第23話 扉が開かない
写真立てに、光が届いているはずだった。
三月の朝の光が、路地の角度と建物の隙間を通って、店の窓まで届いているはずだった。
ガラスの面が輝いているはずだった。
像が飛んでいるはずだった。
外からは、確かめる方法がなかった。
* * *
その朝も、光があった。
空が晴れていた。
三月の朝日が、路地を斜めに照らしていた。
石畳の目地が、光の中でくっきりと見えた。
影が長かった。
扉の前に着いた。
木目が、光の中で浮き上がっていた。
長い年月が染み込んだだけの茶色が、光を受けて明るく見えた。
工事の音が届いた。
遠かった。
男は手をかけた。
扉を引いた。
動かなかった。
男は手を離した。
それだけのことだった。
もう一度引こうとする動作が、起きなかった。
確かめようとする動作も、起きなかった。
手が、扉から離れた。
一歩、後ろに引いた。
扉を見た。
光が当たっていた。
木目が浮き上がっていた。
いつもと同じ扉だった。
工事の音が、また届いた。
昨日より少し近かった。
男は来た道を戻った。
石畳の目地を踏みながら、歩いた。
光が路地を照らしていた。
影が男の足元で動いた。
商店街を出た。
角を曲がった。
別の路地に入った。
工事の音が、また耳に届いた。
今日は一日中、届き続けるかもしれなかった。
男は再び歩き出した。
* * *
写真立てには、光が届いていたかもしれなかった。
届いていたとしても、誰もそれを見なかった。
扉の木目が、光の中で浮き上がっていた。
引き戸の溝の砂が、積もったままだった。
工事の音が、遠くで届いていた。




