第29話 魔法では解けない謎がある
押収された鞄には、七年前の検査原本があった。
納入前に外部の薬師が行った検査の原本と、火災当日にエデンが提出した再検査の控え。廉価な原料への変更によって、有毒な不純物が生じていた。
納入を決めたのは、ガルドが実質的に管理する白鷺財団だった。
納入前の検査原本には、ガルドの受領署名がある。火災の二日前。
病院へ届く前に、危険を知っていた。
さらに、患者が残っていることを伝えた倉庫警備員の報告に、焼却継続と命じた追記があった。筆跡と印章の検査、関係者の証言で、ガルドの指示と確認された。
安い薬を納め、差額を抜く。その証拠を焼き、三人の子供の死を作り、補償金まで奪う。
エデンが倉庫の異常を報告していたことが、彼を犯人に選ぶ理由になった。
レインは最終報告を読み上げた。
橋で二人を襲った男たちも、捜査の中で見つかった。白鷺館の管理人から報酬を受け取り、鞄を奪うよう命じられていた。管理人への指示は、長官室から出ている。
レインの報告書の最初には、アルマンの名があった。
彼は不正を見つけた。自分で写しを残した。それでも、死んだ。
次に、ハル。
古い記録の傷に気づいた。遅かったと思いながら、調べようとした。その前に、殺された。
解決した事件を、勝った事件と呼びたくはなかった。
レインは水を飲んだ。
ミラが、机の下で彼の靴先を軽く蹴る。
まだここにいる、という合図に思えた。
彼は続けた。
「この報告は、魔法を信じるなというものではありません。道具の答えを、道具が答えていないことへ広げないためのものです」
法廷には、鑑定官もいた。
最初の事件でテオの魔力痕を示した男は、ゆっくり頷いた。
「検出した事実と、そこから言える範囲を、鑑定書で分けます」
その約束も、レインは記録した。
「魔法鑑定の接触痕は、接触を示した。誓約石は、本人が嘘だと分かっているかを示した。封鎖結晶は、封鎖後に人が通ったかを示した。どの道具も、それ以上のことは証明していません」
ガルドは、椅子から動かなかった。
「その上へ、私たちが犯人という意味を足した。時刻を足した。死者の名前を足した。その中に、あなたたちは嘘を混ぜた」
報告が終わると、ミラが立った。
「父だけではありません。名前を奪われた死者、怖くて黙った子供、病院で亡くなった患者。その人たちを、まとめて一件と呼ばないでください」
レインは新しい紙を開いた。
そこへ、確認された一人ずつの名を書いた。
夜、ノクスが裁判所の屋根にいた。
「君は、私にも聞かないのか。なぜ七年もかかったか」
「聞いていいのなら」
「私は怖かった。三人を逃がしたと証言したら、偽証で捕らえると言われた。あの子たちまで見つかる。そう言い訳して、逃げた」
怪盗は、左手の包帯を見た。
「金持ちから盗んで、正義の顔をしていた。本当に会いに行くべき人には、行かずに」
「鏡を盗んだのは?」
「競売の品目に出た。まだ記憶が残っているかもしれない。今度こそ、一歩は戻れると思った」
彼は、長く息を吐いた。
「もう、英雄にはなれないね」
「英雄の記録は、作っていません」
レインは答えた。
「今日、人を助けた人の記録なら、あります」
ノクスは笑い、夜の街へ顔を向けた。
仮面の下で、何が零れたか。
レインは記録しなかった。




