農業×錬金術の超絶化学反応! ――ヤンキー農家と作る『神話級・野菜たっぷり豚汁』で胃袋を掴まれました
農業×錬金術の超絶化学反応! ――ヤンキー農家と作る『神話級・野菜たっぷり豚汁』で胃袋を掴まれました
龍魔呂さんの畑の脇には、彼がDIYで建てたという立派な木造の作業小屋兼、野外キッチンがあった。
トトトトトトトッ!
まな板の上で、小気味良いリズミカルな包丁の音が響く。
「……信じられん。あの巨体と太い指で、あれほど繊細で完璧な包丁さばきをするとは」
丸太の椅子に座りながら、レオンハルト様が驚愕の声を漏らした。
エプロン姿(首にはヤンキー風のタオル)の龍魔呂さんが、先ほど畑で採ってきたばかりの『月見大根』や『太陽芋』、それに太いネギなどを、目にも留まらぬ速さで美しい千切りやいちょう切りにしていく。
無駄のないその動きは、一流の料理人か、あるいは剣の達人を思わせるほど研ぎ澄まされていた。
「へっ、土いじりと同じだ。野菜に敬意を払い、一番美味くなる切り方をしてやるのが、育てた農家の『仁義』ってもんだ」
龍魔呂さんはニヤリと笑い、大鍋に湯を沸かし始めた。
中には、彼が狩ってきたという『シープピッグ』の極上の豚肉が、出汁を取るために放り込まれている。
「すごい……! 野菜がキラキラしてます!」
私は切り分けられた野菜を見て、目を輝かせた。
龍魔呂さんが『UR農具』で育てた野菜たちは、ただでさえ魔力と生命力に満ち溢れているのに、彼の完璧な下処理によってそのポテンシャルが120%引き出されているのが、錬金術師の私にははっきりと分かった。
「あの、龍魔呂さん! 私もお手伝いさせてください! 錬金術師として、最高の調味料とスパイスを持ってきたんです!」
「お? いいぜ嬢ちゃん。俺の野菜とお前の錬金術で、どんだけ美味いもんができるか試してみようや」
私は嬉しくなって、持参した調味料の小瓶をいくつも取り出した。
私が自作した『特製味噌』に、疲労を回復させる『陽薬草の粉末』、そして香りを引き立てる数種類のハーブをブレンドしたものだ。
ぐつぐつと煮え立つ大鍋の中に、龍魔呂さんが野菜を豪快に放り込む。
それに合わせて、私が調味料とスパイスを加え、錬金術の知識を応用して、素材の旨味が一番引き出されるタイミングで大きなお玉をぐるぐると回した。
(美味しくなぁれ、美味しくなぁれ……!)
全員の疲れが吹き飛ぶような、最高の豚汁になりますように。
私が心を込めてお玉を回した、その瞬間だった。
――ぽわぁぁぁぁぁぁん……ッ!!
「な、なんだぁ!?」
龍魔呂さんが、驚いてタバコを落としそうになった。
大鍋の中から、まるで真昼の太陽のような強烈な黄金の光が噴き上がり、野外キッチン全体を眩く照らし出したのだ。
「またやったなクロエ……。相変わらずの出鱈目なオーラだ」
イグニス様が目を細めながら、しかしその口元からはすでにヨダレが垂れそうになっている。
光が収まると、大鍋の中には、ただの豚汁とは到底思えない、神々しいまでの香りと輝きを放つスープが完成していた。
龍魔呂さんの『UR野菜』の極限の生命力と、私の『万物昇華』による限界突破。
二つの規格外の力が混ざり合った結果、誕生してしまったのは――食べた者の傷や病を完全に癒やし、基礎ステータスを恒久的に引き上げる『神話級・豊穣の豚汁』だった。
「……嬢ちゃん、お前、ただの錬金術師じゃねぇな? なんだこの汁から漂う、トンデモねぇ生命力のオーラは」
「えへへ、ちょっと気合いを入れて混ぜてみました! さあ皆さん、冷めないうちにどうぞ!」
私は大きな木のお椀にたっぷりと豚汁をよそい、皆に手渡した。
「では、遠慮なく……」
レオンハルト様が、木のスプーンでスープを一口すする。
その瞬間、彼のブルーの瞳がカッと見開かれた。
「っ……!! な、なんだこれは……ッ!?」
氷の死神と呼ばれた最強騎士の身体が、小刻みに震え始める。
大根と太陽芋から溶け出した圧倒的な甘み。シープピッグの肉の暴力的なまでの旨味。そして、それを完璧にまとめ上げる私の特製味噌とスパイスの香り。
それらが口の中で爆発し、熱い奔流となって五臓六腑へと染み渡っていく。
「美味い……! あまりにも美味すぎる!! 一口飲むごとに、戦場の最前線で張り詰めていた心の疲れが……雪解けのように溶けていく……!」
レオンハルト様は、両手でお椀を包み込み、まるで失われた故郷の味を懐かしむような、今まで見たこともないほど穏やかで幸せそうな顔で豚汁を飲み干した。
「おかわりだ! 大鍋ごとよこせクロエ!」
「あ、イグニス様! 独り占めはダメですよ!」
真紅のドレスを汚すのも構わず、イグニス様が豪快に豚汁をかき込んでいる。
「へへっ……」
それを見ていた龍魔呂さんが、ポケットから角砂糖を取り出してボリッと噛み砕き、満足げに笑った。
「自分で作った野菜が美味そうに食われてるのを見るのは、農家にとって一番の喜びだ。……嬢ちゃん、お前の腕、本物だな。俺の野菜が、こんなに化けるとは思わなかったぜ」
「龍魔呂さんの作ったお野菜が素晴らしいからです! こんなに美味しい野菜、王都の貴族だって絶対に食べたことありませんよ!」
私がお椀を抱えてニコニコしていると、龍魔呂さんは優しく私の頭をポンポンと撫でてくれた。
大きな手。ヤンキー総長のような怖い見た目なのに、その手はとても温かくて、土の匂いがした。
「……龍魔呂、と言ったな」
ふいに、レオンハルト様がお椀を置き、真剣な顔で龍魔呂さんに向き直った。
「お前ほどの腕と力があるなら、もっと権力者に高く野菜を売ることも、あるいは軍の重役として仕官することもできるだろう。なぜ、こんな辺境の緩衝地帯で、一人で土をいじっている?」
騎士としての真っ直ぐな問いかけ。
龍魔呂さんは少しだけ目を伏せ、オイルライターをカチリと鳴らして新しいタバコに火をつけた。
「俺はな、『カタギ』が笑って飯を食える世界が好きなんだよ」
「カタギ?」
「ああ。普通に働いて、普通に生きてる奴らのことだ。俺は元々、そういう連中を守るための『愚連隊』の頭を張っててな。……だが、上の奴らや権力者ってのは、すぐにそういう弱い奴らの畑や食い物を踏みにじろうとする」
龍魔呂さんの口から吐き出された紫煙が、夕闇に溶けていく。
彼の眼光が、再び極道のような鋭いものへと変わった。
「食い物は命だ。それを粗末にする奴や、他人の畑を荒らすような『外道』は、俺が絶対に許さねぇ。……だから俺は、しがらみのねぇこの場所で、自分で命を育てて、本当に食ってほしい奴にだけ飯を振る舞ってるのさ」
食い物は命。外道は許さない。
彼の口にした『鬼の龍儀』は、不器用だけれど、とても真っ直ぐで、力強いものだった。
「……そうか。お前の信念、確かに受け取った」
レオンハルト様が、深く頷いた。
「俺も、この辺境の民を守る盾としての誇りがある。戦う場所は違えど、お前が『守る』ためにそのクワを振るうというのなら……俺はお前を、一人の漢として信頼しよう」
「へっ。堅苦しいお坊ちゃんだが、悪い奴じゃねぇな」
氷の死神と、異世界のヤンキー農家。
最初はバチバチだった二人が、一杯の豚汁を通じて、不思議な絆で結ばれた瞬間だった。
(……ふふっ。美味しいご飯は、みんなを仲良しにしてくれるんだね)
私は、すっかり空になった大鍋を見て、幸せな気持ちでいっぱいになった。
新しい素材の確保。そして、龍魔呂さんという最高のお友達(?)との出会い。
今日のポポロ村へのお出かけは、大成功だ。
――しかし。
私たちの和やかな笑い声が響く中、空にはいつの間にか、禍々しく赤い『満月』が昇り始めていた。
「……ん?」
ふと、龍魔呂さんがタバコを指で弾き、村の入り口の方へと鋭い視線を向けた。
ほぼ同時に、レオンハルト様が立ち上がり、イグニス様が鼻をヒクつかせる。
「どうしたんですか、皆さん?」
「……血の匂いだ。それも、ひどく淀んだ腐臭」
レオンハルト様が、漆黒の剣の柄に手をかけた。
「何者かが、多数でポポロ村を包囲しつつある。……ただの盗賊ではない。熟練の『暗殺者』の気配だ」
暗殺者。
その言葉に、私の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
なぜ、この絶対緩衝地帯の村に、そんな恐ろしい集団が?
……私はまだ気づいていなかった。
その暗殺者たちを差し向けたのが、他でもない、私を追い出した王都の実家(アルジェント伯爵家)であることを。
そして、この時。
暗殺者たちがポポロ村の畑に『猛毒』を撒き散らすという暴挙に出たことで、彼らが【絶対に怒らせてはいけない男】の逆鱗に触れてしまったことを。
平和なスローライフは一時中断。
血塗られた暗殺者たちに対する、農家と騎士と竜による『完全無欠のオーバーキル(ざまぁ)』の幕が、静かに開こうとしていたのである。
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