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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第5章「探偵が犯人になる夜」

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第25話 犯人のいない密室

セラは、療養棟へ移される予定になっていた。


 診療所の薬を使った治療が必要だと、移送書にはある。署名はヴォス。


 オルドが移送を止め、薬師が処方を確認した。


 箱に入った薬は、セラに必要なものではなかった。強い鎮静剤だった。


 その夜、テオはミラへ頼んだ。


「僕も、セラさんに会いたい」


「あなたを犯人にした人よ」


「だから。何をしたか、本人に言いたい」


 セラは面会室で、少年の顔を見られなかった。


 テオは、仕立て針を持ち込んでいなかった。


 そのかわり、青い布の小さな袋を机へ置いた。


「あなたのお母さんに頼まれた。眼鏡の袋、紐が取れたって」


 セラが顔を上げる。


「母に会ったの?」


「姉さんと。病院から預かった」


「どうして」


「お母さんは、僕を犯人にしていないから」


 セラは袋へ手を伸ばしかけて、止めた。


 テオは机の向こうへ押した。


「あなたのためにやったんじゃない。そこは、勘違いしないで」


「……分かっている」


「分かってほしいのは、僕が働く場所や、姉さんと食べる夕飯まで、なくなりかけたこと。自白したのは僕だけど、それを使ったのはあなたたちだ」


 レインは、少年の言葉をそのまま書いた。


 許すための面会ではなかった。


 怒った人が、怒りを誰へ向けるかを、自分で決めるための面会だった。


 ミラは弟の背中に手を置かなかった。


 自分の足で座った弟が、自分の言葉を言い終えるのを待っていた。


「僕は、人を殺していないのに、殺したと言った。あなたも、誰かのためだと思ってアルマンさんを殺したの?」


「自分のためよ」


 セラは、長く黙ったあとに答えた。


「母のためと言えば、楽になれる。でも、刑務所に入りたくなかったのは私。毒を選んだのも私」


 レインはその言葉を、遮らずに聞いた。


「帳簿を渡したときの、受領票がある。ヴォスは捨てろと言った。怖くて捨てられなかった」


 彼女が隠した場所は、母の入院先だった。


 看護師から正式に提出された受領票には、アルマンの帳簿、救済基金旧年度分と明記されていた。封蝋は監督官の印。


 ヴォスは、帳簿の所在を知らないと説明していた。


 その説明が、崩れた。


 マウラはヴォスの執務室と私物箱の捜索を許可した。


 複製用の録音筒、偽の配達帽子。手袋の縫い目にハルの血。失われた帳簿。


 別々に保管して、検査する。血の一致だけでなく、配達会社の制服の購入記録も確認された。


 ハルの机に残された紙は、筆跡の特徴が違っていた。肝心の帳簿をレインが受け取った痕跡もない。


 ヴォスの拘束が命じられた。


 レインの容疑は、その日のうちに解除された。


 彼はハルの作業室へ戻った。


 空になった椅子の前で、頭を下げる。


「先生。僕は、顔を見なかった」


 謝っても、返事はない。


 ミラが隣に立った。


「次は、確かめよう」


 レインは頷いた。


 密室に、殺人者はいなかった。


 彼がいたのは、密室ができる前だった。

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