第四話~出発~
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ジンに刺された日、家に帰ると客がきているようで、玄関には見慣れない靴があった。
「誰だろう?」
龍は呟きながら靴を脱ぐ。
家に客がくるのは珍しいことだ。龍の父親が単身赴任でいない今、わざわざ家まで訪ねてくる者は少ない。
龍は自分の部屋に向かおうとした。しかし、すぐ近くの部屋から聞こえてくる話し声に立ち止まる。自分の名前が聞こえたような気がした。
「え………?」
部屋の障子を少しだけ開けて、中をのぞきみる。どきりとした。
「あれは………」
部屋の中には、自分の母親とジンがいた。彼らは深刻そうな顔をして話している。
「………それは、本当なの………?」
母親の声が震えている。
ジンはきっぱりと言いきった。
「我々の見立てに間違いはありません。お宅の息子さんは、異能者です」
龍は旋律した。
「僕が、異能者………?」
胸中に、複雑な思いが沸き起こる。
異能者といえば、人間と敵対する、あの異能者のことだろうか。まさか。でも、自分はそれ以外の異能者を知らない。
「………っ」
龍は思わず後ずさりする。しかし、聞きたくない会話は、嫌でも自分の耳に入ってくる。
「息子さんを、我々に預けてはくれませんか」
ジンは冷静だった。
「………」
母親は黙り込む。
龍にはその沈黙が、永遠のように長く感じられた。
やがて、母親が口を開く。
「……わかり、ました」
「!!」
龍の心が凍りつく。手から滑り落ちた通学かばんが、音を立てて床に落ちた。
その音に、室内にいた二人の視線が自分の方へと向けられる。
ジンが障子を開けた。
「聞いていたのか」
しかし、その言葉は龍には届かない。
龍の心は凍りついたまま。瞳はいっぱいに見開かれている。
「………っ」
龍はその場から逃げ出した。
「はぁ、はぁ………っ」
龍は走る。胸が痛くて、苦しい。でも、立ち止まるわけにはいかなかった。
相変わらず好奇の視線は向けられ続ける。
「………っ」
泣きたくなった。
信じたくはなかった。自分が異能者だと。でも、薄々気付いていた。屋上から落ちて死なないなんて、異能者以外にはありえない。
森の中へと足を踏み入れる。
「………っ、はぁ」
龍は息をついた。
ここは、街のはずれにある小高い丘だ。普段から人はほとんどやってこない。
「………これからどうしよう」
龍は呟く。つい家を飛び出してしまった。財布もなければ、金もない。
龍が近くの木にもたれかかったそのとき。
「どこへ行く」
「!?」
ジンがいた。彼は無表情でそこに立っている。
一体、いつからいたのだろう。
「君は誰だ?どうして僕の家に………?」
龍は無意識にジンから距離をとる。
ジンが答えた。
「俺は異能者だ。お前と同じ。お前の家へは、お前の母親と話をするために行った」
「………」
龍は俯く。もうあの家に、自分の居場所がないことを思い出してしまった。
ジンが近づいてくる。
「お前を月に連れていく」
「月………?」
龍は繰り返す。
月といえば、異能者が住むところだと聞いたことがある。
月に行ったら、居場所があるのだろうか。もう、こんな苦しい思いはしなくていいのだろうか。
気が付くと、目の前に見たことのない宇宙船のような物があらわれた。
「迎えだ………」
ジンが呟く。そして龍の方へと手を伸ばした。
「こい。もう地球に、お前の居場所はない」
「………っ」
龍はジンの手を見つめる。脳裏に咲の顔が浮かんだ。
直感が告げている。
月に行ったら、もう咲には会えない。
けれど。
「月に行ったらもう、皆から白い目で見られずにすむのか………?」
自分が月に行くことで、咲もそういう目で見られなくなるのなら………。
「ああ」
ジンが短く答える。
決めた。
「………そうか」
龍はジンの手をとった。
次回、新登場人物がたくさん出てきます。




