絶花! 鬼神と氷の死神による蹂躙劇。――外道どもには、一ミリの慈悲も与えません
絶花! 鬼神と氷の死神による蹂躙劇。――外道どもには、一ミリの慈悲も与えません
――カチッ……ジ、ボッ。
静寂に包まれた畑に、オイルライターの着火音が響いた。
それは、異世界のヤンキー農家・鬼神龍魔呂が下した、外道どもへの明確な【処刑の合図】だった。
「ひぃっ……!?」
龍魔呂さんの足元から噴き上がる、空を焦がすほどの赤黒い闘気。
あまりのプレッシャーに、月見大根を踏みにじった暗殺者が腰を抜かし、尻餅をつく。
「な、なんだこの異常な威圧感は……!? たかが農民ふぜいが、ハッタリをかますな! やっちまえ!!」
恐怖を振り払うように、暗殺者のリーダーが叫んだ。
数人の黒装束が一斉に短剣を抜き放ち、龍魔呂さんへと飛びかかる。
「死ねやぁっ!!」
だが。龍魔呂さんはタバコをふかしたまま、一歩も動かない。
彼はただ、ゆっくりと右の拳を握り込んだ。
「……てめぇらの薄汚ぇ足で、土を汚すな」
龍魔呂さんが、右ストレートを放つ。
――『絶花』。
その瞬間、私の視界から『色』が消えた。
世界が白と黒のモノクロームに反転し、音すらも遠ざかる。
唯一、色彩を保っていたのは……龍魔呂さんの右拳から放たれた、赤黒い闘気の奔流だけだった。
それはまるで、夜の闇に咲き誇る巨大な『彼岸花』のように、飛びかかってきた暗殺者たちを美しく、そして残酷に包み込んだ。
「あ、が……っ!?」
悲鳴を上げる間すらなかった。
赤黒い花弁に触れた暗殺者たちの身体が、武器ごと、鎧ごと、分子レベルでサラサラと崩れ落ち……文字通り『塵』となって風に消え去ったのだ。
「――――は?」
残された暗殺者たちが、完全に理解を拒絶した顔で固まる。
血の一滴すら残らない、圧倒的すぎる完全消滅。
「バ、バケモノだ……! あいつは人間じゃねぇ! 標的を変えろ! あの銀髪の女を盾にしろォォッ!!」
パニックに陥ったリーダーが、半狂乱で私を指差した。
生き残った十数人の暗殺者たちが、血走った目で私へと殺到してくる。
「……ほう」
その時。私の前に立つ、漆黒の背中から、地獄よりも冷たい声が響いた。
「俺の目の前で。俺の愛する専属錬金術師を盾にするなどと……貴様ら、よくもその薄汚い口でほざいたな」
氷の死神、レオンハルト・フォン・シュヴァルツ。
彼が漆黒の大剣を抜いた瞬間、ポポロ村の気温が急激に低下し、大気中の水分が凍りついてダイヤモンドダストのようにキラキラと舞い散った。
「その愚かさに免じて、痛みを感じる暇も与えずに砕いてやろう」
――『永久氷結』。
レオンハルト様が剣を一閃する。
放たれた絶対零度の斬撃波は、私に向かってきていた暗殺者たちの足元から頭の先までを、コンマ一秒で完全に凍結させた。
ピキィィィンッ!という硬質な音と共に、十数人の暗殺者たちが、振り上げた剣の姿勢のまま『氷の彫刻』へと変貌する。
「ヒッ……!? に、逃げろ! こんな連中、勝てるわけがねぇッ!!」
リーダーの男が絶望の悲鳴を上げ、踵を返して森へと逃げ込もうとした。
だが、その退路はすでに、紅蓮の炎の壁によって完璧に塞がれていた。
「逃げる? どこへ行くつもりだ、下等生物」
炎の中から、黄金の瞳をギラつかせたイグニス様が、優雅な足取りで姿を現す。
彼女の指先でチロチロと燃える炎が、リーダーの男の顔を真紅に照らし出した。
「我が可愛いクロエを怯えさせた罪は重いぞ。お前たちの魂を、この消えない炎で永遠に焼き焦がしてやろうか?」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!! お、お助けを! 命だけはぁぁぁっ!!」
暗殺者のリーダーは、ついに恐怖で失禁し、その場に土下座をして泣き叫んだ。
王都最悪と恐れられた暗殺部隊は、異世界のヤンキー農家、氷の死神、最強の火竜という【絶対に手を出してはいけない三極】を前に、開始からわずか一分足らずで完全制圧されたのである。
* * *
「……で? 誰の差し金だ。吐け」
龍魔呂さんが、土下座するリーダーの首ぐらをつかんで軽々と持ち上げた。
赤黒い闘気を至近距離で浴びせられ、リーダーの男はガチガチと歯を鳴らしながら、涙と鼻水まみれで喚き散らした。
「あ、アルジェント伯爵だ! 王都のアルジェント伯爵から、前金で金貨三百枚を積まれたんだ! あの銀髪の女を、心を折って生け捕りにして連れ帰れって……!」
アルジェント伯爵。私のお父様。
その名前が出た瞬間、レオンハルト様の全身から、先ほどの戦闘中とは比較にならないほどの、本気の殺気が噴き出した。
「クロエの、実家だと……? あの優しく可憐な彼女を無一文で魔の森へ追放したばかりか、今度は暗殺者を雇って、心を折って連れ戻そうとしたというのか……!」
ギリッ、とレオンハルト様が歯を食いしばる。
その殺気に当てられ、周囲の氷の彫刻にヒビが入り始めた。
「許さん。……絶対に、許さん! 軍を動かす。王都に進軍し、アルジェント伯爵家を今夜中に地図から消し去ってやる!!」
レオンハルト様が本気で大剣を握り直す。
龍魔呂さんも、忌々しそうに舌打ちをして、リーダーの男を地面に放り投げた。
「実の親が、自分の娘を道具扱いか。……吐き気がするぜ。いいだろう、騎士の兄ちゃん。俺も『創世のクワ』で、そのクソ貴族の屋敷ごと更地にしてやるよ」
氷の死神と、異世界のヤンキー農家。
最強の二人が、私のために本気で王都を滅ぼそうとしてくれている。
その気持ちは、本当に、痛いほど嬉しかった。
……けれど。
「待ってください、レオンハルト様、龍魔呂さん」
私は、レオンハルト様の前に立ち、その震える大きな手を、両手でそっと包み込んだ。
「クロエ……? 止めるな。奴らは君を傷つけ、この村を毒で満たそうとした外道だ。生かしておく理由はどこにもない!」
「はい。彼らのやったことは、絶対に許されません」
私は、真っ直ぐにレオンハルト様のブルーの瞳を見つめ返した。
「でも、武力で屋敷を壊せば、レオンハルト様が王家から反逆罪に問われてしまいます。ポポロ村の皆さんにも迷惑がかかる。……私の過去の因縁で、今ある私の『大切な居場所』を壊したくないんです」
「っ……」
「それに……私は錬金術師です。彼らは錬金術の力を悪用し、嘘で塗り固められた地位を守るために私を欲しがっている。なら、私が錬金術で、彼らの嘘を暴き、完膚なきまでにへし折らなければ、本当の決着にはなりません」
逃げない。もう、怯えない。
私が地下室で積み上げてきた努力と、このチート級の錬金術の力。
それを今こそ、私を縛り付けていた過去を完全に断ち切るための『剣』として使う時だ。
「私が、王都に行きます。そして……アルジェント家の鼻を、私が直接明かしてみせます」
凛とした声で宣言した私を見て、レオンハルト様は目を見開き、やがてフッと優しく微笑んだ。
「……君は、強いな。俺が守るまでもないくらいに」
「い、いえ! 一人じゃ絶対に無理です! だから……レオンハルト様、イグニス様。どうか、私と一緒に王都へ来てくれませんか?」
私がお願いすると、レオンハルト様は私の手の甲に敬愛のキスを落とし、イグニス様は誇らしげに腕を組んで頷いた。
「当然だ。私の妹の晴れ舞台、特等席で見届けてやろう」
「俺の剣と権力は、すべて君のためにある。存分にやってやれ、クロエ」
二人の心強い言葉に、私は深く頷いた。
「へっ」
その時、後ろでタバコをふかしていた龍魔呂さんが、ニヤリと笑って歩み寄ってきた。
「嬢ちゃん、いいツラ構えになったじゃねぇか。さっきまでのビクビクしてた小動物とは大違いだ」
「龍魔呂さん……。その、畑を騒がせてしまって、ごめんなさい」
「気にするな。……と言いてぇところだが、俺の月見大根を踏みにじったクソ野郎の親玉には、俺も一発ぶん殴らねぇと気が済まねぇ」
龍魔呂さんが、拳をボキボキと鳴らす。
「俺も王都について行ってやる。嬢ちゃんの錬金術で論破したあとの、トドメの『物理的更地化』は、俺とこの兄ちゃんに任せな」
「龍魔呂さんまで!? あ、ありがとうございます……!」
これ以上ないほど心強く、そして相手からすれば悪夢以外の何物でもない最強の布陣が完成してしまった。
私、クロエ・アルジェント。
無能だと追放された錬金術師は、最高の仲間たちと共に、いよいよ王都への帰還を果たす。
特級ポーションの納品に追い詰められた実家が、どんな絶望的な顔をするのか。……少しだけ、楽しみになってきた。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




