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S7−22



掛けられたおまじないは、

ホントにすごくて。



朝食を食べに出掛けた時も、

コーデを整えて会場に向かう時も、

短い練習時間の中でも。


ずっと、ずっと、自分の中で響いていた。




橋本先生から、“思いっきり演りなさい”と

メッセージが届いて。


出番前会うことはできなかったけど、

聴いてくれると信じて。

ステージ袖に立った。



同じように出番を待つ、

緊張で固まる子たちを。

まるで、他人事のように眺めて。


ライトに照らされたステージの

グランドピアノが、とても綺麗で。


早く弾きたいな、と。


それだけしかなかった。




風を巻き起こせるかな。


特大なやつ。唱磨くんが、

ビックリするくらいの。



彼が自分のこと、何百倍も好きって言うなら。


自分は、何万倍も好きで、埋めたい。


······

そこで、競う?




急に可笑しくなって、噴き出す。




まだまだ自分たちは、子どもだね。



大人になったら、きっと。


もっと表現も、上手くなってるかな。



それまで、もっと。

大好きになってるかな。


この気持ちは、変わりたくないな。





「小野田 夏芽さん。よろしくお願いします。」




自分の出番が、きた。



“はい”、と返事して、ステージへ向かう。




一際大きな拍手が、耳に届いた。



きっと彼だ、と。思わず笑顔になる。



ここで、笑うのは変かもしれないけど。


でも、今。すごく、嬉しい。




“「お前は、最強のピアニストだ。」”




自分は、ピアニスト。




“「譜に宿る命を、お前の音に変えて

  体現できる。誰にも真似できない。

  だから、遠慮なく思いっきり弾け。」”




譜に宿る命を、吹き込む。




“「風を巻き起こせ、夏芽。」”




起こすんだ。


自分だけの、風を。

























この日、一番の大きな拍手を受けた彼女は。


夢から覚めたように、ぼーっとして

ホテルのベッドに座っていた。



「お疲れさまーっ夏芽!おめでとう!もう、

 本当に本当にすごかったわ!」



テンション高めに、沙綾が

ぎゅーっと、ハグをする。



それを受けても、実感が湧いてこない。



「ママ、苦しいよ······」


「あぁごめんなさい!でも許して!

 しばらく、こうさせて!」



自分よりもママが、喜んでる気がする。



「やっと、スタートラインに

 立てただけだよ······?」


「何言ってるの!すごいことだわ!」




唱磨くんも、確かに嬉しそうだった。


的野先生も、橋本先生も。


みんな、笑顔で。



自分としては。

おまじないが、すごく効いただけで。


演奏が終わって、鳴り止まない拍手で

その効果が切れた。



何が起こったんだろう、と。


そう思うほど、驚いてしまうくらい。


夢中で、ピアノを弾いた。




そのお陰で。

コンクールの結果は、一位。

生まれて初めて、頂点というものを取れた。



嬉しいのは、勿論あるけど。

やっと認められた、と。

安心する方が強い。

去年の悔しさが、やっと。拭えた。




12月に行われる、特別公演。

場所は、神奈川の大きなホール。

コンクールの会場よりも、

ずっとずっと大きい。



もう気持ちは、それに向かっている。







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