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無能と追放された錬金令嬢、最強神獣(お姉様)に拾われる。辺境で工房を開いたら、冷血なはずの竜騎士様が毎日通ってくるのですが?  作者: 月神世一


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王都の絶望。特級ポーション(偽)の公開審査に、最強の助っ人たちを連れて堂々凱旋いたします!

王都の絶望。特級ポーション(偽)の公開審査に、最強の助っ人たちを連れて堂々凱旋いたします!

 王城の中心に位置する、白亜のドーム型の大広間。

 国の中枢を担う高位貴族たちと、王族が居並ぶその荘厳な空間は、現在、ひどく重苦しく、そして異臭に満ちた空気に包まれていた。

「……アルジェント伯爵。余は今、ひどく落胆している」

 玉座に腰掛ける第一王子、ユリウス殿下が、扇で鼻を覆いながら氷のような声を出した。

 彼の視線の先には、大理石の床に這いつくばり、滝のような冷や汗を流す私の父親――アルジェント伯爵と、義母、そして義妹のミレーヌの姿があった。

「毎月、我が王家に献上されていた『特級ポーション』。どんな傷も瞬時に塞ぐその奇跡の秘薬を、ミレーヌが一人で作っていると申したな。だが……今日、この公開審査の場に持ち込まれたこれは、一体なんだ?」

 ユリウス殿下の前に置かれたクリスタルの台座。

 そこに飾られているフラスコの中身は、かつての眩い黄金色の液体ではない。ドロドロに濁り、沼の底のような悪臭を放つ、緑色の泥水だった。

「お、恐れながら殿下……ッ! これは、我々を妬む政敵が、薬草の仕入れルートに細工をした結果でありまして……っ!」

「そうですわ! 私の錬金術は完璧ですのに、道具や素材が呪われていたのです! 私は悪くありませんわ!」

 見苦しい言い訳を喚き散らす父親とミレーヌに、周囲の貴族たちから冷ややかな侮蔑の視線が突き刺さる。

「見苦しいぞ、アルジェント伯爵。素材が悪い程度で、特級が泥水に落ちるはずがなかろう」

「ええ。そもそも、あのような小娘が一人で特級ポーションを作っていたこと自体、怪しいと噂されておりましたからね」

 ヒソヒソと囁かれる嘲笑に、父親の顔が屈辱と絶望で土気色に染まっていく。

 ユリウス殿下が、冷酷に言い放った。

「もはや弁解は聞かん。我が王家を欺いた罪は万死に値する。ミレーヌとの婚約は白紙撤回。そしてアルジェント伯爵家には、国家反逆および詐欺の罪で、爵位剥奪の――」

 ――バァァァァァァンッ!!!

 ユリウス殿下が決定的な判決を下そうとした、まさにその瞬間。

 大広間の重厚な両開きの扉が、何者かによって吹き飛ばされるかのような勢いで蹴り開けられた。

「な、なんだッ!?」

「衛兵! 曲者だ、出会えェッ!!」

 パニックに陥る貴族たち。

 しかし、扉を守っていた屈強な近衛兵たちは、開け放たれた扉の向こうから放たれる『常軌を逸したプレッシャー』に当てられ、誰一人として武器を抜くことすらできず、彫像のように固まっていた。

「……素材や道具のせいではありませんよ、ミレーヌ」

 静まり返った大広間に、私の声が凛と響き渡った。

「あなたの錬金術の基礎知識が、あまりにも決定的に不足しているからです」

 コツ、コツ、と。

 私は大理石の床を踏み鳴らし、大広間の中へと堂々と足を踏み入れた。

「ク、クロエ……!?」

 這いつくばっていた父親が、信じられないものを見るように目を見開いた。

 今日の私は、かつて実家で着せられていたボロ布のようなメイド服ではない。イグニス様とレオンハルト様が「王城に行くなら、最高の装いで殴り込むぞ」と用意してくれた、夜空の星屑を散りばめたような深いブルーの最高級ドレスを身に纏っている。

 銀色の髪は美しく結い上げられ、首元には辺境伯家が用意した魔力増幅の宝石が輝いていた。

「お前……なぜ生きている!? 無一文で魔の森へ放り出されたはず……それに、雇ったギルドの奴らはどうしたッ!?」

「お父様。暗殺者を雇ってまで私を連れ戻そうとしたようですが……残念ながら、あなたの放った刺客は、一人残らず『塵』と『氷』になって消え去りました」

 私が冷たく言い放つと、父親はひぃっと息を呑んだ。

「貴様ァ! 王城の御前会議に無断で踏み込むなど、何たる無礼! 衛兵、その薄汚い無能を捕らえろッ!」

 ユリウス殿下が激昂して叫ぶ。

 だが、彼らが私に指一本触れることなど、絶対に不可能だ。

 なぜなら私の背後には、世界を滅ぼしかねない【最強の三極】が、完璧なボディガードとして控えているのだから。

「……俺の専属錬金術師に、随分な口を利いてくれるな、王太子殿下」

 私の右側から、絶対零度の冷気を纏った漆黒の騎士が進み出た。

 王城での謁見に相応しい、シュヴァルツ辺境伯家の最高礼装に身を包んだレオンハルト様だ。彼が氷のようなブルーの瞳で睨み据えると、ユリウス殿下は「ひゅっ」と喉を引き攣らせて言葉を失った。

「辺境伯……レオンハルト・フォン・シュヴァルツだと!? なぜ北の防衛の要である貴様が、そんな無能の娘の背後に……っ!」

「無能だと? 笑わせるな」

 私の左側からは、真紅のドレスを翻し、黄金の瞳をギラつかせた絶世の美女――イグニス様が鼻で笑った。

「この娘は、私のような最上位の竜の呪いすら解き放つ、至高の天才錬金術師だ。貴様らのような節穴のゴミクズどもとは、見えている世界が違うのだよ」

「なっ……りゅ、竜だと!?」

 そして。

 私の真後ろから、ドス黒いオーラを漂わせながら、最後の一人が姿を現した。

 ――カチッ……ジ、ボッ。

 静寂の広間に、オイルライターの冷たい着火音が響く。

 仕立てのいい黒のブラックスーツをラフに着崩し、首元からはチラリと太い銀のネックレスを覗かせている。腕には鈍く光るチューダーの時計。そして手には、鉄板入りのペッタンコの革鞄。

 ヤンキー農家、改め。

 完全に王都へカチコミに来た極道の若頭モードの、鬼神龍魔呂さんだ。

「……おい、お坊ちゃんよ」

 龍魔呂さんが、紫煙を吐き出しながらユリウス殿下と父親をギロリと睨み下ろす。

 彼から放たれる赤黒い闘気は、王城の堅牢な壁すらも震わせるほどのすさまじい殺気を孕んでいた。

「てめぇら、自分の都合で娘をゴミみたいに捨てた挙句、ポーションが作れなくなったら暗殺者使って連れ戻そうとしたらしいな。……俺は『カタギ』には手を出さねぇ主義だが、てめぇらみたいな腐った『外道』は別だ。一歩でも嬢ちゃんに近づいてみろ。その首から上、物理的に消し飛ばしてやるよ」

 圧倒的すぎる暴力の化身たちの登場に、広間の貴族たちは恐怖のあまり腰を抜かし、ある者は気絶して泡を吹いていた。

「ひぃぃっ……! バ、バケモノ……っ!」

「お父様ぁっ! 助けて、殺されますわぁっ!」

 ミレーヌが父親にすがりついて泣き叫ぶ。

 私は彼らの惨めな姿を見下ろし、ゆっくりと深呼吸をした。

 もう、この人たちに怯える必要はない。私は、私の言葉で、彼らの嘘を暴く。

「ミレーヌ。特級ポーションのベースとなる『月光草』は、抽出温度を八十度以上にすれば魔力成分が変質し、泥のように濁ります。あなたは魔力に頼りすぎて、薬草の温度管理という錬金術の基本中の基本すら怠ったのでしょう」

「な、何を……っ! 魔力のない無能なあなたが、知ったような口を叩かないで!」

「知ったような口ではありません。なぜなら、これまで王家に献上されていた特級ポーションはすべて――地下室で、私が作っていたものなのですから」

 広間が、水を打ったように静まり返った。

「馬鹿な……! 魔力ゼロの無能が、特級ポーションを作れるはずがない!」

「ユリウス殿下。信じられないのであれば、今ここで証明してみせます」

 私はエプロンのポケット……ではなく、今日はドレスなので、レオンハルト様が持ってくれていた鞄の中から、ポポロ村で龍魔呂さんから譲り受けた『UR月見大根』の葉っぱと、普通の薬草を取り出した。

 フラスコの中に水を入れ、薬草を指先で丁寧にすり潰しながら混ぜ合わせる。

「私の力は、魔力ではありません。素材の持つポテンシャルを限界まで引き出し、昇華させる力。……私自身の努力と、技術の結晶です」

 祈るように、フラスコを両手で包み込む。

 ――カッ!!

 私の手元から、真昼の太陽すら霞むほどの、強烈な黄金の光が溢れ出した。

 光が収まった後、フラスコの中には、ミレーヌが作った泥水などとは比べ物にならない……星屑を溶かしたような、眩く輝く究極の霊薬エリクサーが完成していた。

「な……なんだ、その尋常ではない光は!?」

「凄まじい生命力のオーラだ! 過去に献上されていた特級ポーションすら凌駕しているぞ!」

 貴族たちが驚愕の声を上げ、ユリウス殿下は目を見開いてワナワナと震えている。

「クロエ……お前が、お前が本物の天才だったというのか……!? ならば余は、本物の宝石を捨てて、このような泥水しか作れぬ石ころを婚約者に選んでいたと……ッ!?」

「い、嫌ぁぁぁぁっ! 私は天才よ! 私が王妃になるのよぉぉぉっ!!」

 ミレーヌが発狂したように床を掻きむしり、父親は「あ、あぁ……終わった……アルジェント家は、終わりだ……」と白目を剥いて完全に崩れ落ちた。

「お分かりいただけましたか、ユリウス殿下。……私はもう、二度とアルジェント家には戻りません。私の居場所は、私を信じ、私を必要としてくれる人たちの隣にあります」

 私は、レオンハルト様とイグニス様、そして龍魔呂さんを振り返り、心からの笑顔を向けた。

「クロエ。お前はもう誰にも縛られない。自由だ」

「ああ。君の才能と心は、俺たちが一生かけて守り抜く」

 イグニス様が優しく私の頭を撫で、レオンハルト様が力強く頷く。

 龍魔呂さんも、タバコをふかしながら「へっ、よく言ったぜ嬢ちゃん」と白い歯を見せて笑った。

 私を虐げていた家族は、王家を欺いた大罪で投獄され、文字通りすべてを失うことになった。

 彼らが最後に見たのは、無能だと見下していた私が、最強の仲間たちに守られながら、王城の扉の向こうの光の中へと歩み去っていく、眩しすぎる姿だった。

 追放された無自覚チート錬金術師の、過去との決別。

 ここから先は、私を本当に大切にしてくれる人たちと歩む、新しくて、ちょっと賑やかすぎる辺境スローライフの始まりだ!

読んでいただきありがとうございます。

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