第四章 雷神の月兎と、絶対防衛の村おこし!
消えた村長と、特注安全靴のウサギ耳姫。――地域応援隊で来たら、いきなり村を押し付けられました!?
奇病『黒死灰』の騒動からしばらく経った、ある日のこと。
ポポロ村の広場にある集会所では、いつもの賑やかな顔ぶれが揃っていた。
「……そう言えば、ロップ村長は最近見ねえがどうした?」
壁に寄りかかり、タバコをふかしていた龍魔呂さんがふと疑問を口にした。
村に野菜を卸しに来たついでに、休憩がてら立ち寄ったらしい。
「え? そう言えば……」
私は、お茶を淹れながら首を傾げた。
「数日前にゲートボール大会に行ってから、急におめかしして、村長宅の金庫をゴソゴソと漁っていたような……」
「奴なら、高飛びしたぞ。村の資金をすべて持ってな」
優雅にティーカップを傾けていたイグニス様が、さも当然の事のように言い放った。
「「「はぁ!?」」」
私とレオンハルト様、そして龍魔呂さんの声が見事にハモる。
「何故止めないんだ、竜の姉ちゃん!」
「私が知るか。人間たちの下賤な金の話など、私には欠片も興味はない」
「いや興味持てよ! 村の金庫空っぽって、この村どうすんだよ!」
龍魔呂さんが頭を抱える。
村長が、ゲートボール大会で知り合ったというご婦人と駆け落ちしたという噂は聞いていたけれど、まさか村の全財産を持ち逃げしていたなんて。
「由々しき事態だな。俺が騎士団を動かして、すぐに捜索の手配を――」
辺境伯であるレオンハルト様が厳しい顔で立ち上がろうとした、まさにその時だった。
「こんにちは〜!」
集会所の扉が、勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、信じられないほど愛らしい、けれどどこか『異質』な雰囲気を纏った一人の少女だった。
頭には、ピンと伸びた白くふわふわのウサギ耳。
顔立ちは人形のように可憐で、ニコニコと人懐っこい『星の王子様』のような笑顔を浮かべている。
しかし、その服装は奇妙だった。このファンタジーな世界観には似つかわしくない、ラフで動きやすい現代風のパーカーにショートパンツ。
そして何より目を引くのは、彼女の足元だ。
(……靴? すごく、ゴツい……?)
彼女が履いていたのは、鉄板が仕込まれた黒光りする重厚な靴――異世界ブランド『タローマン』製の、特注の安全靴だった。
その重そうな靴を履いているのに、彼女の足音は信じられないほど軽く、一切の無駄がない。
「ギルドの依頼で来た、キャルル・ムーンハートと言います! ポポロ村の地域村おこし応援隊として、助っ人にやって来ました!」
キャルルと名乗ったウサギ耳の少女は、元気よく一枚の羊皮紙を差し出した。
龍魔呂さんがそれを受け取り、彼女の経歴書に目を通す。
「……ほう」
龍魔呂さんの三白眼が、スッと細められた。
「レオン・ハート獣人王国の、第三姫君。おまけに近衛騎士隊長の候補生だっただと?」
「えっ!? お、お姫様なんですか!?」
私が驚いて声を上げると、キャルルさんは「あはは」と頭を掻いた。
「元、ですけどね。王族の『籠の鳥』みたいな窮屈な生活が嫌で、自由を求めてルナミス帝国に亡命したんです。今はシェアハウスに住んで、ファミレスの朝定食と銭湯とサウナを楽しむ、しがない冒険者ですよぉ」
あっけらかんと笑うキャルルさん。
しかし、レオンハルト様は彼女の立ち姿を見て、小さく息を呑んでいた。
「……隙がない。あの特注の安全靴……尋常ではない質量だが、彼女の脚力と体幹はそれを羽のように軽く扱っている。只者ではないな」
「丁度良い」
龍魔呂さんが、経歴書をピシャリと丸めてキャルルさんに突きつけた。
「実力も血筋も文句ねぇ。ギルドの依頼内容は、今この瞬間から『村長』になることに変更だ。……報酬は、このポポロ村の全権だ」
「えええ〜!?」
キャルルさんのウサギ耳が、ピーンと垂直に跳ね上がった。
「そ、村長!? 私、ただの地域応援隊として、畑仕事とか書類の整理を手伝うつもりで来たんですけど!?」
「村長が金持って女と逃げたんだよ。今、この村のトップは空席だ。お前みたいな政治力も腕っぷしもありそうな奴が来てくれて助かったぜ」
龍魔呂さんの無茶苦茶な宣告に、キャルルさんは目を白黒させている。
(困ってる……。そりゃそうだよね、いきなり村長なんて)
私が助け舟を出そうとした時。
キャルルさんのウサギ耳が、ピクピクッと微かに震えた。
彼女は、私たち四人の顔を順番に見つめ、ジッと耳を澄ませるような仕草をした。
『――トクン、トクン』
彼女には聞こえていた。
月兎族特有の鋭い聴覚。それは相手の心音から『嘘』を見破る力。
ヤンキーのような大男(龍魔呂)の心音は、一切の揺らぎがなく合理的。
美しい銀髪の少女の心音は、純粋で真っ白。
漆黒の騎士は、冷静だが少し困惑している。
赤いドレスの女は……恐ろしいほどに重厚で、人間離れしている。
(……誰も、嘘をついてない。本当に困ってるんだ、この村)
キャルルの中で、彼女の行動原理である『代表的な日本人』の高潔な道徳心と、『自助論』の独立心がカチリと噛み合った。
「……はぁ。わかりました」
キャルルさんは、深くため息をついた後、キリッとした顔で私たちに向き直った。
先ほどのほんわかした雰囲気から一転、一国の姫君であり、近衛騎士を束ねるはずだった者の『王気』が微かに漏れ出す。
「乗りかかった船です。前村長さんが持ち逃げした資金の穴埋めから、村の立て直しまで……このキャルル・ムーンハートが、臨時村長としてすべて引き受けましょう!」
「おぉ! 言ったな嬢ちゃん、漢気あるじゃねぇか!」
「わぁっ! ありがとうございます、キャルルさん!」
私が両手を取って喜ぶと、キャルルさんは再び「えへへ」と『星の王子様』のような無垢な笑顔に戻った。
「その代わり、皆さんも協力してくださいね? あ、これ、ご挨拶代わりのお近づきの印です!」
キャルルさんはパーカーのポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと何かを取り出した。
それは、可愛らしいウサギの形をした、甘い匂いのする飴玉だった。
「甘いもの、好きですか? 私、ポケットにいつもお菓子入れてるんです。みんなで食べましょう!」
「飴玉! 嬉しいです、私、クロエって言います。こっちがレオンハルト様で、イグニス様、龍魔呂さんです!」
「ふふっ、クロエさんですね。よろしくお願いします!」
私とキャルルさんは、飴玉を舐めながらすっかり意気投合してしまった。
可愛くて、優しくて、でもどこか底知れない強さを秘めたウサギ耳の女の子。
彼女の登場で、ポポロ村は新しい風に包まれようとしていた。
しかし。
私たちはまだ知らなかったのだ。
前村長が持ち逃げした金が、ただの村の資金だけでなく……裏社会の『闇金シンジケート』から借り入れた、莫大な借金であったという事実を。
そして、この愛らしいウサギ耳の新村長が。
満月の夜になると、マッハ1で飛び蹴りを放ちながら全回復の拷問を行う『雷神の月兎』として、三カ国の軍隊から恐れられている、とんでもないバーサーカー(劇薬)であるということも。
新たなトラブルの予感と共に。
波乱万丈の村おこしと、最強のシスターフッドが爆発する第四章が、今、賑やかに幕を開けた!
いよいよ第四章の開幕です!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
新章のスタートは、ポポロ村の村長が失踪するというトラブルから。
そしてそこに現れたのは、現代風の服に『特注安全靴』を履いたウサギ耳の美少女、キャルル・ムーンハート!
元お姫様で近衛騎士隊長候補、心音で嘘を見破る力を持つ彼女が、龍魔呂の無茶振りでいきなり新村長に就任してしまいました。
クロエともすぐに意気投合したキャルルですが、彼女の抱える「満月の夜の秘密」とは……!?
そして、前村長が残した「裏社会の借金」という最悪の置き土産が、ポポロ村に迫り来ます。
次回、第33話!
キャルルとクロエの楽しいお泊まり女子会(恋バナ)!
泥沼恋愛小説好きのキャルルが、クロエとレオンハルトの仲に切り込みます!
「新キャラ可愛い!」「安全靴のウサギ耳ってギャップすごい!」「満月の夜がヤバそう(笑)」と思っていただけましたら!
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