無自覚チート錬金術師、空から戦場を支援する。――ただの粉が、騎士たちの剣を『聖剣』に変えてしまったようです
無自覚チート錬金術師、空から戦場を支援する。――ただの粉が、騎士たちの剣を『聖剣』に変えてしまったようです
キラキラ、キラキラと。
空から私がばら撒いた『星屑の霊粉』は、戦場を吹き荒れる風に乗って、防衛線で戦う黒竜騎士団の皆様の頭上へと正確に降り注いでいった。
それはまるで、暗く淀んだ血と泥の戦場を浄化する、黄金の雪のようだった。
粉末がレオンハルト様や騎士たちの鎧に、肌に、そして刃こぼれした武器に触れた、その瞬間。
――カァァァァァァァッ!!
戦場のあちこちで、真昼の太陽すら霞むほどの、極大の光の柱が天に向かって噴き上がった。
「なっ……なんだ、これは!?」
光の中心にいた若手騎士が、自らの両手を見つめて驚愕の声を上げた。
オークの棍棒を喰らい、折れていたはずの左腕が、一瞬にして繋がっている。それだけではない。限界を迎えて底を突いていたはずの魔力が、体内からマグマのようにドクドクと湧き上がり、全身から黄金のオーラとなって目に見える形で立ち昇っていたのだ。
「体が……羽のように軽い! それに、魔力が……無限に溢れてくるような感覚だ……ッ!」
「おい、それだけじゃないぞ! 俺の剣を見てみろ!!」
別の騎士が叫びながら掲げたのは、先ほどまで刃こぼれしてボロボロだったはずの『鉄の剣』だった。
しかし、星屑の霊粉を浴びたその剣は、サビも刃こぼれも完全に消え去り、刀身が透き通るような青白い光を放っている。まるで、伝説の『ミスリル』か『オリハルコン』で打ち直されたかのように。
「剣が……俺の魔力に呼応して、勝手に光り輝いている!? これじゃあまるで、おとぎ話に出てくる『聖剣』じゃないか!」
私の無自覚チート【万物昇華】の力は、ポーションや食材だけに留まらない。
対象のポテンシャルを強制的に限界突破させるその力は、私が精製した霊粉を介して、騎士たちの肉体のみならず、彼らが握る『武器』の理すらも昇華させてしまったのである。
「グガァァァァッ!!」
騎士たちが呆然としている隙を突き、巨大なオーガが太い丸太を振り下ろしてきた。
普段なら数人がかりで盾を構えて防ぐ一撃だ。しかし、聖剣と化した剣を握った騎士の一人が、無意識にそれを片手で振り払った。
――ズバァァァァッ!!
「えっ」
騎士が小さく剣を振っただけ。
ただそれだけで、剣先から放たれた黄金の斬撃が、十メートル先のオーガの巨体を、丸太ごと真っ二つに両断してしまった。
いや、それどころか、その後方にいた数十匹のゴブリンの群れすらも、余波の真空刃でまとめて吹き飛ばしてしまったのだ。
「…………ええええええええええっ!?」
斬った騎士本人が一番驚き、目玉が飛び出そうな顔で叫んだ。
「お、俺、ただ軽く振っただけだぞ!? なんだこのデタラメな威力は!?」
「クロエ様の粉だ……! 女神クロエ様が空から蒔いてくださった粉のおかげだッ!」
「うおおおおおっ! 女神様の加護があらんことを!!」
「全軍、反撃開始ィィィッ!! 一体たりとも逃すなァァァッ!!」
ただでさえお弁当効果で士気が高かった黒竜騎士団が、全員『聖剣』を手にしたことで、もはや手のつけられない狂戦士の集団と化してしまった。
五千の魔物の群れに向かって、たった五十人の騎士たちが、凄まじい咆哮を上げながら逆突撃を開始する。
彼らが剣を振るうたびに極大の斬撃が飛び交い、魔物たちは悲鳴を上げる間もなく、紙屑のように次々と薙ぎ払われていった。
* * *
一方、防衛線の最前線。
三体もの巨大なアース・ドラゴンに囲まれ、苦戦を強いられていたレオンハルト様もまた、全身から凄まじい冷気と黄金のオーラを立ち昇らせていた。
「クロエ……君という女性は、本当に……」
彼は上空にいる私を見上げ、呆れたように、しかし心の底から愛おしそうに微笑んだ。
レオンハルト様が握る漆黒の大剣もまた、霊粉の力で限界突破を果たし、刀身から絶対零度の吹雪を巻き起こしている。
「これほどの力を与えてもらったのだ。不甲斐ない姿は、もう見せられないな」
レオンハルト様が、漆黒の大剣を上段に構える。
その瞬間、周囲の大気が急激に冷え込み、彼を中心に無数の氷柱が空中に顕現した。
「グルァァァァッ!!」
危機を察知したアース・ドラゴン三体が、一斉に灼熱のブレスを吐き出そうと口を大きく開いた。
だが、レオンハルト様の剣が振り下ろされるほうが、圧倒的に速かった。
「――『永久氷結』」
静かな詠唱と共に、漆黒の大剣が大地を叩き割る。
その瞬間、大剣から放たれた極寒の斬撃波が、アース・ドラゴンの巨体はおろか、その背後に広がる数千の魔物の群れごと、広大な戦場を一瞬にして氷の彫刻へと変えてしまった。
「ピキィィィン……ッ!!」
時が止まったかのような静寂。
そして、直後に巨大な氷塊たちが音を立てて砕け散り、魔物の群れは光の粒子となって消滅していく。
「す、すごい……!!」
上空でイグニス様に抱き抱えられながら、私はその圧倒的な光景を見て、目をキラキラと輝かせた。
「レオンハルト様も騎士団の皆様も、すっごく強いです! あんなにすごい魔法剣が使えるなんて、やっぱり辺境伯の騎士団って別格なんですね!」
私が無邪気に拍手喝采を送ると、私を抱えるイグニス様が「はぁ」と特大の溜め息をついた。
「おい、無自覚娘。あれは辺境伯どもがすごいのではない。お前の撒いたあの粉のデタラメなバフ効果で、奴らの武器が神話級の聖剣に一時的に進化しているだけだ。……お前は自分がどれほど狂った錬金術を行っているか、少しは自覚しろ」
「えっ!? あ、あれ、私の粉のおかげなんですか!?」
「他に理由があるか。ただの害虫駆除の粉を『味方を強化し敵を滅ぼす神の粉』に昇華させるなど、創造神でもやらんぞ」
イグニス様が呆れ顔で言うけれど、私はホッと胸を撫で下ろしていた。
私の力が少しでも皆さんの役に立って、誰も死なずに済むのなら。それがどれだけ常識外れでも、私は構わない。
「やった……! これなら、魔物の群れを全部追い返せます!」
騎士たちの圧倒的な蹂躙によって、五千もいた魔物の群れはまたたく間に数を減らし、残存する魔物たちは恐怖に駆られて森の奥へと逃げ出そうとしていた。
戦況は完全に逆転した。誰の目にも、黒竜騎士団の圧倒的な勝利は目前だと思われた。
――しかし。
『……ォォォォォォォォォ…………』
突如、魔の森のさらに奥深くから、空気を震わせるような、不気味で底知れない咆哮が響き渡った。
「なっ……!?」
レオンハルト様が表情を険しくし、上空にいるイグニス様もまた、ピクリと眉をひそめて森の奥を睨みつけた。
「イグニス様? 今の声は……」
「……チッ。ただのスタンピードではないとは思っていたが。まさか、群れの裏で『アレ』を操っていた奴がいるとはな」
森の奥から現れたのは、これまでの魔物とは明らかに異質の存在だった。
巨大な蠍と竜が融合したような、禍々しい姿をした黒紫色の異形。その身体からは、濃密な死の瘴気と、猛毒の紫色の煙が絶え間なく噴き出している。
「変異種の『毒魔竜』か……!」
地上でレオンハルト様が声を張り上げる。
通常の魔物ではない。悪意を持って生み出された、殺戮のための変異種。
「総員、退がれ! あの毒の霧には、クロエのバフでも耐えきれん! 俺がやる!!」
レオンハルト様は自らの騎士たちを後退させ、単身で毒魔竜へと向かっていく。
だが、彼が踏み込んだその瞬間。毒魔竜の尻尾から放たれた極太の『毒の針』が、レオンハルト様の漆黒の鎧を掠め、その頬に赤黒い傷を刻み込んだ。
「くっ……!?」
わずかな掠り傷。
しかし、レオンハルト様の顔色が瞬時に蒼白になり、彼がその場に膝をついた。
「レオンハルト様ッ!!」
私の悲鳴が、戦場の空に響き渡る。
圧倒的な優位から一転。最悪のボスクラス魔物の出現により、私の大切な人は、絶体絶命の危機に陥ってしまったのである。
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