第27話 正午、判決を盗む
ガルドは、翌日の慈善式典を中止しなかった。
白鷺館の玄関には、新しい花が飾られていた。
新聞には、長官の言葉が載った。
『監督官の独断による不祥事。厳正な調査を約束する』
財団の帳簿は、すでに差し押さえられている。だが、七年前の記録がまだ全部揃ったわけではない。
ガルドの命令書は見つかった。そこには、倉庫の証拠品を処分し、火災時刻を統一せよ、とある。焼却命令が人のいる建物の放火を意味すると知っていたかは、さらに確認が必要だった。
マウラは、長官室と保管庫の捜索令状を出した。
その朝、白鷺館へ黒いカードが届く。
『正午。
あなたが七年間、王都に見せてきた無罪の顔を頂く。
怪盗ノクス』
ミラは、レインにカードを見せた。
「この男、打ち合わせの言葉を選べないのかしら」
「選んだ結果が、これかもしれません」
ノクスは、司法長官の用意する演説より先に、資料の写しを人々へ届けるつもりだった。原本は捜査側へ提出する。
群衆に判決を下させるのではない。事件を、誰にも見えない場所へ戻させないためだった。
マウラも公表できる資料を選び、被害者の私生活に関わる部分を伏せた。証人の住所も載せない。
ノクスは、資料の一枚を指で押さえた。
「これは全部、明かせない?」
ヴォスの娘への援助の記録だった。
「病歴は、長官の責任を説明するために必要な部分だけを、法廷で扱う」
マウラが答えた。
「街へ撒く必要はない」
「長官が、どうやって人を従わせたかが分かる」
「そのために、何もしていない娘の暮らしを壊すのですか」
怪盗は黙った。
レインは彼から紙を受け取って、非公開の束へ戻した。
「あなたがエリたちの居場所を、ずっと伏せたのも、同じ理由でしょう」
ノクスは、左手袋の端を引いた。
「敵の家族だと、見方が変わる。悪い癖だ」
「気づいたら、変えられます」
ミラが言った。
マウラは公表用の紙へ、裁判所の告示印を押した。
怪盗はその作業を、静かに見ていた。
誰かの秘密を盗むのと、誰かを傷つけるために晒すのは、同じことではない。
彼も、その違いを選び直していた。
「珍しく、正規の手順ね」
ミラが言うと、ノクスは肩をすくめた。
「私の仕事にも、下調べというものがある」
「捜索令状があるから、勝手に金庫を開けないで」
「それは、残念だな」
狐の仮面が、レインへ向く。
「君は、法廷の席を盗んでくれ」
「席は申請します」
「同じじゃないか。座れなかった人を、そこへ座らせるんだ」
レインは返事に迷った。
ミラが先に言った。
「同じにはしない。その違いを、あなたにも覚えてもらう」
ノクスは、楽しそうに礼をした。




