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S7−15


沙綾と秀一、夏芽の三人は向かい合い、

ダイニングテーブルを囲んで座った。



明らかに泣き腫らした娘の様子と、

真っ直ぐに背筋を伸ばして

しっかり伝える姿に。


二人は、真摯な眼差しで応える。




東京の高校へ進学したいこと。


その理由は、橋本先生の指南を受けたいこと。

ピアニストになる為であること。



包み隠さず、正直に。

彼女は、意思を表す。



話し終わると。しん、と

一時、静まり返った。



しばらくして口を開いたのは、沙綾である。



「実は、ね。ここに引っ越す前から、

 秀一さんと話し合ったことがあったの。

 あなたが将来、ピアノを選んで

 東京へ戻りたいって言ったら。

 必ずそれに応えようって。」



続くように、秀一が言葉を紡ぐ。



「······ただ、全員で行くことはできない。

 はるくんが、やっと笑顔を取り戻して

 元気になったのは······

 ここの環境と、僕たちが変わったからだと

 確信できたから。

 そして、なっちゃんも。

 ここへ帰ってこれなくなるのは、

 寂しいと思うんだ。

 拠り所として、ここに僕たちが

 留まった方がいい。」


「だから、夏芽。あなた一人で

 東京へ行って、住むことになるけど。

 それでも、大丈夫?」



両親の提示に、彼女は頷く。



一人で行くことになるのは、予想していた。


自分も、全く同じ考えだった。


やっと大翔が、笑顔を取り戻して。

この環境に慣れてきたところを、また

引っ越すというのは。

悲しい思いをさせてしまう。



「寮があるところ調べたの。それなら、

 二人とも安心だと思ったから。」



何をするにも、お金がいる。

それも、自分なりに分かっているつもりだ。



「勉強も、ピアノも。頑張るから。

 よろしくお願いします。」



深く、頭を下げる。



健気な願いと配慮に。

二人は、顔を見合わせた。


互いに心配するところは、一致している。



「······この事、唱磨くんに話したのよね?」



彼の名前が紡がれて。


ズキンと、胸の奥が痛んだ。



「······うん。背中を押してくれた。

 詳しいことは、まだ話してないけど。」



その痛みを。笑顔を作る原動力に変えて。


夏芽は、しっかり言葉を紡ぐ。



「自分はピアニストになって、

 彼は調律師になるんだ。それが、目標。」



夢ではなく。


現実として、向かっていく。


それはまだ、始まったばかりだ。



「お互いに、頑張っていくんだ。」




お互いに、叶ったら。


その時は、どんな景色が見えているのか。



今の自分たちじゃ、きっと。

想像もつかないほど、

広い世界が広がっている。


考え方も、見え方も。

きっと、もっと、広がっている。




「彼とは、これからも楽友として。

 繋がっていくつもりだよ。」




だから。


想い続けても、いいよね。


それは別に、迷惑かけないもん。



唱磨くんが大好き。これからも、ずっと。



ここを離れるまで、まだ。

一緒にいることができる。


楽しまなくちゃ。一緒にいる時間を。



彼が、笑ってくれたら。

幸せだったら。


自分も、幸せになれるから。








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