一口で全回復!? 限界突破した騎士たちの狂喜乱舞と、女神誕生の瞬間
一口で全回復!? 限界突破した騎士たちの狂喜乱舞と、女神誕生の瞬間
黄金に光り輝くステーキとガーリックライスを口に運んだ、若い騎士。
彼がそれを咀嚼し、ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ、その直後だった。
――カッ!!
若手騎士の全身から、凄まじいまでの黄金のオーラが火柱のように噴き上がったのだ。
「う、うおおおおおおおおっ!?」
目を見開き、スプーンを取り落とした若手騎士が、天を仰いで絶叫する。
あまりの事態に、周囲の騎士たちが慌てて彼を取り囲んだ。
「お、おい! 大丈夫か!? 急に叫び出して……」
「まさか、毒か!? 閣下に対する嫌がらせの毒入り弁当……」
「ち、違う……ッ! 違うんです!!」
若手騎士は、震える両手を見つめながら、ボロボロと涙を流し始めた。
「美味い……! なんだこれ、美味すぎる!! 舌の上でとろける極上の肉の旨味……! 噛むたびに溢れ出す肉汁と、食欲を暴走させる特製スパイスの香り……! オレは今まで、こんなに美味いものを食ったことがないッ!」
「あ、味の感想かよ!?」
ズッコケる騎士たちをよそに、若手騎士はさらに叫び続ける。
「それだけじゃない! 弁当を食べた瞬間、先ほどまでの全身の筋肉痛が完全に消え去った! すっからかんだった魔力が、泉のようにドクドクと湧き上がってくる! いや、元の限界値をあっさりと超えて……今なら、今なら俺、素手でアース・ドラゴンを投げ飛ばせる気がするゥゥッ!!」
若手騎士が大地をドンッ!と踏み鳴らすと、それだけで足元の地面がクレーターのように陥没した。
「なっ……!?」
「あいつ、ただの下級騎士だぞ!? あの踏み込みの威力、上位騎士クラスじゃねぇか!」
その光景を目の当たりにした他の騎士たちが、ゴクリと唾を飲み込む。
そして、一斉に手元の魔導コンテナから自分のお弁当箱を取り出し、猛然と食事を開始した。
「い、いただきますッ!」
「うめぇぇぇっ! なんだこのポトフ! 野菜の甘みと肉の出汁が五臓六腑に染み渡る……!」
「うおおおおっ! 力が、力が漲ってくるぞォォォッ!!」
ドバァァァァッ! カッ! ズオォォォッ!
次々と上がる歓声とともに、演習場のあちこちで黄金のオーラの火柱が打ち上がり始めた。
五十人の黒竜騎士団の全員が、私の無自覚チートが極限まで付与された『神話級のまかない飯』を胃袋に収め、疲労の完全回復どころか、基礎ステータスの「限界突破」を果たしてしまったのだ。
「お、母ちゃん……。俺、生きててよかった……」
「美味すぎる……。こんな美味い飯を食って、しかも一瞬で全回復するなんて……」
むさ苦しい大の大人たちが、空っぽになったお弁当箱を抱きしめながら、ポロポロと嬉し泣きをしている。
(よかったぁ……。皆さんの口に合ったみたい)
私がホッと胸を撫で下ろしていると、騎士の一人がふらふらと私のもとへ歩み寄り、なんと大理石の床に両膝をついて深く傅いた。
「クロエ様……! あなた様は、我ら黒竜騎士団を救うために天から舞い降りた女神様だ!」
「えっ!? め、女神!?」
「我々はずっと、閣下の常軌を逸した地獄のしごきで、毎日死線を彷徨っておりました……! だが、この至高のお弁当があれば! 我らは地獄の果てまで戦い抜くことができます!!」
その言葉を皮切りに、全回復して元気いっぱいになった騎士たちが、次々と私の前に膝をつき始めた。
「クロエ様! どうか、我らが女神として黒竜騎士団に降臨してください!」
「俺はあなた様のためなら、この命を盾にしてでも戦います!」
「クロエ様、万歳! 女神クロエ様、万歳!!」
「い、いやいやいや!? 私、ただの村の薬草を刻んでお弁当に入れただけですからぁっ!?」
私が必死に手を振って否定するも(※実際にはAランク魔物マッドブルの肉とチートスキルなのだが、本人は気づいていない)、興奮状態の騎士たちには届かない。
「おい、貴様ら」
そこへ、ピシャリと冷たい声が響いた。
見れば、腕を組んだレオンハルト様が、ものすごく不機嫌そうな顔をして立っている。
「クロエは『俺の』専属錬金術師だ。貴様らの女神ではない。……気安く近づいて、彼女を困らせるな」
「閣下! 閣下は毎日、このような素晴らしいお料理を食べておられるのですか! なんという職権乱用! ずるいですぞ!」
「やかましい! これは辺境伯である俺の特権だ!」
部下相手にムキになって言い返すレオンハルト様。独占欲を丸出しにして、私を背中に庇うように立ってくれている。
さらに、そのレオンハルト様を突き飛ばすようにして、イグニス様が前に出た。
「ふんっ。我が可愛いクロエに群がるハエどもめ。あまり調子に乗るようなら、私がまとめて焼き鳥にしてくれるわ!」
黄金の瞳をギラつかせ、最強の神獣としての威圧感を放つお姉様。
普通なら震え上がるほどのプレッシャーなのだが――今日の騎士団は一味違った。
なにせ、神話級のまかない飯によって、全員のステータスが限界突破してしまっているのだから。
「うおおおっ! 力が有り余って仕方がない! 動きたくてウズウズするぜ!」
「閣下! 午後の訓練を前倒しで始めましょう! 今の俺たちなら、閣下に一矢報いることができるはずだッ!」
「そうだ! クロエ様のお弁当の力、とくとご覧あれ!!」
血気盛んに木剣を構え、レオンハルト様に勝負を挑む騎士たち。
「……ふん。弁当のバフで少し力が上がったくらいで、この俺に勝てるつもりか? いいだろう、全員まとめてかかってこい!」
レオンハルト様も、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべて木剣を抜いた。
ドォォォォンッ!!
凄まじい衝撃音とともに、先ほどまでの疲労困憊が嘘のような、超ハイレベルな大乱戦の訓練が幕を開けた。
「すごい……。皆さん、あんなに疲れていたのに、すごく楽しそう」
私が安全な場所からその光景を見守っていると、イグニス様が呆れたようにため息をついた。
「単細胞な戦闘狂どもめ。……だが、クロエよ。お前の力は確かに、あの男たちの命を繋ぎ、活力を与えている。誇りに思うといい」
「はい……!」
自分が作ったもので、誰かが笑顔になり、元気になってくれる。
それは、錬金術師にとってこれ以上ないほどの喜びだった。
「無能」だと見下され、地下室で一人きりで作っていた時には決して味わえなかった、温かい感情。
(私……この街に来て、本当に良かった。イグニス様に出会えて、レオンハルト様に出会えて……本当に、良かった)
私は、土煙を上げながらレオンハルト様に向かっていく騎士たちを見つめ、満面の笑みを浮かべた。
私の居場所は、間違いなくここにあるのだと、そう確信できたから。
――しかし。
この平和で楽しい時間が、長くは続かないことを、私たちはまだ知らなかった。
「伝令! 伝令ェェェェッ!!」
突如、演習場の門を蹴破るようにして、一騎の早馬が血相を変えて駆け込んできた。
馬に乗った斥候の兵士は、肩で息をしながら、レオンハルト様の御前に転がり落ちるようにして膝をついた。
「何事だ!?」
レオンハルト様が木剣を下ろし、鋭い声で問いただす。
斥候の兵士は、恐怖に引き攣った顔で叫んだ。
「ほ、北の国境付近の『魔の森』より……多数の魔物の群れが接近中! その数、およそ五千! 『スタンピード』です!!」
「なんだと……!?」
その言葉に、演習場の空気が一瞬にして凍りついた。
スタンピード。魔物の大暴走。
それは、辺境都市シュヴァルツにとって、最も恐るべき天災であり……そして、私が錬金術師として初めて、本物の「戦場」と向き合うことになる事件の幕開けだった。
読んでいただきありがとうございます。
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