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冬麗(とうれい)の光射す喫茶店 ― ひと冬の奇跡 ―  作者: ちとせ鶫
第3章 ―― 深度・写真

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第14話 昼の店・二度目

 夕暮れ前の光が、写真立てに斜めに当たっていた。

 朝の光とはちがう角度だった。

 低く、赤みを帯びた光が、額縁の側面を照らしていた。

 ガラスの面には届いていなかった。

 像が見えた。

 女が少し下を向いていた。

 外からでも、わかった。


     * * *


 その日の夕暮れ前、男は別の用事で商店街を通った。


 二月の夕方だった。

 太陽が低かった。

 朝の低さとは別の低さだった。

 朝は東から斜めに来る。

 夕方は西から斜めに来る。

 どちらも影を長くする。

 でも光の色がちがった。

 夕方の光は赤みを帯びていた。

 石畳の目地が、赤みの中でくっきりと見えた。


 商店街に入った。


 惣菜屋のシャッターが上がっていた。

 夕方の買い物客が、軒先の野菜を手に取っていた。

 金物店の扉が開いていた。

 八百屋に人が並んでいた。

 昼間より人が多かった。


 男は歩いた。


 惣菜屋の前を通り過ぎた。

 金物店の前を通り過ぎた。


 扉の前に着いた。


 窓に明かりが灯っていた。

 黄みがかった、内側からの光だった。

 曇りガラスではなかった。

 今日は、窓のガラスが薄く透けていた。


 男は立ち止まった。


 窓越しに、店内が見えた。


 カウンターが見えた。

 木の表面が、窓からの夕光と内側の照明の両方を受けて、均質に光っていた。

 拭かれていた。

 光り方が、均質だった。

 どこも同じように光っていた。

 木の繊維の方向に沿って、丁寧に拭かれた痕跡だった。


 椅子が見えた。


 四脚、テーブルの前に並んでいた。

 整然としていた。

 全部、同じ向きを向いていた。

 全部、同じ間隔で並んでいた。

 誰かが、朝か昼か、椅子を一脚ずつ動かして、位置を揃えたはずだった。


 カップが見えた。


 棚の上に並んでいた。

 朝よりも多かった。

 形のちがうものが、重ならないように、取り出しやすいように、並んでいた。

 取っ手の向きが、全部同じだった。


 男はその並びを、しばらく見ていた。


 この店を毎日整えている手があった。


 朝の未織がいなくなった後、その手が動いていた。

 カウンターを拭いた。

 椅子を揃えた。

 カップの向きを直した。

 男が来る朝の前に、誰かがこの店を整えていた。


 急いでいない速度で。

 一つのことを終えてから次に移る速度で。


 人の気配があった。


 奥の暗がりに、動いている気配があった。

 曇りガラス越しのときより、輪郭がはっきりしていた。

 二人いた。


 男はそれ以上、窓を見なかった。


 歩き始めた。


 扉を通り過ぎた。

 赤みを帯びた夕光が、石畳の目地を長く照らしていた。

 影が長かった。

 朝の影と同じ長さだった。

 でも、方向がちがった。


 商店街の人通りが、背後に遠くなった。


     * * *


 夕暮れの光が、写真立ての額縁の側面を照らしていた。

 像が見えた。

 女が少し下を向いていた。

 カウンターの木が、均質に光っていた。

 椅子が、整然と並んでいた。

 奥に、二人の気配があった。

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