表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と追放された錬金令嬢、最強神獣(お姉様)に拾われる。辺境で工房を開いたら、冷血なはずの竜騎士様が毎日通ってくるのですが?  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/40

第三章 抗う者たち。天才の狂気と、男の覚悟

「せっかくの美人が台無しだぞ」――ヤンキー農家の一言で、最強の神獣お姉様のお着替えイベントが発生しました!

 王都での実家との因縁を完全に断ち切り、辺境都市シュヴァルツへと帰還してから数週間。

 私の錬金工房は、かつてないほどの平和と活気に包まれていた。

「おう、嬢ちゃん。頼まれてた『太陽芋』と『月見大根』、それから新種の『星屑トマト』を持ってきたぜ」

 カランコロン、と工房のベルを鳴らして入ってきたのは、黒い作業着に頭にタオルを巻いた龍魔呂さんだった。

 彼は私の身長ほどもある巨大な木箱を、まるで空箱でも持っているかのように軽々と片手で担ぎ上げ、ドスッと床に置いた。

「わぁっ! ありがとうございます、龍魔呂さん! どの野菜も、信じられないくらい魔力がパンパンに詰まってますね!」

 木箱を開けると、宝石のようにキラキラと輝くURウルトラレア野菜たちが顔を覗かせた。これさえあれば、また一段と効果の高いポーションや、皆が笑顔になる美味しいご飯が作れる。

「ふん。相変わらず、無駄に威圧感のある農民だな。野菜の質だけは認めてやるが、工房の入り口を塞ぐような真似は感心せんな」

 奥のカウンターから、優雅に紅茶のカップを傾けながら姿を現したのは、真紅のドレスを纏ったイグニス様だった。

 彼女は神獣特有の絶対的なオーラを放ちながら、龍魔呂さんを値踏みするように見下ろしている。

「あぁ?」

 龍魔呂さんが木箱から手を離し、懐から赤い箱を取り出した。

 そして、マルボロを一本くわえ、真鍮製のオイルライターを取り出す。

 ――カチッ……ジ、ボッ。

 火を点ける、冷たい金属音。

 紫煙を細く吐き出しながら、龍魔呂さんは極道の若頭のような鋭い三白眼で、イグニス様を真っ直ぐに見つめ返した。

 神獣と、異世界のヤンキー総長。

 互いに一歩も引かない、ビリビリとした空気が工房を満たす。

 ……と、思いきや。

「お前……何時も同じ格好をしてるな」

 龍魔呂さんの口から出たのは、威嚇でも皮肉でもなく、ひどく呆れたような、純粋な指摘だった。

「は……? 同じ格好だと?」

「あぁ。ポポロ村で会った時も、王都へカチコミに行った時も、そして今日もだ。毎日毎日、その赤いドレスしか着てねぇじゃねぇか」

 龍魔呂さんはタバコを指に挟み、イグニス様の全身をジロリと眺めた。

 いやらしい視線では決してない。純粋に『もったいない』とでも言うような、率直な目だった。

「それじゃ、せっかくの美人が台無しだぞ」

 ――ピタッ。

 イグニス様の動きが、完全に停止した。

 持っていたティーカップから、紅茶の雫がポトリとこぼれ落ちる。

「な、なに!?」

 常に余裕たっぷりで、人間を見下し、神獣としての威厳を崩したことのなかったイグニス様が。

 龍魔呂さんのその一言で、信じられないほど狼狽え、頬をほんのりと朱色に染めたのだ。

「び、美人……っ!? き、貴様、竜である私を捕まえて、人間のメスにかけるような世辞を……っ!」

「世辞じゃねぇよ。ツラもスタイルも一級品なのに、毎日同じ服じゃつまらねぇだろって言ってんだ」

 龍魔呂さんは全く動じることなく、肩をすくめた。

 イグニス様は「神獣の力で顕現させた至高のドレスだぞ!」と言い返そうとして、しかし「美人」と真っ直ぐに褒められた動揺からか、言葉に詰まってパクパクと口を動かしている。

(……そうだ)

 私は、ハッとした。

 イグニス様はいつも、私の服を用意してくれたり、髪を梳いてくれたり、私を可愛がることにばかり一生懸命だった。

 でも、彼女自身は神獣として『完成された姿』である真紅のドレスしか着ていない。人間の街に暮らしているのに、普通の女の子がするような『おしゃれ』を楽しむ機会が、一度もなかったのだ。

「そうよ! 私達が選んであげるわ!」

 私はカウンターを飛び出し、動揺しているイグニス様の手をガシッと掴んだ。

「ク、クロエ……? 何を言って――」

「龍魔呂さんの言う通りです! イグニス様は世界で一番綺麗なんだから、いろんな服を着てお出かけするべきです! 行きましょう、今すぐ街のブティックへ!」

「ちょ、待て! 私は神獣だぞ!? 人間の脆弱な布切れなど――ひゃっ!?」

 私は、強引にイグニス様の背中を押し、工房の外へと連れ出した。

 背後から、龍魔呂さんの「へっ、楽しんでこい嬢ちゃんたち」という低い笑い声が聞こえた。

     * * *

「……なぜ、私がこんな目に」

 シュヴァルツで一番高級な服飾店『白百合の仕立て屋』。

 その豪華な試着室の前で、イグニス様は腕を組んで深い溜め息をついた。

 しかし、その黄金の瞳は、店内に並べられた色とりどりのドレスやブラウスを、少しだけ興味深そうに追っている。

「いらっしゃいませ、クロエ様! それに……ひぃっ!?」

 店主の女性が私に笑顔を向けた後、イグニス様の放つ凄まじい覇気に気圧されて尻餅をつきそうになった。

「店長さん、大丈夫ですよ! 今日は私のお姉様に、街を歩くのにぴったりな、素敵なお洋服を選びに来たんです!」

 私がフォローを入れると、店主はプロの顔を取り戻し、「そ、それでしたら……!」と何着もの服を見繕ってくれた。

「ほら、イグニス様! まずはこれ、着てみてください!」

「むぅ……こんなヒラヒラした布、防御力がゼロではないか」

「街を歩くのに防御力はいりません! ほらほら!」

 私はイグニス様を試着室へと押し込んだ。

 数分後。カーテンが開く。

「……どうだ」

 現れたのは、たっぷりのレースとフリルがあしらわれた、ピンク色の可愛らしいワンピースを着たイグニス様だった。

「うーん……イグニス様のお顔立ちが大人っぽいので、少し服が浮いちゃってますね。次行きましょう!」

「くっ……なんだこの敗北感は……」

 それから私たちは、何着もの服を試着しては首をひねる、という『普通の女の子たちの遊び』を繰り返した。

 イグニス様は文句を言いながらも、私が「これも着てみてください!」と目を輝かせると、「仕方ない妹だな」とまんざらでもない様子で付き合ってくれた。

 そして、十着目。

 カーテンがシャッと開き、イグニス様が姿を現した瞬間。

 私と店主さんは、同時に息を呑んだ。

「……どうだ、クロエ。少し、胸元が窮屈だが」

 イグニス様が着ていたのは、いつもの派手な真紅のドレスではない。

 上質な漆黒のハイネックのシルクブラウスに、深いボルドーカラーのタイトスカート。腰には細い革のベルトが巻かれ、神獣としての威厳を損なうことなく、洗練された『大人の女性の美しさ』を完璧に引き出していた。

 燃えるような赤髪は、私が選んだ黒いリボンで緩く一つにまとめられている。

「す、すっごく綺麗です……! イグニス様、本当に世界一の美人です!」

「ふ、ふんっ。お前がそこまで言うなら、これを買ってやろう。……人間の服飾技術も、まあ、少しは認めてやってもいい」

 イグニス様はツンとそっぽを向いたが、鏡に映る自分の姿を見るその横顔は、微かに赤らんで、とても嬉しそうだった。

     * * *

「ふふふっ、本当に似合ってますよ、イグニス様!」

「もういい、あまりジロジロ見るなクロエ。……それにしても、街の連中の視線が鬱陶しいな」

 新しい服に着替えたまま店を出た私たちは、シュヴァルツのメインストリートを並んで歩いていた。

 すれ違う街の人々や騎士さんたちが、イグニス様のあまりの美しさに次々と立ち止まり、ポカンと口を開けて見惚れているのだ。

 いつもの威圧的なドレスではなく、シックで上品な装いになったことで、彼女の隠しきれない色気と美貌が爆発的に際立ってしまっていた。

(龍魔呂さんの言う通りだ。イグニス様、本当にお綺麗……)

 私が鼻高々な気持ちで歩いていると、前方から見慣れた漆黒の騎士が歩いてきた。

 パトロール中の、レオンハルト様だった。

「あ、レオンハルト様!」

「ん? クロエか。……それに、隣のその美しい女性は、もしや王都からの客人か何――」

 レオンハルト様は、イグニス様の顔を見て、文字通り石像のように固まった。

「な、なんだその間抜けな面は、発情期。見惚れると眼球を焼き焦がすぞ」

 イグニス様が腕を組み、いつものように鼻で笑う。

 その瞬間、レオンハルト様の顔が驚愕に染まった。

「イ、イグニスなのか!? どうしたんだその格好は! お前が普通の服を着ているなど、天地がひっくり返ったのか!?」

「うるさい! たまには人間の文化に触れてやろうと思っただけだ!」

「いや……正直、驚いたが……とても似合っている。クロエが選んだのか?」

 レオンハルト様が真っ直ぐに褒めると、イグニス様は「ふんっ」と顔を背けてしまった。しかし、その耳の先は少しだけ赤い。

 私とレオンハルト様は顔を見合わせ、思わずクスッと笑ってしまった。

 秋の涼しい風が吹き抜ける、辺境都市シュヴァルツの穏やかな午後。

 龍魔呂さんの一言から始まった、イグニス様の小さなお着替えイベントは、私たちにとても温かい笑顔をもたらしてくれた。

 ――しかし。

 この時の私たちは、まだ誰も気づいていなかったのだ。

 私たちの足元に、忍び寄る『黒い影』の存在に。

 街の裏通りで、一人の老婆が苦しそうに胸を押さえ、その肌に不気味な『黒い斑点』を浮かべて倒れ伏していることに。

 平和な日常は、唐突に終わりを告げる。

 愛する男の覚悟と、天才錬金術師の『狂気』が目覚める、最も過酷で、最も熱い戦い(錬金)の日々が、すぐそこまで迫っていたのである。

【作者より】

第三章、いよいよ開幕です!

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

第三章のスタートは、ポポロ村から野菜を届けに来た龍魔呂アニキの「爆弾発言」から始まりました(笑)。

「せっかくの美人が台無し」と真っ直ぐに言われ、動揺して乙女になってしまう最強の神獣・イグニスお姉様。そして、間髪入れずに連行するクロエ!

シスターフッド全開のショッピング回、いかがでしたでしょうか。

いつもの真紅のドレスも素敵ですが、シックな大人の服を着こなすお姉様、間違いなく眼福ですね。

しかし、ラストには不穏な気配が……。

次回。

辺境を襲う、未知の奇病『黒死灰』。

最強の武力でも解決できない絶望的な脅威を前に、クロエたちはどう立ち向かうのか!?

「お姉様可愛すぎる!」「龍魔呂の漢前な指摘最高!」「平和な日常がずっと続いてほしいけど……続きが気になる!」と思っていただけましたら!

ぜひぜひ! 画面下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して、【★★★★★】で応援の評価をよろしくお願いいたします!

皆様の星とブックマークが、第三章の熱いドラマを書き上げるための最大の原動力になります! どうか、応援のほどよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ