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S7−19


頭が混乱する。



それが、きっかけ?



「橋本先生も······堕ろすのが理由で、

 病院に来てたの?」


「彼女は、子宮癌という大病を乗り越えて、

 定期検診で訪れていたの。」



癌。そんな。


それは、全く知らなかった。



「子どもができない身体になっても。

 彼女は、生きることに真っ直ぐで。

 少しも、それをマイナスとは

 捉えていなくて。姿勢よく歩くのが、

 とても綺麗で。

 ······あぁ。こんなに、強くなれるのかって。

 前向きにさせてくれた。」



橋本先生が、ママとの出会いに

口を開かなかったのは。


この事が、あったからなんだ。



「まず秀一さんに、打ち明けて。

 予想に反して、とても喜んでくれて。

 バタバタで入籍したの。······ふふっ。

 だから、付き合うっていうよりも

 もう、夫婦だったのよ。」



ある意味、それって。


めっちゃ、ドラマだと思う。



「橋本先生には、時間が許す限り

 相談に乗ってもらった。

 彼女がピアニストってことは、実は

 少し後で知ったの。

 知ってからは、取り憑かれたように

 あらゆるコンサートに通い詰めたわ。

 可能な限り、あなたに聴かせようって。

 恩人だからって。

 それが、伝わったのかしらね。

 あなたは応えるように、順調に

 すくすく育ていったのよ。

 彼女のピアノを聴くと、ご機嫌だったわ。」



じゃあ、生まれる前から。


自分は、橋本先生のピアノを知っていたんだ。



「······彼女は、ね。あなたのことを、

 実の娘のように思ってくれている。

 あなたの、“生きたい”っていう声が

 母性本能をくすぐったんだわ。」


「······全く、憶えてないんだけど。」


「ふふっ。そうでしょうね。」




ママと橋本先生の出会い。


想像していたよりも、特殊だった。


自分も関わっていたなんて、思わなかった。




「······ありがとう。ママ。」


「あら。何が?」


「隠さず、話してくれて。

 ······十分、ドラマじゃん。」


「ふふっ。そう思ってくれるなら、

 良かったわ。」




聞けて良かった。


橋本先生に対する見方も、

ピアノに対する気持ちも。


また少し、広がった気がする。




「······これだけは、言っておくわね。

 あなたを産んで、本当に良かった。

 あの時、橋本先生に出会ったのは

 ······神様から、踏み止まれという

 啓示だったと思っているの。

 大翔も、勿論。私たちを、

 強い絆で結び付けてくれた。

 本当に、感謝でいっぱい。

 私は幸せ者よ。」




曇りがない、ママの全開の笑顔。


青く澄んだ、青空のような。


とても綺麗で、清々しくて。


じんと、胸が熱くなった。




「こちらこそ、ありがとう。夏芽。

 これからもよろしくね。」




もしかしたら、ママは。


世界一、綺麗なんじゃないか。



それが錯覚でも、間違いはないと。

自分にとっては、そうなんだと。


自信を持って言える。




「うん。これからまた、

 いっぱい迷惑かけるけど。

 よろしくお願いします。」


「うふふっ。何言ってるの。

 いっぱい頼ってほしいわ。」




ママが、自分のママで。


本当に、良かった。







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