第5話 探偵への招待状
セラは逮捕された。
彼女が帳簿を盗み、ヴォスに渡したという証言も記録された。ただし、ヴォスは正式な監査資料として受け取ったのだと説明した。
殺人を命じたとは、セラも言っていない。
疑いと事実の間には、まだ大きな隙間があった。
テオは釈放された。彼は門の外で、姉へ頭を下げた。
「父さんの件を蒸し返されたら、姉さんの捜査官の資格が危なくなるって。監督官に言われて」
「それで、殺人を認めたの?」
「僕、うまく説明できなくて」
ミラは弟の頭を、両手で挟んだ。
「説明が下手なら、時間をかけて。自分を消して解決しないで」
テオが泣いた。
夕方、工房の親方が彼を迎えに来た。
「仕事は?」
テオは、小さな声で聞いた。
「遅れた分はある。針は逃げん」
「僕が戻って、いいの?」
「お前がやったという話と、やっていないという話なら、ちゃんと調べたほうを信じる」
親方はテオの手を見た。
「ただ、糸屑まで持って帰るな。お前の部屋、巣みたいだぞ」
少年が、泣きながら笑った。
ミラは、レインへ視線を寄こした。
「よかった、で終わらせるつもりはない。あの自白ができた理由を、調べる」
「はい」
「あなたの名前も、捜査協力者として残していい?」
レインは頷きかけて、少し考えた。
「間違っていた部分も、残してください」
「何が?」
「鍵が重要な遺言かもしれないと思いました。最初は、僕も」
ミラは短く笑った。
「そこを訂正できる人なら、また頼める」
レインはその夜、ハルへ事件の話をした。
老記録官は最後まで聞き、机に置かれた靴へ目を落とした。
「探偵になる前に、足を直せ」
靴底に、小さな穴が開いていた。
レインは門の飾りを数えていた。こういうとき、どこへ目を向ければいいのか分からない。
翌朝、彼の机へ封筒が届いた。
封蝋は黒。押された紋章は、羽根をくわえた狐だった。
『記録官殿。
君は昨日、魔法に勝ったのではない。
人が勝手に付け加えた意味を、一つ剥がした。
悪くない仕事だ。
次は、七年前の鏡を見てごらん。
今夜九時、白鷺館。
怪盗ノクス』
裏には招待券が二枚。王都最大の慈善競売だった。
ミラは封筒を日に透かした。
「犯罪予告ね」
「僕には、宿題に見えます」
「あなた、捜査協力の申請もまだなのよ」
「では、申請書の書き方を教えてください」
ミラは呆れた顔をして、それでも椅子を寄せた。
申請書の横へ、アルマンの帳簿の写しを広げる。
司法救済基金の支払い先。その一つは、白鷺館を経営する慈善財団だった。
「ノクスを捕まえる」
「鏡も見ます」
「両方よ」
ミラが言った。
その日の昼、レインは古い靴の底を修理に出した。
夜、怪盗に会うために。
捜査官と並んで歩いても、途中で底が抜けないように。




