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S7−14


いつの間にか、クッキー袋を

彼に持たされて、笑顔で送り出され。


夏芽は、何も考えられないまま

帰路へついた。



強めに吹いた風は生温いが、

泣き腫らした目や

熱を持った頬にあたって、

涼しいと感じる。


外気の蒸し暑さが、気にならなかった。





自転車のスタンドを、カシャンと立てる。


すると、ジジッとタイミングよく

蝉が鳴いた。



もう、梅雨明けかな。


これから、暑い日が続くんだ。



真夏が、やってくる。

















「ただいま······」



力なく声掛けて玄関へ入ると、

元気よくパタパタと足音が響いてきた。



「なっちゃん!おかえり〜!」



大翔が、明るい笑顔で出迎える。


その輝きに、条件反射で

笑みを浮かべた。



「ただいま、はる。」


「······なっちゃん?」



充血した目と、腫れぼったい瞼。

姉の異変にすぐ気づいて、笑顔が崩れる。



「どうしたの?大丈夫?」


「······うん。大丈夫だよ。」


「おかえりなさい。」



遅れて出迎えた沙綾も、

娘の様子に気づく。


しかし、何も問わなかった。



いつもより遅い時間の帰宅。

それで、十分に予測がついた。


内容は分からずとも。

進んで歩いていけば、痛みが伴う事を

避けては通れない。



「······お疲れさま。」


「······ママ。話、聞いてもらってもいい?」


「ええ。その前に、ご飯食べなさい。

 お腹空いているでしょう?」


「······いらない。」


「なっちゃん。今夜はハンバーグだよ?

 美味しかったよ?」



元気づけようとする大翔に、夏芽は

トートバッグからクッキーが入った袋を

取り出して、差し出す。



「はい。大翔の分。今日は、

 メープルシロップ味のクッキー。

 めっちゃ美味しかったよ。」


「······うん。ありがとう。」



いつもなら大喜びするところだが、

彼女の様子が気になるのか

神妙な面持ちになる。



「パパも、聞いてほしい。」


「······分かった。呼んでくるわね。」




沙綾は、静かに去っていく。



心配そうに見上げる弟へ目を向け、微笑んだ。



「はる。自分ね、

 ママパパと大事な話があるの。

 終わったら、勉強見てあげるね。」


「······うん。」


「だから、部屋で待ってて。」


「······ぼくは、聞いちゃダメなの?」


「······ダメじゃないよ。でも、

 きちんと決まってからお話する。」


「······うん。分かった。」



サラサラで、ツヤツヤな頭を撫でると。

幾分、癒された。



彼は気にしながらも、二階へと上がっていく。




大翔は、優しすぎる。


だから、人の変化に敏感で。

自分の事のように考えてしまって、

寄り添いすぎて、受け流せなくなって

病んでしまった。



やっと、笑顔を取り戻せたのに。


もう、心配は。かけさせたくない。




これからだというのに。


しっかり、歩いていかないと。



別れるなんて、本当に嫌。


だけど、今は。歩いていかないと。

彼の言う通りだ。明日が、あるんだから。

まだ、彼と一緒に

日常を過ごせるんだから。

絶望するのは早い。



それこそ、歩いていかなければ。


彼と一緒にいる未来へ、辿り着けなくなる。








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