↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/22

18.ネコと仲良くなる方法

 車の下での休憩は、そう長くは続かなかった。


 タロは立ち上がると、駐車場前の道……ではなく、家と家の間にある塀の上に飛び乗った。


 伊倉も迷わず、身軽な動作で塀へと飛び乗る。


「ほら、時任も早く」

「もう少し歩きやすい道にできないのか?」

「そういうことは本人に言ってくれ」


 伊倉はそう言いながら両手を横に広げ、バランスを取って進んでいく。


「電脳世界だと、周りの目を気にせずこういうことができるからいいな」

「遊びじゃないんだぞ」


 時任も遅れて塀へとよじ登る。


 すると、タロは急にスピードを上げた。あっという間に狭い道を抜けて、反対側の道路へと出る。油断すると見失いそうな勢いだ。


 伊倉と時任も急いで後を追った。やっとのことで二人も道路に出ると、幸いなことにタロは十数メートル先をのんびり歩いていた。


 伊倉はホッと息をつく。


「危なかった。もう少し遅れてたら、逃げられていたところだ」

「別に、そうなったらまた時間を戻せばいいだけだろ」

「風情がないな」


 伊倉が嘆いている間にも、タロは道の先で角を曲がった。二人は急いで角までダッシュする。伊倉が角の先を覗き込むと、タロはやはりのんびりと歩いている。


「いたぞ。こっちだ」


 伊倉が手招きをし、時任が顔を覗かせた瞬間、またしてもタロが走り出した。伊倉が時任を引っ張る。


「追おう」

「分かっている」



 ◇



 何度目かの追いかけっこの後、伊倉は時任を見ながら首を傾げた。


「おかしい」

「何がだ」


 聞き返す時任を、伊倉は真っすぐに指差した。


「タロは、お前の姿を見て逃げている」

「はあ?」


 時任は思わず声が大きくなり、慌てて口を押えた。すると、その声に反応したかのようにタロがまたしても走り出した。


 小走りで後を追いかけながら、伊倉はからかうように言う。


「さっきからおかしいだろう。俺が角から顔を覗かせても反応しないのに、時任がやってくると走り出す。時任の声に反応して逃げ出す。タイミングが合いすぎている」

「意味が分からない。ここは電脳世界だ。過去の世界にいるあのネコが、俺たちに気がつくわけがない」

「なら、試してみよう」


 伊倉が提案したのは、単純な挟み撃ち作戦だった。


 伊倉がこのままタロの後を追い、時任はそれを追い抜くように回り込む。


 そうして二人で前後を挟んだ場合、タロはどういう行動を取るのか。


 伊倉は我ながら名案だと胸を張ったが、時任は不満を漏らした。


「どうして、俺が回り込む側なんだ」

「それはもちろん、警察の人間の方が体力あるし、走れるからだ」

「単に面倒ごとを押しつけているだけだろう」

「それは否定できない」

「……」


 時任はムッとしたが、それ以上反論はしなかった。


 次に訪れた曲がり角で、伊倉と別れて右折する。そして、時任はスピードを一気に上げた。


 伊倉の怪しい仮説をまずは否定しないことには話にならない。時任がそう考えているのは明白だった。


 一方の伊倉はというと、一人でタロの後を追っていた。


 しかし、タロは後ろを振り返って伊倉が一人であることを確認すると、すぐに足を止めて、その場に座り込んでしまった。


 伊倉はゆっくりと近づき、タロの横にしゃがみこむ。伊倉はタロに笑いかけた。


「もうすぐ戻って来るから、それまで待とう」

「にゃあん」


 一人と一匹は、並んで道端に座り込んで時任を待った。



 ◇



 待つこと数分、時任が姿を現した。その表情は険しい。


「こんなところで止まっているなら言ってくれ。随分先まで回り込んだんだが」

「連絡手段がなくてね」


 伊倉はバツが悪そうに笑った。そして横のタロへと目を向けると、先ほどまでいた場所にいない。


 伊倉が不思議に思って周囲を見回すと、タロは時任から身を隠すように、伊倉の後ろに回っていた。


「ほら、やっぱり」

「何がだ」


 時任は語気を強めるが、伊倉は時任をなだめるように肩に手を置いた。


「タロは、時任の姿が見えなくなった瞬間に立ち止まった。俺が横にしゃがみこんでも、逃げようとしなかった。それが、戻ってきた瞬間にこれだ」

「そんな馬鹿な」


 時任は伊倉の後ろを覗き込む。すると、タロはすぐに反応して今度は伊倉の前へと回り込む。伊倉の周りをグルグルと回る。追いかけっこだ。


「……」

「これで分かっただろう」


 伊倉は得意げだが、時任はいまだ納得いかないという表情だ。


「ありえない。このネコは過去の世界の住人だ。俺たちのことが認識できるわけがない」

「しかし、ネコって急に誰もいない虚空を見つめたりするだろう。それって、そういうことなんじゃないか?」


 時任は押し黙った。理屈の上ではありえない。しかし、目の前のタロの行動は、紛れもなく二人を認識できていることを示していた。


「でも――」

「それに」


 伊倉は時任を見て気の毒そうに笑う。


「時任、お前、動物に好かれるタイプじゃないだろう? タロに近づこうとする姿勢が、動物慣れしている人のそれじゃない」

「……昔から、動物は苦手なんだ」

「やはりそうか。それなら、一つコツを教えよう。犬や猫の場合、いきなり近づこうとしないほうがいい。まずは目を合わせて、ゆっくりとまばたきしてみろ。そうすれば、誰でもそれなりに仲良くなれる」

「適当言うな」

「本当なんだが……って」


 伊倉はふと我に返り、時任をつついた。


「タロが話に飽きたようだ」


 タロはいつの間にか立ち上がり、どこかへと向かって歩き出していた。


 慌てて追いかけようとする時任を、伊倉は腕を引っ張って止める。


「急いで追っても、さっきみたいに逃げるだけだ。別に刺激しなければ逃げないから、ゆっくり後をつければいい」

「……そうするか」


 時任は頷き、ゆっくりとタロの尾行を再開した。


 タロの大冒険は、まだ終わらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。