↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第6章「魔法では解けない謎がある」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/30

第26話 監督官の娘

ヴォスは、朝まで何も話さなかった。


 尋問を担当するのは、オルドと、事件に関与していない捜査官。レインは記録のため同席した。


 机へ、失われた帳簿を置く。


「アルマンからセラが持ち出したものですね」


 返事はない。


「あなたがハルの部屋へ運んだ複製筒も、調べています。指示の声を入れ、空の溝で時間を空け、そのあと悲鳴が流れる長巻筒。時計の始動設定は、八時五十五分でした」


 ヴォスの目が、わずかに動いた。


 レインは続けた。


「僕はいつも、約束の五分前に着く。それを、申請の面会簿から見たのですか」


「遅れてきても、結果は変わらん」


 初めて言葉が出た。


「九時三分に悲鳴がする。衝立を回る。死体に触る。お前のような人間なら、放っておけない」


 ヴォスは、両手を机に置いた。


 いつも調書の余白を叩いていた指が、動かなくなった。


 レインは、握ったペンの先を見た。力を入れすぎて、紙に穴が開きそうだった。


「顔を見れば分かったのに、と思いました」


 彼は言った。


「先生が死んでいると分かっていれば、僕は騙されなかった。でも、先生は助からなかった」


 ヴォスは返事をしない。


「僕が気づかなかったことは、僕が調べます。あなたが先生を殺したことは、別に記録します。僕の失敗を、あなたの理由にしないでください」


 オルドが、机へ手を置いた。


 レインはペンの力を緩める。


 取調べは、相手を打ち負かすための場所ではない。自分の痛みを晴らす場所でもない。


 それでも、痛みのないふりをして座る必要まではなかった。


「続けてください」


 彼は、新しい紙を開いた。


 ヴォスの名前を、その上へ書く。


 罪人という二文字で、名前を潰さないように。


 名前を残したうえで、何をしたかを消さないように。


 芝居をやめた顔だった。


「ハルを殺した。原本を出すと言われた。筒へ悲鳴を録音して、用意した声のあとへ複製した。配達人として入って、八時四十分には出た」


 レインのペンが止まりそうになった。


 死者が善意を持っていたことを、殺人者は知っていた。


 自分が助けようとすることも。


「七年前も、あなたが?」


 オルドが尋ねた。


 ヴォスは目を閉じた。


「娘に、手術が必要だった。長官の紹介がなければ、順番が来なかった」


 それはガルドの犯罪に従った事情で、免罪の理由ではない。オルドはそう確認した。


「知っている」


 ヴォスは低く言った。


「だが一度助けられると、次の頼みを断れないと思い込む。病院の倉庫を焼け。報告を直せ。医師が犯人だとまとめろ。私は全部、やった」


「今も、お嬢さんを盾に?」


「もう成人している。私のしたことを知らない」


「彼女の安全は、別に守ります」


 オルドが言った。証言と引き換えではないと、明言した。


 ヴォスは、初めて相手を見た。


「長官が残した命令書がある。私の家の、壁の中だ」


 言葉にするまでに、七年がかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。