべい? いただきます。……あ、それ、本ですか?」
キャルルさんが鞄から取り出したのは、分厚い一冊の小説だった。
「はい! これ、最近私がドハマりしてる『聖獣機神ガオガオンの社内恋愛事情は辛いよ。』っていう、超ドロドロの恋愛小説なんです!」
キャルルさんは、バリボリと煎餅をかじりながら、目をキラキラさせて語り始めた。
「主人公のガオガオンが、同僚のメカペガサスと禁断の恋に落ちるんですけど、そこに上司のダークドラゴンが横恋慕してきて、部署内で壮絶なマウント合戦が始まるんですよ! もう、すっごい泥沼で!」
「……待て。聖獣で機神なのに、なぜ社内で事務仕事をして恋愛をしているのだ。設定が破綻しているではないか」
「そこがいいんじゃないですかイグニスさん! 社会の歯車として働きながらも、愛に狂っていく機神たちの姿が泣けるんですよぉ!」
イグニス様は呆れた顔をしていたが、キャルルさんが「ほら、ここのダークドラゴンの嫉妬シーン、読んでみてください」と本を渡すと、「ふ、ふん、どれ……っ、な、なんだこの回りくどい嫌がらせは! 直接炎で焼き払えばいいものを……!」と、意外にも食いついて真剣に読み始めてしまった。
(キャルルさん、イグニス様ともすっかり打ち解けてるなぁ)
私が微笑ましく見守っていると、キャルルさんがふいに、じーっと私の顔を見つめてきた。
「……クロエさん」
「は、はい?」
「私、耳が良いんです。相手の心音を聞けば、嘘をついているかどうか一発で分かるくらいに」
「そ、そうなんですか? すごいですね!」
私が感心していると、キャルルさんはニヤリと、どこかイタズラっぽい、けれど底知れない真剣さを帯びた笑みを浮かべた。
「お昼間、村長室でクロエさんとレオンハルト様が話していた時……クロエさんの心音、レオンハルト様が近づくたびに『トクトクッ!』って、すっごく跳ね上がってましたよね?」
「なっ……!?」
突然の指摘に、私の顔は一瞬で沸騰したように熱くなった。
「ひゃああっ!? そ、それは、あの……っ!」
「ふふふ。隠しても無駄ですよ、私の耳は誤魔化せません。ズバリ、お二人はお付き合いされているんですよね?」
キャルルさんが、ジリジリと私に詰め寄ってくる。
人参抱き枕を抱えたまま、目は完全に『恋バナの獲物を狙う肉食獣』のそれだった。
「あ、あの……はい。少し前に、その……想いを、伝え合って。ちゅ、チューとかも、しちゃったりして……っ」
私は両手で真っ赤になった顔を覆いながら、消え入りそうな声で白状した。
「キャァァァァッ!! 尊いぃぃっ!!」
キャルルさんが、人参抱き枕を放り投げてベッドの上でバタバタと暴れ回った。
「いい! すごくいいです! 純愛! 最高!! ガオガオンのドロドロもいいですけど、やっぱり真っ直ぐな純愛が一番栄養になります!!」
キャルルさんは私の両手をガシッと握り、鼻息を荒くして言った。
「クロエさん。恋愛っていうのは、戦いです。もしレオンハルト様にちょっかいを出すような泥棒猫が現れたら……私に言ってください。特注の安全靴で、相手の顎を粉々に砕いてさしあげますから!!」
「えっ、あ、顎!?」
「愛を引き裂こうとする害虫は、物理的に排除するのが一番合理的ですからね。ふふふ……クロエさんの純愛は、私が全力で守ります(ドス黒いオーラ)」
「お、重い……! なんか愛の形が重いよキャルルさん!」
ニコニコ可愛い顔をしているのに、恋愛沙汰になると急にヤンデレ気質というか、過激な思考が飛び出してくるキャルルさん。
横で本を読んでいたイグニス様も、パタンと本を閉じて頷いた。
「同感だウサギ。クロエに仇なす輩は、私も全力で灰にしてやろう」
「ですよね! あ、イグニスさんも意外と話が分かりますね! 煎餅のおかわりどうですか?」
「いただこう。……ところで、このガオガオンの次巻は持っていないのか?」
すっかり意気投合し、過激な純愛防衛同盟を結成してしまった二人を見て、私は苦笑いしながらも、心がとても温かくなるのを感じていた。
こんな風に、女の子同士でお菓子を食べながら笑い合って、他愛のない恋バナをする。
ずっと地下室に閉じ込められていた私には、夢のような時間だった。
「キャルルさん、イグニス様……ありがとうございます。私、今、すっごく楽しいです」
私が心からの笑顔を向けると、キャルルさんもウサギ耳を揺らして、とびきりの笑顔を返してくれた。
夜が更けていく。
キャルルさんは人参抱き枕を抱きしめて幸せそうに眠りにつき、イグニス様も静かな寝息を立てていた。
平和で、甘くて、優しい夜。
この楽しい日常が、明日も明後日も続いていくのだと、私は信じて疑わなかった。
……しかし。
この時、村の静寂を切り裂くように、絶対緩衝地帯の森を抜けて近づいてくる『黒い影』の集団がいた。
彼らの手には、前村長がサインをした『ポポロ村の土地を担保とする莫大な借用書』が握られている。
裏社会の闇金シンジケート。
新村長キャルルの平和なシティライフを脅かす最悪の訪問者が、ポポロ村の入り口へと、その薄汚い足を一歩、踏み入れようとしていたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第四章の第2話は、キャルルのシティライフと、女子会(恋バナ)のエピソードでした!
泥沼恋愛小説『ガオガオン』を読みながら煎餅をかじるお姫様、そして意外と食いつく神獣(笑)。
キャルルの「心音」を聞き分ける能力によって、クロエとレオンハルトのイチャイチャが速攻でバレてしまいましたね。そして飛び出す、キャルルの「ヤンデレ(純愛至上主義)」な一面。顎を砕くって、物騒すぎます!
すっかりクロエたちと打ち解け、家族のような絆を結び始めたキャルル。
しかし、ラストで不穏な影が……。
次回!
前村長の最悪の置き土産。闇金シンジケートの借金取りが村に押し寄せてきます。
絶対緩衝地帯のルールを盾に取る悪党どもに対し、新村長キャルルが立ち上がる!
「女子会楽しそう!」「キャルル重くて可愛い!」「ガオガオン気になる(笑)」と思っていただけましたら!
ぜひぜひ! 画面下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して、【★★★★★】で応援の評価をよろしくお願いいたします!
皆様からの星とブックマークが、明日も頑張って執筆するための最高の原動力になります! どうか、応援よろしくお願いいたします!




